遭遇のち邂逅(2日め)
お久しぶりです。
本当にひっさしぶりの投稿となってしまいました・・・ごめんなさい
紆余曲折の末、結局イーニェイたちとは別行動になったラサ。
現在『水の都』の上空をこっそり飛行中だ。
恐らく砂漠の空を飛べるほど変わった家舟は、ラサが写真撮影のために改造したこの家くらいだろう。
家舟の利便性を考えれば、人目に着くのはあまりよろしく無い。
「どっかに人のいない裏路地とか無いかなぁ……あっ、あのお姉さん美人だな」
家舟の高度を上げ、広角望遠鏡で空からの偵察。
暑いところだからか、多くの家は窓を開け放っており、中がよく見える。
中には涼しさを求めて、すんごい格好で風を浴びているお姉さんも居て…
いかん、それは後回しだ。
なんせここ最近はずっとイーニェイが居たからイロイロと溜まってというもので……
「落ち着け俺……お、いい場所見つけた」
危ない危ない、それは今夜だ。
取り敢えず街に侵入するのが先決だ。
いや、べつに俺だって普段からこんなに怪しいことをしているわけでは無い。
ただ家舟が主流の場所だと、空中に関所があったり、家舟の繋留用の柱がたくさんある。
それに比べ、ここはまず家舟が無い。
つまり馬鹿正直に関所から入っても没収される、忍び込んでも見つかれば取り上げられる。
隠してくるにも延々続く砂の平原。
「一番お手軽なのはこっそりひっそりってね」
他にも最もいい方法があるかもしれないが、思い付かないのならば仕方ない。
「バカだから仕方ないか」
しかしいかんな、最近はいつもイーニェイが居たせいでつい独り言が出ちまう。
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この街は半分以上が湖の上に乗り出した様な楕円形をしている。
なぜか?それにはもちろんちゃんとした理由があり…
そもそもこの『水の都アースガルズ』という呼び名は、王国ではあまり一般的では無い。
その変わりとして知られるのが『希鉄の湖』と呼ばれる、坑夫や金物商人の憧れの地。
イーニェイに聞いたときにパッとイメージ出来無かったのもそれが原因だ。
『希鉄の湖』は、その名の通り希鉄の安定確保が可能な場所として、王国でも希鉄産出地と名高い。
元々は砂漠で死にかけていた商人が、偶然見つけたオアシスであったと云う。
周りに木も生えず、幻かと思われた湖。
必死の思いでそこにたどり着いた商人は、その水底をびっしりと覆う鈍色の沈殿物に気が付く。
思わず手を伸ばした商人の指の間をからかう様にフワリと溶け消えたその輝きこそ、自然に存在する最高純度の希鉄であった。
鉄の十倍しなやかで加工し易く、かつ一度冷えれば金剛の如き硬さと玉の様な輝きを持つという金属。
その万能性と美しさに比例する様にその量は希少で、鉄鉱脈の近くで見つかる事も多いため「希鉄」と呼ばれる金属がそれである。
しかし今の技術では、極めて純化が難しく、自然界に存在する高純度の鉱脈を見つける事が求められていた。
金より高いとされる金属。
それも超高純度の希鉄が溶け出した湖の魅力は、多くの男たちを遥か浮舟の類が届かぬ砂漠へと呼び寄せた。
いくつかの商連は競争や現地住人との争いに滅亡し、残った商連はやがて協力して大きな街を築き上げた。
話を戻すと、湖に乗り出した部分から人や絡繰で水底に沈殿した希鉄を湖に溶かし出し、上のポンプで吸い上げ釜で煮詰める。
その後いくつかの純化作業を経て、希鉄は陸路で草原へ、そしてその先にある王国を目指す。
そんな場所で陸路より遥かに運搬で勝る家舟を出せば……最悪俺は二度と故郷へ帰れなくなる。
そんな訳だから家舟を隠すのは、割と最優先最重要事項と言えた。
「しっかし、高いよなーここ。高度どのくらいになるんだろ」
さっきからのぞき……ゲフンゲフン、上空偵察を行っていたのは、わざわざ上を見上げ無ければ見つからないくらいの高高度からだ。
そこまで登るのは割と簡単だった。
砂漠で発生する強い上昇気流。特に湖で発生しているそれは非常に強力だった。
早い話が、気が付けばいつぞやみたいに突風で打ち上げられていたのである。今度は上に。
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ここまでは何とかなった。
困っていた偵察は見つからず、簡単に出来た。
砂の舞い散る砂漠で、わざわざ空を眺めている暇人は居ないだろからまず見つかっていないと思う。
問題はここからだ。
「どうやって降りよう…」
そう、さっきから俺は困っている。
舟から街に降りる方法はもちろんいくつかある。
一般的なのはそのまま舟を降ろす方法。
ただこれだと降りれない場合もあるので、イカリで舟を固定してロープで降りる方法やハングライダーの様なモノを搭載している舟もある。
あるのだが…あるのだがしかし、見つかる。
舟を直接降ろすのは論外として、ロープ式もそこまで降りれば見つかる。
ハングライダーは戻る手段が無く、そもそもあれはどこかに家舟を固定しておくのが前提となっている。
「どーしたもんかねー?」
……閃いた。
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そうして俺は、夜闇に紛れついに水の都、希鉄の湖アースガルズへと侵入出来た。
……よく考えるとこんな辺境ではみんな夜も早いし、警備の人も松明しか持っていない。
それでも夜になって上昇気流が止まった瞬間、高高度からの一瞬での着陸という離れ業に成功したのは本当に運が良かったとしか言えない。
忍び込んだアースガルズの地。
灰色の不審者に出会うまであと四時。
物語が動き出すまで、あと少し。
久しぶりの投稿なのに主人公が変態で不審者な説明回で終わってしまいました・・・
あぁ、リハビリが必要だ・・・
2013/2/15 改訂しました。 街に名前を変更しました