パネルクイズ
男は暑さから逃れひと休みしようと、通りかかった喫茶店のドアを開けた。
席に着きながら、無意識で灰皿を引き寄せる。脱力して脚を十時十分のように開き、タバコを片手に、ただぼんやりとする。男は、自分にとって最も効率の良い休憩の仕方を会得しているようだった。
店内にはテレビがあり、ちょうど男の視線の先で、パネルクイズの番組を映していた。
ウェイトレスがお冷やとおしぼりを持って来て、男はメニューに目もくれず寝言のような声でアイスコーヒーと言う。
「ご注文、以上でよろしいでしょうか?」
突然、タバコを持った手が空中で、ぴくりと止まった。男は、テレビを凝視している。
画面には、最後の空きパネルに、赤が1つだけ灯る瞬間が映っていた。
上半分の白、下半分の緑がより広く、そしてその境目の左端に、ぽつんと赤。
「あの……アイスコーヒーでよろしいでしょうか?」
はっと我にかえった男は、タバコを灰皿に押しつけ座り直しながら、すっかり覚醒しきった顔でウェイトレスを見上げた。強い意志を感じさせる眼差しで、はっきりと発音する。
「いえ、変えます。クリームソーダにしてください」