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エマ・カルディア  作者: マシュマロポテト
プロローグ・物語は、ここから始まる
2/27

朝ごはんのち早めのオヤツ

「オハヨウ、ラサ。朝ご飯出来てるヨ」


 明け方もまだ暗いうちから被っていた毛皮をひっぺがされる。


「ラサ、早く起きてヨ。朝ご飯食べちゃうヨ」


 寒さに意識を覚醒させ、いい匂いのする方を向く。

 獣の骨や使い物にならない皮の切れ端を燃やしたたき火。

 そこに掛けられた土製の鍋と串に刺された肉片。それはつまり、しっかりと塩の効いたスープに毛長ウサギの焼き肉のこと。

 今朝も朝から豪華な食事に慌てて飛び起きる。


「ちょっとまて、今起きるから。っておい!何勝手に俺の分食べてるの!」


「遅いのがワルイから」


 うぅ~、なかなか美味しい~。

 っと人の朝食をついばみ、さっきからペラペラと王国語をしゃべっているこいつは紛れもなく「あの」イーニェイである。



 あの素晴らしい墜落事件からもう4日、日常会話なら軽くしゃべれると言うからすごい。

 本人曰く、


「カンタンヨ。ラサの言葉で分かる単語かラ文章の意味を推測すればイイ」

 

 らしい。驚くべき学習能力だと思う。

 発音はイマイチだがこちらは片言もままならないのに比べれば驚くべきものである。

 とにかく飯を食わない事には始まらないので、この4日間で学んだイーニェイたち『砂の人』の習慣に従い、朝餉になった毛長ウサギさんの頭蓋骨を軽く撫でて感謝の言葉を呟きつつ、イーニェイの魔の手から飯を取り戻す。


 荒削りの岩塩と擦りつぶりた香草をまぶしたウサギのもも肉の薄切りのスープ。

 肉の旨味と岩塩の微かな甘みを伴う絶妙な塩加減、スープ一杯で朝食になるぐらいにしっかりと盛られた柔らかい肉、最後にスーッと口の中を落ち着かせる香草の香り。

 絶品である、普通に金が取れるぐらいにうまいスープに昇天しかけ、 ラサ、いらないなら… 、とイーニェイに奪われかけて覚醒するという毎度のパターンを繰り返す。


 今俺たちがいるのは砂漠に無数にある小高い丘である。

 何故か、それは砂漠で死ぬ一番の理由は【溺死】だ、ということだそうだからである。

 つまり、滅多に雨が降らない砂漠は、それだけ干からびている。

 降った雨が地面に吸い込まれないらしい。それゆえ一度どこかで雨が降れば、あっと言う間に低い所は川になる。

 だから死にたくなければ高台で寝起きするのが一番だ。というイーニェイの言葉に従い俺たちは4日前から夜は高台で過ごしている。


「ラサ、早くする。もう日がアガルヨ」


  どうやら自分の分は先に食べ終わったらしいイーニェイが吊るし梯子の上から顔だけ突き出して声掛ける。

  そう、家の天井 から。



 あの日、イーニェイに撃墜された家舟は、凧と家とを繋ぐ四本のロープのうち三本が切断、落下の衝撃で柱が二本歪む、などなど大変なことになっていた。

 それをたった4日間で修理改築するとは、我ならが流石だ。まあ、実際は予備のロープに取り替えたり柱を縛って固定したりで大したことはしていないので、修理自体は案外直ぐに終わっていたのだが……


「ラサ、早く行くヨ。日が登りきる前に飛ばないと風がうまく掴めないって言ったの、ラサだヨ。」


 そう、昨日の昼間にテスト飛行を試みたところ、上昇気流が激しすぎて凧が千切れかけるというアクシデントがあった。

その為、一番風が吹く日の出直後に再度挑戦とあいなったわけだ。



 遥な地平線の向こうから、闇を切り裂いて灼熱の光が冷えた砂漠に熱を与える。

 すぐさま砂は熱されて、その熱は周囲の空気を伴い空へと吹き上がる。


「出発!」


 ブァッ!っと凧が舞い上がる空気を受け止め、家舟は空へ舞い上がる。


「ほー、スゴイですヨ!浮いてます、ほんとに浮いてますヨ!」


 イーニェイも何故か敬語だが楽しそうだし、舟は無事に浮いてくれたし、良かった良かった。


「で?イーニェイ、どうするんだこれから?」


 砂漠と平原は風向き、距離などから簡単には行き来出来ない。

 だが、交流が全くない、という訳でも無いらしく、よく分からないが商人の様な人たちがいるらしい。

 その商人達と砂漠との窓口となっているのが『水の都』という街で、そこにいけば俺が戻る方法もなんとかなる…かしれない。

 もっとも、全てイーニェイの片言とボディランゲージをつなげた推測なので信憑性には不安ではあるが……

 『水の都』の噂は俺も一度聞いたことがあるが、耳に挟んだ程度でうわさ話の域を出ない。


「『水の都』ってのはそもそもどんなところなんだ?砂漠に水ってのもよく分からんが…」


「あっち、日の出の最後星の方!」


  家を壊した詫びに水先案内人をしてくれることになったイーニェイに、どんなところだ?と聞いてみる。

 …まさかの方角を教えられるとは。

 まあ、方向が分からんことには始まらないからヨシとするが。


「明けの最後星ってあれだよな?」


「ソウソウ、あれだヨ」


 とにかく、イーニェイの言う「日の出の最後星」、要するに日の出直後まで残っている一際明るい星、の方向を目指して舵を取る。


「これで良しっと!…で?『水の都』ってどんなところなんだ?」


 やっぱり気になるのでしつこく聞いてみると。


「砂漠で降った雨が集まる所。周りに水がたくさんある街で、とっても賑やかな場所で……」

 

 途中からなんだか見ているこっちの胸が痛くなる様な、そんな笑顔で何かボソボソっと知らない言葉を呟いてから「なんでもない」と嘯くイーニェイ。

 すごく気になるのに聞いちゃいけない様な、聞くのが憚られる様な雰囲気の所為でつい黙り込んでしまう。

 この4日間でずいぶん仲良くなれた、と思っている。

 それでもやはり、イーニェイが何故一人でこんな所にいるのかとか、時折イーニェイの見せる真っ白な無表情とか、分からないことはたくさんある。

 結局、臆病な俺にできることは、


「イーニェイ、ほれ、お前の好きな保存パン食っていいぞ。」


 砂糖と油でコテコテに固められた、イーニェイのお気に入りの保存パンで餌付けするだけだ。


「おお!ラサ、何個だ?何個まで食べていいんだ!?」


 途端にパァァァッと顔を輝かせて食料箱の中を漁るイーニェイ。

 なんだかもうどうでも良くなって、二つまでだぞ!っと声をかけながら隣に座り込んで自分も保存パンの缶に手を伸ばす。


「あー、ラサ!三つも食べる、ダメ言ったのに!!」


「いーじゃん、これ俺のなんだしさぁ」


「ズールーイ!」


 食べ物のことになると可愛さが倍増するイーニェイを愛でつつ、かなり早めのオヤツを奪い合う。


 ……何はともあれ、こうしてオヤツを齧りつつ、雨の流れ込む街を目指して砂漠の空の旅は再開する。


2013/2/9 改良を加えました

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