悪魔の誘惑のち一つの問いかけ
ほんっとうにお待たせしました!ゴメンナサイ!!
三章スタートです。
これから更新速度は上げていきたいのですが、受験生的にはあまりこっちに時間をかけるのはマズいので……
なにとぞご容赦ください
「君は、我らのことをどれだけ知っておる?」
赤き牛の名を冠する氏族の長、アゲダラ・ヤッドはそう言った。
「君と、君の連れてきた『無印の娘』とが、我らの砂漠にもたらした意味。それがどれほどのものか、分かっておるのか?」
重々しい、耳ではなく心の底から響いてくる様な声で、牛の族長は俺に問いただす。
村の広場に焚かれた、砂漠の民独特の翠のかがり火。その踊るように揺らめく影のせいで表情──そしてその心は、読めない。
「……否……君は、何を知っている」
重々しく、それでいて相手を落ち着かせる様な、そのくせ拒絶を許さない気迫に満ちた『帝国語』で。
アゲダラ・ヤッドはただ、俺の無知の事実のみを突きつけた。
****
俺たちがティ・サーリルに連行されて少ししてから、アゲダラ・ヤッドはサーリルのある盆地に帰ってきたらしい。
その頃俺たちは………というか俺は、両手を後ろに縛られて狭い寝小屋に放り込まれていた。
「痛いなぁ。…ったく、リーダー男野郎の手下一号だからって偉そうにしやがって」
両手を封じられて満足に受け身もとれない人間を、まるで荷物を放り投げるように寝小屋に押し込まれたことに文句をいう。
『黙っておけ』
連行中も言われ慣れたフレーズに、耳が勝手に翻訳を掛けてくれる。
それにしてもここは狭い。
砂漠の民全般に言えることかは定かでないが、少なくともこのティ・サーリルの寝小屋は狭い。
何せ建築に使われているのは、真ん中の支柱(何かの骨)とテントの様な天幕(何かの皮、繕った様な後がある)のみ。
一応申し訳程度に床にも皮が敷いてあるが、寝そべった身体の下に感じるのはほぼダイレクトな砂の感触。
完全に寝るためだけの施設、と言った感じだ。
「はぁ……にしても足が痛い。」
今日一日でどれくらい歩いたのか、見当もつかない。
砂っぽい敷物の上にごろりと横になる。
途端に地面に吸い込まれる様な疲労を感じて、思わず言葉が口から漏れる。
『だまれだまれ!!』
寝小屋の外にいた見張り番が俺の声を聞きつけたのか、天幕の皮越しにお尻を蹴られた。
短気な奴を見張りにおいておくのは、正直人選ミスなんじゃないかだろうか。
にしても狭い。本当に狭い。
支柱にしているのが動物の骨だというところからも分かるように、高さはせいぜい、中で膝立ち出来るかどうか、と言ったところ。
寝転がることは出来ても、足を伸ばせば天幕の外に足が出てしまう程度の横幅も相まって、ただ是さえ狭い寝小屋はいっそ息苦しいと呼んでも問題ない程に狭苦しい。
「………ダメだ。…さすがに言葉も通じない様な連中の中で寝るのは……まず…い…………」
まずい。
一日中慣れない砂漠を強行軍させられたせいか、横になっていると頭がぽーっとしてくる。
下はダイレクト砂地だし狭苦しくカビ臭い寝小屋の中なのだが、そんなことがまるで気にならないくらいに瞼が重い。
寝るな。寝ちゃダメだ。
頭の中で天使がそう囁いているのだが………。人の意識という奴は、いつだって甘美な方へ流されやすいものなのだ。
****
「痛っ!!」
目覚めは頭部への強い衝撃と共にやってきた。
『起きろゴミ!アゲダラ・ヤッド待つ』
痛む頭を抱えながら、罵声だけは流暢に翻訳できてしまうって……と違う意味でも頭を抱えたくなる。
というか後半に出てきた『アゲダラ・ヤッド』という単語。これが訳せないから翻訳版が下手な片言の様になってしまっているのだ。
『待つ』という動詞とセットである以上、『アゲダラ・ヤッド』人か、あるいは場所であり、そこで誰かが待っている、という様な意味の発言ということであろう。
人………人名………『アゲダラ・ヤッド』。
駄目だ。唯一気が事があるとすれば、そういえばリーダー男の本名知らないな〜、ということくらい。
そもそもラファル以外に名前知らないしな。
などと寝そべったままで下らないことを考えていると、またしても手下一号に蹴られる。
『来いゴミ。立て、寝るな!』
とうとう耳が勝手に翻訳してくれるようになった。一日でかなり進歩したものだ。俺って実は天才だったのだろうか、なんて思わなくもないが、生憎身近に片言とはいえ異国の言葉を一日で話せるようになった本物の天才がいるのでそんなに誇れることでは無い気もする。
まして自動翻訳は罵声語だけという……。これがすいすい使える自分の待遇が少し悲しい。
そう言えばイーニェイの奴は何処にいるのだろうか。
ティ・サーリルに連れてこられたあと、別々の場所に連れて行かれたのだが……。
『起きろ! 殺すぞ!!』
とうとう手下一号が本気で脅して来たので、大急ぎで起き上がる。
マジでこの人見張りとかに向いてない。
『こっち、来る!』
着いてこい、ということらしい。
手は相変わらず後ろで縛られたままなので歩きにくいが、少し休んだおかげか、足取りは思ったよりしっかりしている。
そのまま大人しく着いて行きながら、周りを観察して歩く。
俺が放り込まれていた狭い寝小屋があるのは集落の外周部。そこから中央を目指すようにして他の寝小屋の間を縫って進んでいく。
さっきまで寝ていた物より、明らかに広くて居心地の良さそうな寝小屋たち。時々そこから子供の顔が飛び出しては、中に引き戻される。
見ちゃいけません、てか。
まあ確かに異国情緒溢れる、というか完全に余所者感丸出しな俺を警戒するのは仕方ないのだろう。
ここに着いたときに見た、平和な素の面を知っている身としては、たとえ仕方ないにしてもここまで露骨に警戒されるとここが痛む。
あと気になったことがある。
ここの連中。つまりティ・サーリルの連中の顔には、みな一様にある模様が書かれていた。
リーダー男や、その他俺たちを連れてきた連中の顔を見たときから気になっていたのだが、今子供の顔にも同じ物があるのを見て確信した。
多分ティ・サーリルに所属している、言う証なのだろ。
描かれている場所は額と両頬で、額には二本の角。頬には三本の縦線。額の角は牛のそれのような半円形で、頬の縦線は大人にしかなかった。
集落内での位分け、と言った感じなのだろうか。
イーニェイの顔にはそんな印は無かったので、少し気になる。
と、そんなことを考えているうちに集落の中央部であろう広場に到着した。
広場の真ん中では、砂漠の民が使っている独特の燃料のせいか、緑がかった炎がで大きく燃えている。
そのかがり火に背を向けて、幾人かの人影があった。
一人はゴツい体格の大男。シルエットが妙な輪郭をしているのは、多分やたらと着飾った、骨やら何やらの装飾品が原因だろう。
もう一人は対照的に、必要最低限の衣装だけ。手下一号の俺への扱いに眉をひそめているのが、かがり火の逆光越しでもよくわかる。
そして、そんなリーダー男とラファルの間に挟まれるようにして座っている人物だけは、見覚えが無い。
俯き、瞑目している上にかがり火が逆光のせいで詳しくは分からないが、そこそこ年齢は往っているようだ。
そう言えばイーニェイは……。と見渡すと、その先には、彼らの前で俺と同じように後ろで手を縛られたイーニェが座っていた。
『こっちだ。来いクソ野郎』
乱暴な口調でリーダー男が吠え、手を縛っている革ひもの先端を手下一号にから受け取る。
ぐっと引っ張られ、またしてもつんのめりかけながら、なんとか彼らの足元に着地。
それを見たリーダー男は、俺を連れてきた手下一号を下がらせ、自分毛皮の敷物の上に座り込む。
同じようにラファルも着席したのを見届けると、ついに老人が頭を上げる。
いや、老人というのは少し厳しいか?
たしかに歳は初老なのだが、その姿勢や、何より彼の力強い視線が、彼を『年寄り』と呼ぶことを躊躇わせた。
射抜く様な目。
目をそらしたくなる様な、それでいて、目を逸らすことすら許さない眼に射すくめられる。
そのまましばらく、瞬き一つせずに沈黙していた彼がようやく口を開き───。
「儂はアゲダラ・ヤッド。ティ・サーリルの族長をしておる。早速で申し訳ないのだが………
───君は、何をしっている?」
流暢な帝国語で、そう尋ねた。
次回「族長のち異邦人」(の予定)
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現在、学校の課題研究のため「魔法使いになりたい剣士と魔法の使えない大魔法使い」「魔法使いが森を往く」「ノウブル・レゴメンド」の三つの短編を掲載しています。詳しくは活動報告まで!!
http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/726075/




