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エマ・カルディア  作者: マシュマロポテト
プロローグ・物語は、ここから始まる
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ある長の日常_強欲者を統べる者

第一章、開幕です

 東は神秘の大瀑布から、西は世の壁アクサーガバル。

 南は内海の外、三千諸島。北は悠久の果て無き砂漠。

 広大な平原に、空駆ける家々の舞う王国が在る。


 国を廻すは一人の王と三つの派閥。

 これはその一つ、金と努力の体現者__【司商連】の物語。



 あらゆる商人、商家の元締めにして国の金を一手に背負う大商人、ガシュー・タンユ。 ーーーまたの名を、「強欲の金庫番」。




「どうか! どうかあと五日、いやあと三日待って下さい。」


 街の中央部。

 大金持ちの邸宅が建ち並ぶ中でも、特に大きな館の居間に一人の男が額を床に擦り付けている。


「あと三日、それで本国から隊商が来ます。それまで、それまでの猶予を!」


 額よ擦り切れろ、とばかりに頭を下げる男の後頭部を黒光りする高価な革靴が踏みにじる。


「今日の午後、日の入りまでにあと8000ユベロンだ」


 男の頭を踏みつける、高級な紫麻のシャツをだらしなく着崩した男は突き放す様に返す。

 真昼間から左右に酒の大瓶の山を作り、太巻き煙草の灰を足元の男の背中に落としながら、館の主はニヤリと笑い。


「なぁに、冗談冗談。俺だって人の子だぜぃ、返済期限は待ってやる」


「ほっ本当ですか!?  あがッ」


  男を再度強く踏みつける、彼は下卑た笑いを隠す事無く優しく告げる。


「まぁまぁ、そう急くなよ若いの。時は金と違って無限だぜぃ」


 嘘だ。彼の座右の銘は、全ては金なり、である。


「返済額の半分、4000ユベロンの返済は三日だけ待ってやる」


「ぁ…あ、あ、ありがとうございます。このご恩はかならグギャ」


  笑いで声が震えるのをわざとらしく隠して、彼の商談(・・)が始まる。


「まぁ待て。ただなぁ、そう無条件で期限延長しちまうとなぁ、他の奴らに示しがつかないだろう?」


「はぁ…」


「それになぁ、返済遅れるって商人として、どうなのよ?信頼第一の仕事でしょ?」


「もッ申し訳ありませんでした。……ですが!」


「あぁ? 誰に口答えしてんだゴラァ! 」

 

 弛んだ顔が一気に鬼の形相となり、愚かな商人は蹴り飛ばされる。


「そういう態度なら仕方ねぇ、延期はなしだな」


 飴と鞭、見事なまでに態度を変えた金貸しに、商人は慌ててひざまずく。


「どうか!どうかそれだけは!家で娘が病気なのです。今ここで倒産する訳にはいかないのです。」


 涙と狼狽で見苦しく顔を歪めた商人は、必死に金貸しに縋り付く。


「ああそう。なら、娘を寄越せ。それで返済は三日待ってやる」


「へ?」


「へ、じゃねぇよ。どうせ返済待たなきゃ死ぬ命、それなら俺に可愛がられた方がマシだろうがよぉ」


 ニタァッと好相を崩し、商人に商売と娘を天秤に掛けさせる。


 従えばこんな下衆な男のことだ、娘がどうなるか、なんて目に見えている。

 だが娘を差し出さねば、男は借金でこのまま首を吊らなければならなくなる。


 散々迷った末、商人は。


「……分かりました。返済の延長をお願いします。」


 娘を差し出した。


「娘を差し出すと?」


「はい、それも一族の繁栄を思えば仕方ありません」


「くっくっく、ならば速やかに家に戻って娘の用意をしろ。三日後、残りの半額と共に引き渡しだ」


 なら早く4000ユベロン置いて失せろ!。 

 ビクッとなり、追い払われる様に商人は部屋から飛び出していく。

 その後姿を見送り、金貸しは手元のベルを小さく鳴らす。




「お呼びで御座いましょうか、タンユ様?」


(ドアの直ぐ外に控えて居たくせに、よく言う)

  金貸しーーガシュー・タンユは、いつにも増して慇懃な小間使いを眺めながら、酒瓶をまた一本、空にする。


「おいおい、どーしたってんだよ。なんだ?まさか自分と同じ境遇になる娘っ子を哀れんでるってかぁ?」


「……旦那様、御用件を」


(冗談に乗る気配なしっと)

 砂の民特有の、白っぽい髪や変化の乏しい表情と合わせて、人形の様な娘だ。


「相変わらず連れねーなぁ、マリエラ。…仕事だ。今の男、あいつの周りの金の流れを全力で止めろ」


「…よろしいのですか?」


 借金の返済を待たずに男の金を締めれば、もちろんタンユの手元に来る金も減る。


「なぁに、あの男が借金を重ねて、こんどは何を差し出すか気になるだろう?」


  その程度の借金額で揺らぐ程、タンユの金庫は軽く無い。

 むしろ金を食い潰す害虫が減る事で、よりスマートに金と物が流れる事になる。

 もとよりあの男は消すつもりだったのだ。


「取り潰された商家の悲惨な末路から救い出すのです、幸せな娘です。」


 眉一つ動かさず、ピクリともしないマリエラに苦笑しつつも、的確に金の流れに指示を出していく。


 自分に慈悲の心など無い、タンユ自身が一番よく知っている事だ。

 人を潰して金を得る、ただ己の欲の赴く儘に。






異郷の大地に蠢く無数の金のと商人。そのすべてを掌握し、気まぐれに生かしては殺す。

全てはガシュー・タンユのーー「欲深き金庫番」の、掌の上にて。


いかがだったでしょうか?

黒幕、ガシュー・タンユ。

その日常の一幕でした。

2013/2/15 改訂しました

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