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エマ・カルディア  作者: マシュマロポテト
第二章 第六新規開発区調査編
23/27

赤熱の商庸団─2

名前を「赤熱の商庸団」に変更しました。

 カラフルな凧を風に靡かせ、家舟が空を行く国─王国─その歴史は戦争と略奪の歴史と同義である。

 もともと王国は、ただの王国ではなくきちんとした名があった。

 リボンハイド王国。風の抜ける広大な平原の一角でしかなかった小国は、今より三代前の王の時代に大きく発展することとなった。


 侵略王。

 後の世にそう呼ばれる王の元、リボンハイド王国は平原の諸国を瞬く間に統一。さらには南海の民、大山脈の隠れ里すら余さず平定して行った。

 かくして見渡す限りの世界の大半を手にしたリボンハイドの王国は、もはやその呼び名とせず、いつの頃からか、だだ王国だけ呼ばれるようになった。


 侵略王が亡くなると、当然のように国は激しく乱れた。

 偉大な支配者のあとは国が乱れるのは世の常。そんな無情に立ち向かったのこそ、侵略王の第一王子。

 屈強な父王に比べて大人しく、戦より書の世界に魅了されていた王子は、父の築いた国を守るために立ち上がる。 

 

 旧リボンハイドの貴族や被支配国の元支配者たちの間で裏に表に活躍し、広大な国は第一王子──後の名君王のもと、真に一つにまとまていく。 

 名君王がその生涯を捧げて定めた「王国師範法」のもとに国は纏まり、征服者と被制服民族の溝は少しずつ埋まって行った。

 

ところが人間という生き物は、ただ平穏に過ごす事ができないの生き物である。

 名君王の埋めた民族の溝は、国を動かす三つの派閥の溝として再び世に現れた。


 名君王に取り立てられた亡国の支配者たち。〈血筋〉と〈名誉〉の肯定者、《貴族院》。

 力持たぬ商人達の同盟に端を発する〈金〉と〈努力〉の体現者、《司商連》。

 王国の統治とともに広まった創造神を祀る〈祈り〉と〈信仰〉の保証者、《聖堂派》。


 それぞれがうちに内紛の気配を孕み、広い王国に火種を巻き続けている。

 そうした長きにわたる王国動乱の歴史の中で、いつの頃からか特殊な傭兵たちが姿を見せ始めていた。

 トレジャーハンターから討伐者、当然護衛や傭兵家業までお手の物。商人のように金に執着する傭兵は、いつの頃からか商庸団と呼ばれるようになっていた。




 アヴァール商傭団もそんな世間のあぶれ者の一角として、その筋では有名な荒くれ者達だ。

 向かう所敵なしとも、関わるだけで寿命が縮むとも言われる変わり者。

 たった5人の団員を率いて、他の商庸団なら手を引く様な危険な仕事をいくつも成し遂げてきた伝説的な団長、ララバイ・アヴァールは。


「ふああ……つまらん」


 砂山羊の背で退屈を持て余していた。

 

「団長、たのむから大人しくしといてくださいよ。この暑いのに騎乗スクワットとかしたら山羊の方が死にます」


「ふん! 分かっとるわい。だがなぁハゲ、こう退屈だと俺の方が死ぬ」


「人は退屈では死にませんよ……」


 隣で同じように砂山羊に跨がっていた疲れた中年風の男が苦言を漏らすが、いつも道理に聞く耳は持ってもらえない。

 

「大体ようハゲ、俺だってそんなことは分かってるんだぜえ? それをちっと口に出したくらい気にすんなよ。そんなんだからハゲなんだよ」


「どういう理屈ですか!!」


 疲れた中年 ─ハゲ─ は頭頂部まで競り上がった額を思わず押さえながら絶叫する。


「いいじゃねえか、どうせここには身内しか居ねーんだから」


「そうっすよ。それに呼び名は団長がコードネーム決めたときに諦めたっしょ?『ハゲ』」


「呼び名は諦めたけどそれでも気になる物は気になるんですよ!! つか身内って依頼人様居るでしょうが!」


 はあはあと息を荒げてツッコミをさばくハゲ。

 話に入ってきた小男 ─チビ─ はそのツッコミに、後方で四頭の砂山羊に担がせた籠に視線をやった。

 

「ハッハッハ。何か呼んだかね?」


 籠からヒョコリと顔だけ器用に突き出したのは、この糞暑い砂漠になぜか黒服山高帽という暑苦しい格好をした初老の老人。


「いえ呼んでないんで出てこないでください、危ないから」


 そうかい、と言い残してまたひょっこりと籠に引っ込む依頼人。


「くっくっく。相変わらずぶっ飛んだ爺だぜ」


「そうっすか? 確かにこの距離でこっちの声聞き取るってのはすごいでやんすが」


 そうじゃねーんだがな〜。ララバイは心の中でこっそりと呟く。

 

(あの不安定な籠の中で、籠を揺らすこと無く首だけ出すとか……俺でもできるか分からんぞ)


「そんなことよりチビ、お前こんなとこに居ていいのか? 仕事しろ仕事」


「いいんすよ、今はガキの時間なんで」


 仕事、というのは当然商庸団としての仕事。

 部隊の本体より前方にでて周囲を索敵するのが主な役割となる。


 まあ一口に商庸団といっても、危険な動植物の討伐やその部位の売買などの冒険者めいた物から大商人の警護まで、商庸団の仕事の幅は広い。

 現在アヴァール商庸団が請け負っているのは、今も籠の中で聞き耳を立てているであろう老人の移送、となっている。


 目的地を告げられぬまま、気がつけば一行は砂漠のど真ん中を彷徨っていた。

 

「ほんとに大丈夫なんだろうな……ガキに任せてて気がついたら囲まれてました、とかシャレにならんぞ」



「とか言っちゃって、分かってますよ団長。団長はちゃーんと信じてるんですよね」


「喧しいは!! そんなに潰されたいか、このドチビ」


 護衛任務は、いかに早く敵を発見するか、と言う点で索敵の重要度は高い。


「あっ!! ドチビって言いましたかドチビって。せめてコードネームだからチビって言われるの我慢してたのに!」


「おいチビ、さっきと言ってること違うだろ!」


 大の大人三人が、砂山羊の上で戯れいる姿は、それはそれは見苦しい。


「ってか大丈夫っすよ。後ろでクモがしっかり仕事してますから」


 バカと呑気の多いアヴァール商傭団の唯一の良心。投げ縄や不意打ちを得意とする寡黙な仕事人間という特徴から、団長であるララバイに安易に名前を決められた苦労人は今日も仕事を押し付けられているらしい。


「ガッハッハ。クモか、なんか見かけねえなと思ったらそんなことしてやがったのか。 うん、あいつなら大丈夫だろ」


 ララバイが豪快に笑い、チビがぼけてハゲがつっこむ。

 そこにガキが入ってきて混ぜ繰り返し、クモは黙って後始末の準備を始める。

 天下のアヴァール商傭団は、今日も平常運転で砂漠を彷徨う。






 かの侵略王が唯一、その統治の手を広げることができなかった土地。

 王国の北方に広がる広大な砂漠を王国の侵略から守り抜いたのは、その過酷な暑さや舞い飛ぶ砂嵐ではなかった。


 砂色の世界に潜む最大の脅威こそ、極薄の刀身を持つ巨大な薄斧(うすおの)を持ち、獣の皮の衣に身を包んだ勇猛で排他的な異教の民族。──砂の民

 光を通さぬ白髪の彼らからの護衛こそ、アヴァール商傭団の今回の仕事だ







少数精鋭、やるときはやる? アヴァール商傭団でした!


 次回は本編、ラサに視点を戻して「連行と実態」を予定しております。

 予定・・しております!!

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