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エマ・カルディア  作者: マシュマロポテト
第二章 第六新規開発区調査編
22/27

休憩のち急速

遅くなりました!!


遅くなった訳(言い訳)は活動報告にのせています、ご勘弁を……

 

 トゲトゲ。トゲトゲ。


 視界が悪い……というか痛い。

 あたりを見渡せば、大きく伸びたカクトス─覇王樹─がいい感じに日差しを遮ってくれている。

 ──が、おかげで視界に入ってくるモノが痛々しくて碌に休むことも出来ない。


「なあイーニェイ……これってほんとに休めるのか?」


「? しっかり休んだ方が良いヨ。ここからまだシバラク歩く」


 うーん。そう言うことが言いたいんじゃなくて………

 というかこいつはなんでこんなにくつろいで居られるんだ?

 日影のおかげで、ここは他よりも気温が低くなっている。キツイ日光にさらされ続けていた肌が冷やされ、ともすれば薄ら寒くなってくる程だ。

 火照った身体もいい感じに冷やされ、何より熱くない地面に腰を下ろせるのがありがたい。

 半日歩きどおしだった足はパンパンになっているし、日光の反射にやられて目も痛む。

 本来ならゆっくり休んで体力の回復に務めるのが筋ってもんなんだろうが、生憎ここにいては精神的にちっとも休まる気がしない。

 

 ここは、覇王樹(サボテン)の背の高い茂みのなか。腕の様な形をした枝が互いに複雑に伸びて出来た……まぁなんというかドームような場所だ。

 もっともドームといっても、それは正面から見たときの話で、こうして中に入ってみると砂漠の高い空が見える。

 外からみると一つの塊のような覇王樹も、腹ばいになって棘の少ない下から潜り込むと、中は意外に広い。

 とはいえ流石に背中の荷物を担いで入れる程は広くないので、荷物は一旦下ろして近くに置いておく。砂に埋まっても大丈夫なように、一際長かった棘を折り取ってきて荷物のすぐ横につき立ててから、俺とイーニェイはその中に入った。


 中は枝の間から漏れてくる弱い日差しで少し薄暗く、空気は微かに湿り気を帯びている。

 空が見えるとはいえ覇王樹が影になって、太陽の光も直接は中に届いてこない。砂に反射した光も遮られているため、しばらくぶりに目を休めることができた。

 立ち上がると棘が刺さりそうで怖いので、出来るだけ真ん中の方で膝を抱えるようにして座り込む。


 ようやく人心地ついて、イーニェイの方を見ると、なにやら隅の方にしゃがみ込んでブツブツ呟いていた。


「……なに、やってんの?」


「しっ!! ズロセロ,ライール,インアーシュ,タブラ..」


 砂漠の言葉で何かを口ずさんだ後、振り返ったイーニェイはいかにも怒ってます! と言った顔で


「ラサ! ワタシ今プロイス! 話しかけるダメ!」


 と文句を言った。


 どうもこのプロイスというやつは、王国語で言うところの『祈り』とか『感謝』に当たるものらしい。

 イーニェイもよく狩りで獲物を捕えたときにやっているので、何となく想像がついた。

 祈りの文句は毎回違うので何を言っているのかまでは分からないが、相手の霊に傷つけたことを謝罪するのが目的らしい。

 

「邪魔したのは悪かったけどさ、なにやってたんだ?」


「だからプロイス!! カクトスは偉大なの! 御願いしてマアァ貰うの」


 マアァ。『水』という単語では無く、あえてその単語を使ったということにはそれだけ意味があるのだろう。

 水はこの乾いた砂漠ではとても貴重なもの。それはここに着てから嫌という程学んだことに一つだ。

 その水─マアァ─を恵んでくれる覇王樹の木は、砂漠の民に無くてはならない存在ということか。


「で水を貰うって、具体的にどうするんだ? 祈ってたら湧いてくるわけじゃないだろ?」


「黙ってみてて!」


 そういってイーニェイは、外で折り取って来た長めの棘を振りかぶる。

 棘。といっても握れるくらいには太く、握れば武器に代用できるくらいには長く鋭い物だ。 

 そんな物で突き刺されれば、固い覇王樹の幹も無事ではない。

 

「お、おい! いいのかそんなことして!?」


 おいおいいきなり過ぎるだろ!

 いくら何でも偉大とか言った矢先に、いきなり攻撃するとは思わなかった。

 イーニェイは、後ろで俺が慌てても御構いなしに、突き立てた棘をグリグリと動かし穴を広げていく。

 やがてその暴挙が止んだときには、小指が入ってしまう程の穴が開いてしまっている。


「大丈夫なのかこれ!? なんかすげーぽっかり開いちゃってるんだけど!」


「ラサ静かに。騒ぐとカクトスのラウフ怒る。ラウフ怒るとマアァ貰えない」


 しっ! と唇に指を押し当て、腰に吊っていた水袋の口をもう片方の手で器用にほどく。

 そのままもう一度俺にむかってしっ! やってから、さっき開けた穴に向き直る。

 荷物はあらかた外に置いてきてしまっていたが、これは持ち込んでいたらしい。

 棘を脇に置いて、骨でできた小振りなナイフに持ち替えるとそれを穴に添えるように当てる。

 ナイフの表面に水滴が流れていくのを見て、ようやく合点がいった。

 

 確かに俺も聞いたことがある。

 カクトス──つまり覇王樹──は、地下に広く根を張る。

 そこから水を吸い上げ、独特の形をした幹はその水を蒸散させること無く内側に溜め込む。

 言って見れば天然の貯水タンクというわけだ。

 

 砂山羊の皮を細く裂いてつくった紐でナイフと水袋を固定し、額を腕で拭ってからイーニェイもようやく雰囲気が少し軽くなる。


「お、お疲れさん」


 怒ってるかなー、と素直にねぎらってみる。


「!!」


 そこで改めて俺が居たことを思い出したのだろう。

 あからさまにぎこちない動作でこっちに振り返るが、この暗がりでも分かるほどに目が泳いでいる。


 気まずい。

 今までも何度かカルチャーギャップで揉めたことはある。

 それでも、今回のようにイーニェイが声を荒げたことは今までなかった。

 俺も鬱陶しすぎたかと反省しているが、イーニェイの顔を見る限り、反省しているのは俺だけではないらしい。


「な、なあイーニェ──」


「ナニ!」


 どうも向こうも戸惑っているのだろう。

 こちらが話しかけるたびにビクン! となって、殊更固い声で返してる。

 会話が本当に上手いやつなら、こんなときスラスラ喋れるのだろうが、生憎俺の社交スキルは師匠の見よう見まね。冷静に対応してくれる大人用だ。


「あ……えーっと… なんだ、その。さっきはごめん。疲れれて頭回ってなかった」

 

 やっとこさ出てきたのは、なんとも子供染みた苦しい責任転嫁。

 説教されるのには慣れていても、こういう場面はかなり苦手だ。

 

 それでも俺の拙い言い訳は、パニックに陥っているイーニェイの思考を少しは落ち着かせることに成功したらしい。


「─────」


 が、やっぱりテンパったままのイーニェイの喋る言葉は、俺にはさっぱり理解できない。


「えっ なに? ごめんそっちの言葉分かんないって」


「──────っえ!?」


 どうやら自分がどちらの言葉で話しているのかも分かっていなかったらしい。


「え、えっと……………い…ギタ、…め……さい」


 今度はギリギリ、分かる言葉になってかえってきた。

 が、やっぱし何いってるかは聞き取れない。

 イーニェイはもじもじと視線を彷徨わせながら、なんとか声を出そうとして、失敗している。


 それから散々(ども)ったり噛んだりした後。イーニェイは、ようやく覚悟が決まった風にまっすぐ俺の方を向いて。


「……言い過ぎた。ゴメン」


 真剣な顔で、ぺこりと頭をさげた。

 

 ───何だろう。

 場違いかもしれないが、イーニェイがすごく可愛く見えた一瞬だった。










 さて、そんなわけで結果的に、覇王樹の休憩所に入る前より距離を縮めることができた俺たちは、水袋がいっぱいになるまでの間に棘だらけの空間に身を寄せ合うようにして休憩をとった。

 つかの間とはいえしっかりと寝ることもできたので、休憩の目的は果たせたと言っていいだろう。


「あ、ラサおはよう。もうイける?」


「…疲れはとれたけど………もすこしここに居たい」


 涼しいし口出して寝ても乾かないし座れるし、もうここから出たくなくない。

 トゲトゲだって慣れれば可愛いもんだ。

 

「始めはイヤって言ったノニ」


「そんなこといったか?」


 イッタよ! とくだらないやり取りをしたあと、俺たちは覇王樹の茂みから外に出た。

 いつのまにか外は夜が近づいていて、遠くに見える地平線にはちょうど真っ赤な太陽が沈んでいくところ。

 空の半分は濃い青に染まり、砂に残った放射熱が心地よい風を生み出している。

 気持のいい日没だ。

 そんな光景に、俺たちは二人とも視線を奪われてしまっていた。



 そして


「─────」


 ドスの利いた声が、突然耳元でした。

 咄嗟に振り向こうとしたときには、鋭い骨製の斧が二つ、喉元に突きつけられていた。

 目の前の凶器から視線が逸らせない。


 聞き取ることはできなくても、その言葉に聞き覚えはある。

 使ったことはなくとも、その武器はよく目にした。


 

 それはまぎれも無く、イーニェイ──『砂漠の民族』のものだった。

 

次回は久しぶりに他に人の物語を(予定していますが………未来は神のみぞ知る)

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