出発のち到着
第六新規開発区調査及び記録要員の募集に関する要項
一 記録媒体(写影機推奨)を個人所有していること
二 移影や現像の知識、技術があること
三 以上の条件を満たしていれば身元、以前の職業は一切問わない
*この要項をお持ちの上、第三層ピオニエル商会まで!
クジャが持ってきたのは職業案内所のようなところ(厳密には少し違うらしいが)の斡旋書。
もともと開発都市であるこのアースガルズの街。そこに住む住人と回ってくる仕事の数とは決して釣り合っているとは言えない。
ほかの街であったなら、仕事がなくなるたびに街を離れ、別の街を助ける。元いた街には別の職人が入り、また発展する。
王国では複数の街が互いに職人をやり取りすることで、発展と仕事のバランスを保っていた。
けれどそれは風が吹き、家舟が行き来できるからこそ実現が可能というもの。
人員どころか物資のやり取りすらおぼつかない大砂漠のど真ん中にポツンとある水の都・アースガルズでは土台無理な話なのだ。
街の建設に始まり、希鉄の採掘にタタラ場の増築。この街ができた当初、仕事はたくさんあった。
けれどそれも長くは続かない。完成すれば仕舞の開発業、失業者は日増しに増えていく。
そんなアースガルズだったが、腐ってもここは開発都市。
単発の仕事や新規の開発は絶えることが無い。
開発を進める商会は斡旋所で職人をかき集め、職人たちはその日の飯のために働く。
まるで探索者のような刹那的な生き方が、この街の根本にある。
そんな職を求める者たちで斡旋所は連日賑わうのだとか。
「てか私が働いてるのも、その斡旋場なんだけどね」
例の第三層ピオニエル商会とやらに向かう道すがら、クジャがこの街の内情を教えてくれた。
ちなみに、もともとは別の商会で経理の仕事をしていたらしいが、首になったそうだ。
「基本壁に張り紙張ったりカウンターで受付するだけの楽な仕事だし。ついでに自分の仕事も探せるしね」
…それは職権乱用というやつではないだろうか?
「いいのか?そんなことしてても。ばれたら暴動おきそうだぞ」
「ふふーん。大丈夫なんだなー、これが」
その自信はどこから来るのだろうか・・・
仕事探しにいったら、そこの職員がいい仕事は先に確保してたとか。ありえないだろう。
「だから大丈夫なんだって」
「なにが大丈夫なわけ?聞いてる限りだと全然だめだめなんだが?」
「だってほら。私、職場のアイドルだから!!」
……いいのか? それで。
「いやだめだろ! アイドルとかそんな問題じゃないだろ」
「ええー。ラサがそう言うなら……この仕事も返してきちゃよ」
ピラピラっと手に持った羊皮紙を弄ぶクジャ。
「すんませんでした!!」
「分かればよろしい」
……腹立つ。
だが、こうやって仕事にありつけたのもクジャのおかげかと思うとあまり強くも言えないのたが。
「てかお前、斡旋所の仕事があるのに自分用の仕事を見繕う、ってどういうことだ?」
「うーんなんて言えばいいのかな? あ、ほら私ってお金大好きでしょ?」
聞いて損した。
まあ、これが一番こいつらしいのかもしれないな。
なんにせよこれで収入が入る。あの中庭でいつ現れるかも分からない家の主人に怯える暮らしともおさらばというものだ。
住人のほとんどが仕事に出かけて人通りの少なくなった昼の住宅地。増築を重ねて出来た複雑な小道を歩きながら、俺の心はどこか弾んでいた。
「着いたよ!」
同じような軒並みが並ぶ、いささか退屈な路地を抜け、俺たちはついに目的地にたどり着いた。
労働者の住宅で構成されているアースガズルの街の第三層。
街の権力者の屋敷がある中央の第四層と比べると、いや王国で同じくらいの所得のあるものと比べてもかなり見窄らしい家が多い場所にある商会。ピオニエル商会。
その外装は俺の予想を裏切るものだった。
というよりーーー
「・・・・なぜここなんだ?」
土壁の家が多いこのアースガズルの街において、堅牢に積まれた赤煉瓦の壁は珍しい。
その外見にふさわしい重厚な扉の上には、金の細工文字でこう書かれていた。
アルマン暦842年創業・ピオニエル商会
新たなる職場、ピオニエル商会。
そこはついさっきまで俺たちがいた場所。
あの中庭がある家に間違いなかった。