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エマ・カルディア  作者: マシュマロポテト
プロローグ・物語は、ここから始まる
1/27

撃墜のち勉強会

 ふと前を見ると、遠くに薄い青色の山脈がどこまでも続いている。そしてその上、頭をぐっと上げれば雲よりも高くまるで世界の壁のごとき大覇山 アクサーガバル が雲越しにうっすらと見える。実にいい景色だ。

 ずいぶんと遠くまで来たもんだなぁ、なんて感慨にとらわれながら開け放った窓から身を乗り出し、眼下に広がる砂の大地を虚しく睨みつける。


「めっちゃ虚しい…はぁ」


 青い空、遠くにそびえる山々、どこまでも続く砂漠、ポツンと浮かぶ奇妙な家。 

 半球状の大きな凧を四本の太いロープで平らなやねに括り付けた箱型の小屋、『家舟』。

 この砂漠の向こう、アクサーガバルの麓に広がる広大な平原の大切な移動手段で、草原に暮らす者なら親元を離れるまでに乗りこなせるようになる。

 普段はアクサーカバルの下降風と砂漠の上昇気流が噛み合わさって、砂漠には流れ出さない様になっている。

 ……のだが、偶然(・・)平原の淵を飛んでいた俺は、いつもより平原寄りで発生した上昇気流に呑まれてこんなところまで飛ばされてしまったというわけだ。

 ……ほんと、ため息でも吐いて現実逃避の一つもしたくなる。


「あー、空が青いなぁ。広がる砂に気持ちいい風。いいねぇ、俺は自由だーって感じ。自由バンザーイ。 ……ダメだ虚しい」


 いかん、静か過ぎる。何かないかなぁ……………っていた!


 ちょうど窓とは反対側の方から山羊のような獣の群れが走り去っていく。

 砂山羊、聞いたことぐらいはある。確か砂の上を歩くための大きな蹄と直射日光を防ぐ長い毛を持ち、群れになって移動するらしい。

 その砂山羊が何から逃げてるのか気になって反対側の窓へ移動する。

 

「砂山羊が襲われるったらなんだろ? 『砂』山羊とか言うくらいだし、砂熊とか砂狼とかいるのかねぇ…って、えっ?」


 人だ。人がいる。

 恐らく原住民の狩人だろう。さっきの山羊の毛皮の様なものを着て白い斧を腰だめに構えている。

 その足元には頭の山羊が罠に掛かったのかジタバタともがいていた。狩人は山羊にとどめを刺そうと構えた格好で、家舟の影に気がついたらしい。射る様な目でこちらを睨みつけている。

 狩猟民族らしい目、と言えばいいのだろうか。青空の様な澄んだ瞳。その目は語っていた。

 獲物は渡さねえ。と。

 俺の師匠もよく言っていた。ファーストコンタクトは大切です。

 てなわけで、はーい笑顔で!


「よっ、よう」


「…………………」


 我ながらバカなことをした。

 狩人さんの氷の様な視線が痛い。友好度ゼロ。

 悲しいくらい冷たい視線でこちらを睨んでいた狩人さんは、おもむろに背中の白い薄斧で足元の山羊の首を切り落とし、血の滴るそれを思いっきり放り投げた。

 というか思いっきりこっちにぶん投げてきた。


 ブンッ!

 薄斧は唸り声を上げて家舟と凧の間のロープ目掛けて一直線に飛んでくる。


「あ、れ?」


 ファーストコンタクト失敗が招く悲劇。

 ブチブチッ!と嫌な音を立てて、薄斧が正確に凧と家舟を結ぶロープを切断する。

 支えを失い、真っ逆さまに墜落する家舟。

 

 ああ、沈む赤い夕陽の美しいこと……そこから先は生憎覚えていない。









 ーシャルーーーモファーイサーーシャーイサ


 目が覚めると、満天の星空だった。

 月や星の並びが知っているものと違うのか、どれがどの星かは分からないが、すげー綺麗だ。とそこまで考えてようやくこちらを覗き込んでいる顔があるのに気がつく。

 背中のまで垂れる 赤みがかった銀茶色の髪、砂漠に暮らしているにしては白っぽい肌に見覚えのある真っ青の瞳。

 ……間違いない、あの狩人さんだ。ってか女の子だったとは…ビックリした。


「ファラ,ハ、イサーラ。マアァ,ヤ?」


 そう言って口を縛った皮袋をを渡された。恐る恐る受け取って軽く揺すってみるとチャプンと水音がするので飲め、と言うことなのだろう。ありがたくいただくことにする。

 ゴクゴクゴク、プファー。

 どの位眠っていたのか分からないが、砂漠の乾いた空気に晒され続けた喉に冷えた水はとても心地よかった。生き返るぅ!

 さて、そんなことよりも、だ。人の家を墜落させた張本人に看病され、挙句砂漠では貴重であろう水までいただいているこの状況。一体どう言うことなのだろう?


「あ、あのー。なんで俺を助けてく


「ユ,バシャル、ノア,イブリース。ワ,ガビー。」


 えーっと?あなた、ガビー?」


「ノア!ワ,イーニェイ。ワ,ガビー。ノア,ワ,ナ,ガビー」


 さっぱり分からんが、発音ごとに音を区切って聞く限りでは、どうやらガビーと言うのが名前なのではなく、自分はイーニェイが名前だ、と言いたいらしい。

 ちなみに、後から聞いたのだか、ガビーと言うのは「バカ」とか「愚か者」と言う意味だそうだ。

 さておき、 一つ取っ掛かりが掴めれば後はそこから単語を探っていけば、片言の会話くらいはできるようになるかもしれない。



「あー、イーニェイ?」


「ヤ!ワ,イーニェイ」


 やべ、可愛い。


「あなたイーニェイ?」


「ヤ!ワ,ナ,イーニェイ!」


 キラキラキラ!

 これはまずい、ハマりそうだ。


「えっと俺は、ラサ。えーっと、ワ,ラサ」


「ヤ!ユ,ラサ!」


 どうやら伝わったらしい。

 なるほど、「ワ」と言うのが「自分」、「ユ」が「私」というのは分かった。なら後分かるのは…


「マアァ、これマアァ?」


「ヤ!マアァ」


 水は「マアァ」っと。あとは…「カビー」だが、なんか悪い意味っぽいし聞きにくい。

 とは言え、周りには他にも砂やら砂漠やら、星空に家舟の残骸(残念ながら壊れた)などなど、聞けるものはたくさんある。

 お互いに言葉を教えあっていけば、少しは会話ができるようになるだろう。



「あれは?」


「ナグム」


 あれやこれやと確認した後、イーニェイがどこからか持ってきた毛皮に包まり夜空を眺める。


「ナグムか…あれは星空だな」


「ホシゾラ?アレ,ホシゾラ!」


 「あれ」とかみたいな俺が何度か使った単語なら片言ながらイーニェイも組み合わせて使えるようになったらしい。ほんと要領のよろしいことで。

 …こうして星空の元、俺とイーニェイの勉強会はもう少し、空が白け始めるまで続いた。






次回「朝ご飯と◯◯◯」


2013/2/9 全体的に修正しました。



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