表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エマ・カルディア  作者: マシュマロポテト
第二章 第六新規開発区調査編
16/27

二度目の砂漠のち既視感《デジャヴュ》

いつにも増して解説回な感じに仕上がっちゃいました・・・

 カラカラに乾いた風が、砂の上を滑りぬけていく。

 見上がる空には、いつの間にか昼間に上るようになった月がうっすらと見える。

 視線を下げれば遥か遠くに《世界の壁》の輪郭が霞んでいた。

 雲一つない空はいつも通りに快晴で、砂に焼かれた空気が気ままに風を生み出していく。

 そんな無秩序な風が、金属質な光沢を持つ水面に波紋を作っては書き換える。

 

 最果ての商業都市アースガルズ。その根本と言っても過言ではないのがこの湖である。

 規模は隣接するアースガルズの約二倍。王国本土でもこれほどの規模の湖は数える程しか無い。

 何より驚くべきは、ここはより正確には湖ではない(・・・・・・・・・)ところだ。


 大都市の二倍、王国の中心地、大都とほぼ変わらない規模を誇りながら、この湖には支流、というものが存在していない。

 広大な砂漠は、その環境上滅多に雨が降らない。

 しかしその広大さ故に毎日どこかでは雨が降り、その水は最終的に湖に流れ込む。

 何よりほかから水が集まってくるということは、水に逃げ場所が無いことを意味している。

 流れ込んだ大量の雨は日差しに焦がされ蒸発していく。

 雨が溜まって日光で蒸発していく。

 規模は違えど似ているものがある。

 雨上がりに大人は器用に避けて、子供は嬉しそうに踏みつけながら通りゆく道端の水たまり。


 詰まる所、この湖の正体は、あまりにも大きな水たまり(・・・・)ということなのだ。




 とまあ、これがアースガルズが開発を進める湖の概要だ。

 その規模のせいか、アースガルズの人間ですら『湖』と呼ぶのだから、実態はあまり関係ないのかもしれないが・・・

 

 ほかに強いて特徴を上げるとすれば、王国を含めこれまでに発見されたどの希鉄鉱脈よりも優秀な埋蔵量を誇る。とか砂漠に生息している甲殻種が強いのはここの水に含まれる希鉄を日常的に摂取しているためである、という研究もあるらしい。




「なんにせよ、暑い」

 

 この状況は前にもあった気がする。

 周りに頼るものが無く、見渡す限り一面の砂と空。

 前と違うのは空に居ないことくらいか。


「だいたい俺以外にもあと二人いるんじゃなかったのかよ、『第六新規開発区調査及び記録要員』は」

 

 この愚痴も言い飽きてきた。

 『第六新規開発区調査及び記録要員』を噛まずにスラスラ言えるくらいになったのだ、相当の時間をここで過ごしているのは間違いない。

 

 ここは巨大湖の北西側。

 アースガルズの街からの距離で言えば、陽炎の向こうに幽かに大きな煙突を持つタタラが見えるくらい、と言ったところだ。

 

 湖の西側に拠点を置き、取り囲むようにして開発区を広げているアースガルズが次なる開発の拠点として目をつけたのが、半島のように湖面に突き出しているこのエリア。

 便宜上『第六新規開発区』と名付けられたこの場所を調査し、今後の開発に生かす。これが『第六新規開発区調査及び記録要員』なる俺に与えられた仕事だ。

 現地の写真やスケッチ、細かいレポートが必要になるが、その分報酬は屋敷が建つ程。アースガルズの街に二店舗、ほかの開発区にもいくつかあるピオニエル商会の投資している宿や店の割引も効くという破格の待遇の代わりに仕事の難易度はいささか高い。

 

 肉食の大型甲殻種はもちろん、昼夜の寒暖の差や突然の大雨は屋根の有無が生死に繋がることのありうる。

 眉唾物だが砂漠の民が襲撃してくる、という話もあるらしい。

 そのうえ生活物資は基本現地調達が必須となれば、志願者が少ないのも頷ける。

 

 まあ元々そうしたサバイバルに慣れている俺にはたいした問題も無い。

 などと考えていた時期も確かにありました。

 

 確かに自分のこれまで培ってきた経験を生かせば、砂漠で生き残るのもそこで調査を進めるのも不可能ではない。

 写真家 ラサとしての経験にはそれだけの自信がある。

 問題はそこではない。

 

 この湖は万能の鉱石、希鉄の世界有数の埋蔵地。一攫千金を目指す希鉄商たちが命に代えても守ろうと息巻いている場所で滅多なことは出来ない。

 …何が言いたいのかというと


「暑いんだよ、地上は(・・)…」

 

 そう言うことだ。

 王国本土の人間は、それこそラサの様な写真家や探索者と言った変わり者でさえ、空に生きる。

 『家舟』は単なる乗り物ではなく、文字通り『家』なのだ。

 子供は一人で飛べるようになると自分の『家舟』をもらえる。家というよりは部屋といったほうが大きさてにも、機能的にも正しいのだが。

 そうして得た自分だけの舟に乗り、人生の節目ごとに拡張して、人は一生を過ごす。


 

 そんな空に慣れた俺たちの体は空に慣れ切っているといっても過言ではない。

 風が強くとも体温の落ちない肌。王国に生きるものにとって、頬に風を感じないのは、それだけで気分が悪くなるというものだ。

 そして地上は暑い。

 いかに上昇気流由来の風があるとはいえ、反射熱のある地表と大空では気温の差は明白。

 イーニェイといるときも昼間は空の上ため、日中の砂漠の地表がこれほど暑いのは予想外だった。

 空に逃げようにも、瞬く間に見つかって『家舟』を没収されるのがオチだろう。


「せめて屋根があるだけ、マシというものなのかもしれないがな」

 

 折りたたみ式の特注の家舟。

 遠目から見ても目立たないように屋根の一部と柱だけ。座ってやっと入れる大きさのそれを組み立て、ようやく一息ついたときには日も地平線の方に傾きだしていた。


「さて、今日はとりあえず拠点の確保、と言ったところか」




 そんなときだった。

 ビュン!! と空をきる音がして、俺の記憶はそこでしばらく暗転する。

 最後に見えたのは、どこか見覚えのある白い薄斧(うすおの)だった。


(あれ? あれって確か……イーニェイの…) 

次回「再会と◯◯◯」


ついにヒロインの復活です!!

多分!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ