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マリーサイド:出会い

メインストーリーの1話より少し前の話です。

ここタレイアで冒険者の宿を初めてそろそろ2年、常連さんも増えて、最近ようやく板についてきたかなって思ってる。

今日も誰かが元気に…っていうか多少乱暴に扉を開いて…


「マリーさん、ただいま!」

「こらリック、そんなに勢いよく開けたら傷むでしょ!」

「ごめん、でもいきなりだけど、ちょっとこの子を頼むよ!」


あとから続いてきたラルフの背中には、小さな女の子が背負われている。

ぐったりとした感じだけど、呼吸は乱れてない。


「その子、どうしたの?」

「帰りに街道沿いに倒れてたんだよ。

 服装も服装だし何かあったらと思って、連れてきたんだ。

 アリサ置いていくから、預かってもらえるかな?」


よく見てみると、女の子は質素なチュニックを着ているだけで、靴もはいてない。

とりあえずラルフに指示して、ちょっと硬いけどテーブルの上に寝かせさせる。


「それで、あんたたちはどうするの?」

「詰め所に行って、何か情報ないか聞いてくるからさ。」


慌てて入ってきた割りには、しっかりと考えて動いてるわね。

さすがはリーダーってことかしら?

現状で詰め所で聞くのが一番早いはずだから、リックの判断は間違ってない。


「わかったわ、行ってらっしゃい。」

「あ、マリーさん、俺は冒険者ギルドの方に話通してくるので…」

「了解、ラルフも気をつけて。」


入ってきたときのようにバタバタと3人が出ていく。

エリカはリックについていったのかしら?

さて、一応クルトにお願いしようかな。


「アリサ、2階の一番手前の右側の部屋に寝かせるから、ベッドだけ用意してきてくれる?

 わたしはクルトを呼んでくるから。」

「はいー、まかせてくださいー。」


アリサはこんなときでも緊張感ないわね…

まぁこの子のおかげでみんなが落ち着いて行動できたりするんだけどね。

アリサに部屋のことを任せて、厨房に急ぐ。

もしかしたら、もう仕込みを始めてるかもしれないけど…

厨房をのぞいたら、クルトはまだ準備前みたいだった。


「クルト、ちょっと手伝ってもらえる?」

「どうしたんだい?」

「リックたちが女の子を連れてきたんだけど、意識がないのよ。

 それで上まで運びたくて。」


すぐに動いてくれたクルトと、女の子を上まで運んでいく。

アリサはきっちりベッドメイクしてくれてたから、そのままベッドに寝かせてあげたんだけど、女の子は一見眠っているだけのように見える。

ただ、ずっとラルフに背負われてきて、今も階段を運んだのに、一向に目を覚ます気配がないのが気になる。


「アリサ、この子どういう状態なの?」

「よくわかりませんー…

 見つけたときはー、少し意識もー、あったんですけどー…

 でもー、ケガをしてるとかー、そういうことはー、ないようですー。」

「そう…それじゃ、しばらく任せるわね。

 もし何かあればすぐに下に知らせて。」


とりあえず、女の子をアリサに任せて、わたしとクルトは夜の食堂の準備をすることにした。

クルトが厨房で仕込みをしてくれている間に、わたしが食堂の準備。

これは宿を始めたときからずっと決まった役割分担だから、もう体が覚えているようなもの。

イスは降りたままだから、夜の準備はテーブルを拭くことと、お酒を提供する準備をすることになる。


「ただいま。」

「あら、おかえり。

 何かわかった?」


準備をしていると、リックとエリカが帰ってきた。

でも、その表情は浮かない。

どうも情報はなかったみたいね…


「だめ…でした…」

「そう…でも、もしかしたらこのあと何か情報が入ってくるかもしれないわね。」

「ああ、アリサは?」

「女の子についてもらってるわ。

 2階の右側の一番手前の部屋にいるわよ。」


ありがとうと言って、2人は2階へ上がっていく。

困ったわね…ラルフの方で何かつかめればいいんだけど。



早いお客様がちらほらといらしたくらいに、ラルフも帰ってきた。

こっちもあんまりいい表情じゃないわね。


「今帰りました。」

「おかえり、遅くまでごくろうさまだったわね。」

「それらしい話は何もなかったので、もし何かわかればここに知らせてもらえるようにしてもらいました。

 マリーさんとクルトさんには申し訳ないんですけど、何か情報が入ったら受け取ってもらっていいですか?」

「わかったわ。

 とりあえず、みんなは2階の右側の一番手前の部屋よ。」







結局、食堂の営業が終わるまでに新しい情報が届くことはなく、女の子も目を覚まさなかったみたいで、リックとラルフが食事を上でとりたいからって、4人分持っていったっきりだった。

食堂の方も片付けがすんだので、クルトと一度、様子を見に行こうかと話しているときに、エリカが降りてきた。


「マリーさん、あの子、目を覚ました。」

「ほんと?よかったじゃない。」

「でもね…ちょっと上に来てもらっていい?」


今から上がるところだったし、それは問題ないけれど、何かエリカの言い方に引っ掛かる。

問題でもあったのかしら?

クルトと顔を見合わせるけど、クルトもわかるわけないわよね。

行ってみなきゃダメよね。


2階の部屋に上がってみると、ベッドの上で女の子は上半身だけを起こして、アリサに支えられてた。

少し乱れているけれど、きれいなシルバーグレイの髪が、アリサの魔法でつくった光に照らされてきれいに輝いている。

でもその眼はまさに寝起きそのもので、黒い瞳が半開きの眠そうな瞼の隙間から覗いてる。


「あ、マリーさん、クルトさんもわざわざすみません…」

「いいのよ、それでどんな状態?」

「それが…名前はミアって言うらしいけど、他に何も覚えてないって…」


リックが相当に困った顔になってる。

それはそうよね…詰め所にも、ギルドにも情報がなくて、本人も覚えていないじゃどうしようもない。

アリサは引き続き、女の子にいろいろ聞いてくれているけれど、どうにも望みは薄いわね…


「リック、ちょっと下に来てくれる?」

「ん?俺だけでいいの?」

「ええ、あんただけでいいわ。」


クルトの袖も引っ張って一緒に降りてもらう。

明日の朝、すぐに何かがわかればいいけど、あのくらいの年の子がいなくなって、詰め所やギルドに情報が入っていないっていうことは、この街の子でない可能性も出てくる。

このままあの子が何も思い出さないときは、身の振り方を考えておかなければならなくなる。

食堂のテーブルで、リックとクルトと3人で座り、わたしは考えていることを話した。


「…ということで、あんたたち、あの女の子をどうするつもり?」

「どうするって…思い出さなきゃ…孤児ってことだよな…」

「そうね…あんたたちが面倒みれないなら、孤児院にでも預けるしかないわ。」

「……孤児院、かぁ…」


そこでリックは考え込んでしまった。

この街にも一応孤児院があるにはあるけれど、運営状況はあまりいいとは言えない。

子どもたちは、自分たちで畑仕事をしたり、街の仕事を手伝ったりしているが、それだけですべてを賄うことはできていないようだし、寄付も十分と言えるまでは集まっていないのが現状だから。

結局、リックはその場で結論を出すことはできずに、一度みんなで話したいと言って上がっていった。

クルトずっとは話を聞いているだけだったけど、何か考えているみたい。






次の朝、リックたちはいつもよりも遅めに朝食をとりに降りてきた。

女の子も昨日よりずっと元気になったみたいで、リックたちと一緒に降りてくる。


「おはよう。

 今日は少し遅かったのね。」

「ああ、マリーさん、あとでちょっと話があるんだけど、朝の片付けが終わった後でいいかな?」

「わかったわ。

 クルトにも声をかけておくわね。」






食堂の片付けがだいたい終わったころに、リックたちがまた降りてきた。

残念ながら、今のところ、女の子に関する情報は届いていない。

とりあえずテーブルについてもらっておいて、クルトを呼んでくる。

クルトもだいたい片付けが終わっていたみたいで、すぐに来てくれた。


「それで、結論は出た?」

「ああ、実はこの子をここに置いてもらえないかなと思って。

 とりあえず次の仕事が終わるまではお願いしたいんだ。

 この子の分は俺たちが払うからさ。」


うん、それはわたしも考えないではなかった案なのよね…ただ、宿代をリックたちが払うっていうとは思わなかったけれど。

女の子は、昨日と違って、黒目がちな大きな目をくるくるさせながらあっちを見たり、こっちを見たりしてる。

まるで昨日とは別人のように、年相応の元気さが見えて、微笑ましい。


「それは構わないけど、それじゃ、問題を先延ばしにしただけよね。

 そのあとはどうするのよ?」

「泊まっている間に、ここの仕事覚えてもらって、ここで雇ってもらったり…はできないかな?

 この子にも聞いたら、そうしてみたいって言ったし。」

「へっ?!」


これにはわたしも驚いてしまった。

けど、意外といい案なのかもしれない。

クルトの方を見ると、リックの方を見てうなずいてる。


「クルト…いいの?」

「マリーはどう思うんだい?」

「うん、この子たちの想いはわかったし、いい案だと思ってるわ。」

「それなら、問題ないだろう。

 リック、宿代はいいよ。

 仕事なんて、手伝ってもらっていく中で、徐々に覚えていってくれればいいさ。」


何だか、クルトはこうなることを予想してたみたい…

クルトには勝てないなぁ…さすがよね。

それじゃ、しっかりとあいさつしておきますか。

きょろきょろしている女の子の手を取って、ゆっくりと話しかける。


「こんにちは、ミアちゃんだっけ?」

「あ…う…こんにちは…」

「元気がないわねー。

 今日からあなたにはうちの宿でがんばってもらいたいなって思ってるんだけど、どうかしら?」

「え、と…ここで働きたい…です。」

「そう、よかった。

 でもね、うちはお客様がたくさん来るから、元気にあいさつできる子じゃないとダメかなー…

 ね、だからもう一度、こんにちは。」

「こ、こんにちは!」


うん、素直ないい子みたい。

何か情報が入ってくるか、記憶が戻るまで、どっちかになるかもしれないけれど、それまで一緒にがんばってくれそうね。


「はい、よくできました。

 わたしはマリーよ、よろしくね。」

「私はクルトだ。

 一緒にがんばっていこうね。」

「えと、えと、ミアです。

 よろしくお願いします!」


こうして、小さな女の子、ミアはうちの宿で働くことになった。

何だかこれから楽しくなりそうな予感がして、わたしは、そしてきっと今ここにいるみんなも嬉しい気持ちでいっぱいになった。

今日から始まる新しい白枝亭はどんな風になるのかしらね?

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