朝食のち困憊・前
なんか長くなったので思い切って前後編にします
昼の砂漠はとても厳しい。
吹き荒れる砂で視界は悪く、細かい砂は簡単に崩れ足下をさらう。
例によって雨対策の一環として砂の隆起した峰を歩いているので当然日陰もない。
日差しは眩しいの域を超え、痛いと表現しても問題ないようにすら思う。
砂山羊みたいな例外を除き、砂漠の生き物の多くが夜行性なのもよく分かるというものだ。
顔には少しでも水分の蒸散を防ぐための布が巻かれ、日差しをさけるために服はゆったりをした長袖だ。
靴の裏にも砂に沈まない様にと、砂山羊の皮が裏打ちされている。
つまり装備は完璧なのだ。
どれも《第六新規開発区》の調査用に、ピオニエル商会が支給してくれたもの。
この新規開発区の調査の主な内容は、簡単に言ってしまえば『何でもあり』である。
なにが住んでいるか、開発するときにはどんな危険が予想されるか、そこの地形は本当に開発に向いているのか。
調査の対処は多岐に渡り、かなり専門的な知識が必要な場面もある。
とは言え俺は現地で写真を撮り、実際に現場で無ければ分からないことや変わったことを纏めるだけで、ほかは報告を読んだ本部がやってくれるそうだ。
調べたものを商会に送るときは、笛を吹くだけで良いとのこと。
鳥か何かを送ってくれるらしい。
簡単な仕事じゃないか__今朝方まではそんなことを思っていた。
「俺が…俺が甘かったというのか……」
イーニェイに再会し、ついでにこの辺りの探索につきあってもらおうと思っていた。
( イーニェイは食事の度に狩りに行ってくれていたし、それにこいつは砂漠の民。ここの生態にも詳しいだろう )
そんな甘い考えが原因だったのかもしれない。
「がんばるヨ! 後少し、あのコンモリしたところを超えたらしばらく休憩ヨ」
隣ではさっきからイーニェイが励ましてくれているのだが、それに答える元気も無い。
正直、砂漠というものをなめていたと思う。反省しています、なので誰か、助けてください……
歩く。ただそれだけのことが、どれだけ大変かを俺は改めて知った。
********************
事態に気がついたのは今朝のこと。
天上の月が傾きだす頃まで長々と語り明かしていた俺は。
「起きろラサー!! 」
というイーニェイの絶叫とともに繰り出された蹴りに叩き起こされた。(絶叫ではなく蹴りに起こされた辺が怖いところ)
家舟の中とはいえ、ろくに床も敷いていなかったので砂で口がジャリジャリする。
「ハイこれ。もったいないから口濯いダラ、そのまま飲んでね」
投げ渡されたのは見覚えのある革袋。
寝起きで頭の回らないまま、言われた通りに水を口に含む。
まだ日は昇っていないので気温も高くないが、それでも寝起きの一杯は体にしみる。
ついでに口のジャリジャリまで流れ込んできて喉がすごいことになり、
「我慢ダヨ。水は少ないンだから」
相変わらず日の出より随分前に起きていたらしいイーニェイは、既に朝飯の用意まで済ませていた。
「……おはようイーニェイ。……早いなぁ…もう朝飯か? 」
最近は日が上ってからの起床は当たり前、飯も前の晩に買ってきたお惣菜の残りを食べる様な生活だった。
そのせいか、塩と肉の味しかしない暖かいスープはとてもうまそうに見える。
「ドシタ、お腹いたいか? 昨日ケガワ被んないで寝るからだぞ」
俺が暖かい朝食に感動している姿に何を思ったのか、まるで見当違いなことを言い出す。
よく見ると俺の分の朝飯にまでてを伸ばそうとしているのに気がついて、大急ぎで飛び起きる。
イーニェイはああ見えて料理がうまい。
調味料など塩と香草数種類しかないにも関わらず毎回味が被らないのもすごいと思う。
「おいイーニェイ!! 俺の分残しとけよ! 」
「やっと起きてきた。ハイこれ」
渡された椀にはゴロゴロと大きな肉の塊が豪勢に入っている。
砂山羊の肉は脂身が多く、筋が固い。
けれどそれは煮込むことで劇的に変化する。
旨味が結晶化した塩と肉厚な多肉植物のスライスと一緒に煮込むことで、脂身はスープにコクを与え、すじ肉はプルプルの御馳走になる。
「「いただきます!!」」
なんだかんだで待っていてくれたらしいイーニェイに感謝しながら、早速椀に匙を突っ込む。
昨日の晩。それも恐らく俺が意識を取り戻す前から煮込んでいたのだろう。肉はトロトロに蕩け、匙当てただけでふにゅりと千切れる。
お肉のコクと塩の旨味、それに肉植物が澄んだ香りを演出し、寝不足の意識がシャッキリと覚醒する。
一緒に煮込まれた内臓の臭みも無く、むしろ独特のダシでスープに深みを与えている。
一口食べただけでまず感じるのはその味の豊かさ。肉の旨味は勿論、仄かな甘みやモツの微かな苦味、それらをスッキリと纏める多肉植物の香り。
調味料が塩だけとは思えない細やかな味わいは、ちょっとした料亭で出でいてもおかしくないように思う。
寝ぼけ気味の朝にぴったりな料理で冷えた体も温まり、頭もようやく働き始める。
「あれ、そういやフポは? 」
周りを見渡しても、あの猫っぽい生き物の姿はどこにも見当たらない。
小さい時ですらあれだけの暴食をしていたのだ。さぞや大量の餌に囲まれているのだろうと思ったのだが、生憎あたりにあるのは俺たちの他は家舟のみ。
昨日、寝る前になってようやく動けるようになった俺とイーニェイで家舟の簡易版を組み立てていた時には、離れたところで丸くなっていた記憶がある。
「あの後は舟に入って地面にすっ転がって……イーニェイ、お前が起きた時どうだった?」
昨日はあれから暫く二人仲良く星を見上げていたが、あまりの寒さに俺の方が先に掘建て小屋(正確には俺の家舟だが)に戻ってしまった。
「どうだった……って、イタかって事? んん、居なかった」
「は………えぇ!?」
「最近は朝ゴハンも一緒ジャないよ…」
寂しんだけどしょうがナイよね。
そういって苦笑するイーニェイを見て、俺は愕然とした。
( ……最近も何も、あいつに会ってからまだひと月も経ってないぞ!! )
文字数的にはいつもと同じくらいのはずなんですがなんか短い…?
内容が薄いのが原因ですかね? (こらそこ、いつもそうじゃんとか言わないで)
さていつも通りに次回予告!! (前回の次回予告が大噓だったのなんて気にしないZE !!)
次回「朝食のち困憊・後」
これはなら大丈夫だろう……中とかならんよな……(まだ書いてないから何とも言えん…)