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エマ・カルディア  作者: マシュマロポテト
プロローグ・物語は、ここから始まる
5/27

独白のち夜明け

短めの話を少し。


 

 人は、外部からの刺激が減ると意識は自身の内面に向かうという。

  もしそうだとしたら、なるほど真っ暗な移像室ほど相応しい場所はそれこそ牢獄くらいだろう。


 写真家・ラサのこれまでの十七年の人生は一言で表すなら『平凡な』である。

 平凡な街の中流の家庭に生まれ、人より誇れることなど中途半端に豊富な体験ぐらいだ。

 平凡すぎて嫌になり家を飛び出した。

 よくある話過ぎてむしろ平凡な家出は、偶然出会った写影機と共に大きく変貌する。


 暗闇の中、一人慣れ親しんだ移像作業に没頭しながら、頭に浮かぶのは他愛も無い思い出。


 乗り合いの大型家船の忘れ物置き場にポツリと置かれた古い写影機。

 気がつくとそれを抱えて歩いていた。

ーー人が、では無く機械が主を選んだのなら仕方が無い。持って行きなさいーー

 落し物置き場の職員さんに掛けられたであろう言葉だけが頭の中をグルグル回っていた。


  それからの生活は必死であった。


 写真家は市民に嫌われ易い。金持ちに擦り寄り、魂を吸い取るカラクリを持ち歩く悪魔だ、と罵られることもあった。

 腕のいい写真家について一年。写真のイロハから家舟の操縦に棒術、炊事に洗濯と様々なことを教わった。

__合格だ__

 あのピンぼけした日の出の写真が完成したとき師匠に言われた。

__これからお前はお前の撮りたい物を撮れ、___

 師匠と別れた俺はたくさん馬鹿なことをした。

 世界の壁の山 アクサーガバル を越えようとしたり、何日も飲まず食わずで遭難したことも一度や二度ではない。

 正直、自分でも馬鹿だと思う。

 それでも、その度に得る物はあった。

 冒険者紛いのこともよくやった。

 馬鹿にされもしたし罵られもした。


 それでも、 命を張って撮った写真が売れたときは嬉しかった。

 僅差でほかの奴に売り込みで負けて、酒場で延々愚痴って居たこともある。

 そして今は砂漠のど真ん中で女の子と二人っきり。

 どれも平凡なままの自分では決して出来なかった体験だ。

 故に写真家・ラサは誇ることができる。

 自分は写真家である、と。

 

 幽かな光源のなか、手元のたらいに慎重に小瓶の中身を注ぐ。

 貴重な色薬は、写影機から取り出した写真布に絡み付き、白黒のイーニェイの絵に色彩を与えて行く。

 十分に色がしみ込んだのを見計らって、上から更に固定液を注いで、色薬の上に皮膜をつくる。

 色が固定されたのを見計らって布を液から出し、そーっと干し台に掛けて出来上がり。

 後は日が昇るまで干して完成だ。

 すっかり小さくなった蝋燭を消し、満天の星空の下に出る。

 

 辛苦を共にした写影機を磨きながら空を眺めていると、何時の間にか辺りが白み始めていた。

 西の空の沈みかけの月を見ているとイーニェイが起きてきた。


「おはよう」


「……おはようラサ。今朝は早起きだな、珍しい」


 ハッハッハ、今は何を言われても許そう。

 なぜなら、


「写真の移像が終わったぞー!」


 いきなり大声で叫ぶ。ぎょっとしたイーニェイが距離をあけるが気にするか!!

 徹夜明けってのはハジケタ気分になるものなんだ。 

 さて、徹夜明けでそろそろ眠たい。おやふみ……

 

 「まて、朝ごはんだ」


 イーニェイさん……俺、眠いんだが。


「ダメ、起きる」


 こうして、何気ない会話でまた新しい一日が始まる。




『水の都』までの道はあと僅か……………

2013/2/9 改訂しました


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