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エマ・カルディア  作者: マシュマロポテト
第二章 第六新規開発区調査編
21/27

探索開始のちカクトスとは

最近曜日の感覚が薄いせいで最近守ってた週一制が崩れてしまった。

ごめんなさい更新遅くなりました。

 

 砂が音を立てて崩れる。

 まただ。砂に半分顔を突っ込みながらラサはぼやいた。

 

「だからナンドも言ってる。峰の真ん中を歩くんだ、───


「──端を歩くと崩れぞ。だろ? んなこと言ったって難しいもの難しいっての」


 いい加減このやり取りも飽きてきた。今朝出発してから、もう何度目になるのか分からない程繰り返してきたやり取りを再現しながら、こっそりため息をはく。

 おそらくイーニェイの方も同じことを考えているのだろうが、こればっかりは俺のほうが悪いしイライラ加減は確実に向こうの方が上。

 大々的にため息なんて吐こうものなら、即効で斧で輪切りにされかねないので自重する。

 

「……ホントに反省してる? 」


「してますから!! 実際慣れてねーと歩きにくんだぞ、ここの地面は」


「前見てたら転けないノニ…」 


「あーはいはい」


 二人が歩いているのは、風で砂が吹きだまった砂丘の上。正確には一人は砂に顔を突っ込んでいるので『歩いている』とは言いがたいかもしれないが。 

 いつまでも倒れているわけにもいかないので、砂の上でうねうねと体を動かし起き上がりやすい位置を探す。


「よっこいしょっと」


 鞄とポーチを背中の中心にのせ、腕立て伏せをするようにして体を起こす。


「ラサもいい加減、起き上がるのだけは早くなったナ」


 少し先に行ったところで、呆れ顔で振り返ったイーニェイが詰まらなさそうにそんなことを言っている。

 

「仕方ないだろ、転けるもんはしょーがねーんだし」

 

「それよりほら見える? カクトスがある。あそこなら休憩できる」


 そう言ってイーニェイは前方を指差す。

 ───が生憎俺には何も見えない。


「ん? あそこだぞ、よく見ろ」


 どれだけ目を凝らしても、見えるのはせいぜい延々続く砂の山だけだ。


「つーかなかなか無茶ぶりしてくれるな、狩猟民族。俺には砂しか見えないぞ? 」


 そもそもなっている砂のせいで視界はかなり悪いんだ。これでそんな遠くのものが見えるとは、さすがは狩猟民族。

 

「む。ナラ好きにしろ。私は先に行くからネ」


「あっ! ちょ、イーニェイ。そんなに怒るなよ。第一俺、そのカクトスってのが何か知らないんだぜ」

 

「信じないんだろ? ならその辺で焦げてたら? ヘナチョコ」


「だーから怒るなって。悪かったよ、機嫌直してくれよ! ってか言ってはいけないことを言ったな! 俺がへなちょこなんじゃなくて、お前が健康体過ぎんだよ」


「よくワからなイけど、いまバカにしたな!? 」


 こうやってわーわー言いながら歩いているうちは疲れを感じないんだから、不思議なもんだ。

 それにしたってイーニェイの奴、カクトスがあるから休める! とか言ってたがそもそも何なんだよカクトスって。

 イーニェイの王国語力は既に、ほとんど日常会話には問題ないレベルにまで達している。

 それでも俺が教えていない単語や、あるいは俺の知らないものなんかの表現は未だに意思疎通が出来ないのでこういうときにはまだまだ不便と言わざるを得ない。

 

「なあ、カクトスってのは何なんだ? 」


「カクトス知らないノ? カクトスは……あれ、エンブールの皮みたいな色に固い毛が生えてる奴」

 

 エンブールってたしか、俺が苔玉って呼んでる例のイカした苔のことか……その皮、つまり表面の苔の部分の色のことだから……


「緑色のことか? 」


「『ミドリ』? 」


「ええっとなあ、ちょっと待ってろ! 」


 色のことなら写真家の俺の専門分野と言っても過言ではない。

 急いでポーチを開け、中身を取り出す。見かけよりたくさん入っているそれらを選り分け、お目当ての小瓶以外はまたポーチの中に丁寧に戻す。

 小瓶の中身は色薬。

 光に当たると固まってしまう性質がある色薬を保管するために、色薬の小瓶は金属で出来ている。光を通さない反面、衝撃には弱く地面に叩き付けると簡単に割れてしまうのは…まあ仕方ないだろう。それに命を救われたこともあることだし…

  

「ほら、これだろ? 『苔玉の皮の色』ってやつは」


 光に弱い貴重な色薬をこんなところで出すことは出来ない。

 今見せているのは、小瓶の表面に付着して乾いた『汚れ』だ。

 暗闇で作業する移影。そのときに小瓶から垂れた液をそのままにしておくと、乾いてそのまま張り付いてしまうことがよくある。

 『汚れ』といっても別に汚いということは無いし、むしろ鮮やかな原色の色合いは好き嫌いこそ分かれそうだが、好きな人もかないいるのではと思ってる。


「ソウこれ! この色がカクトスの色!」


 ふむ、つまり緑色で……毛が生えているものに向かってるんだな? 今向かっているのは。

 何だそれ、余計何か分からん上に、行きたくなくなる情報だけが追加されたぞ。


「……なあ、そこに行くのは止めにして、オアシスに急いだほうがよくないか?」


「オアシスもこの先。モンダイない」


「な、なら回り道でもしないか?」


「シナイ。さっきからラサは何が言いたいワケ。休みたくないノ?」


 休みたいけど、妙なところはご遠慮したい。さっきから歩くだけでもいっぱいいっぱいなのだ。

 正直、半日砂漠を歩いただけでかなり消耗している。この体でまだ見ぬなにか出会いは正直勘弁願いたい。

 行きたくないが、ここで置き去りよりはマシか? いざとなってもイーニェイまだ元気そうだし。

 とりあえず口での説得くらいは続けよう。









 そんなことを話しながらも結構歩いたと思う。

 最後に休憩してからもう随分になるし、少し前から会話も途切れがちだ……主に俺が返事をする余裕も無くなってきたために。

 

「はぁ、はぁ…………まだか……イー…ニェイ…」


「……とりあえず、ついたヨ。カクトス」


「っお!?」

 

 危なく鼻の穴がもう一つ増えるところだった。

 ペンほどの太さの棘が、俺のすぐ目と鼻の先にある。棘は微かに黄みがかった白で、よく見ると目の前の一本だけでなく俺の前面には同じ様な棘が無数に並んでいる。


「ちょ、イーニェイさん!? 何これ、なんでいきなり目の前に! これどこから湧いてきた!?」


「だから前を向いていろと言ったのに。……ラサ、これがカクトスだよ」


 いつの間にか結構な距離を歩いていたらしい。

 イーニェイに促されるように棘の林から、恐る恐る一歩離れ全体を初めて目にする。

 

 カクトス。それは呼び方こそ違えど、俺も知ってるものだった。

 砂漠に生える奇妙な植物。敬虔な信徒には悪魔の腕などとも呼ばれる奇怪な見た目の珍しさで、王国に持ち帰られたときに騒ぎにもなったその植物の王国名は──覇王樹(サボテン)

 その大木がざっと四、五本。俺の目の前に広がっていたのはそんな光景だ。


「ここで少し休もう、ラサ。カクトスの下は涼しいし、水もある」


 ……イーニェイさんどうやってそのトゲトゲの中に入ったわけ。

 


 

次回「急速のち◯◯◯」

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