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ここはなにかが欠けている

空を目指して

作者: 浮月重月
掲載日:2026/11/05

魔術での飛行は、魔術師なら誰でも一度は試したいものである。


支援魔術としては既に《飛翔》というものが存在してはした。

が、これを使用している者はエルフですら聞いた事がない。


何せこの《飛翔》だが、消費体内魔素が膨大な上に効果時間が短い。

人間の平民であれば、一度使っただけで体内魔素が枯渇してしまう。

しかも飛行距離はせいぜい大きな屋敷を端から端まで移動する程度。

これでは使いどころも限られてしまう。


ここにいる魔術師の少年、ロドも《飛翔》を習得はしたものの、

使い勝手の悪さにどうしたものかと試行錯誤していた。


彼は習得した魔術の魔術構成式を独特な手法で最適化し、

効果を高めたり体内魔素の消費を減らしたりする事に長けている。

当然《飛翔》に対しても最適化を試みているのだが難航している。


消費は一割程度に減らし、飛行速度も倍近くまで伸ばしてはいた。

しかし、こんな程度ではまだ満足して使用出来るものではない。

普段使い出来る程度にまで落とし込めないだろうか。


◆


本日は王都の外に出て《飛翔》の改良版を実証実験している。

他の魔術と組み合わせてみようと、魔術構成式に手を加えていた。

消費が激しいので、魔素回復の水薬も多数持参している。


今回は《障壁》を応用した《足場》と《飛翔》を組み合わせてみた。

自分自身へかけるのではなく《足場》へ《飛翔》をかけてみる。

結果《足場》がロドを乗せたまま空中を滑空していた。


…なんか違う。これじゃあ獲物を運んでいる時と同じじゃないか。

確かに空中を飛んではいるけど、馬車に乗っているようなものだ。

これなら障壁の上に自分を乗せてた方が体内魔素消費も少ない。


水薬を何度も飲みつつ、ああでもないこうでもないと試したが、

自由自在に空を舞う、という自分の理想からは程遠い。


試すうちにかなりの高度まで飛んでしまったロドだったが。

飛行型魔獣に目を付けられてしまう。ワイバーンである。


◆


ワイバーンは亜竜に分類され、前足を持たない二足の飛竜。

長い尻尾の先端に毒を持ち、獲物を刺して動けなくさせ捕食する。

迷宮以外では主に高山に生息しており、人里では見かけない。


今回は不運にも、上空を飛んでいたところにロドが顔を出した。

普段口にする動物と比べれば小さいのだが、興味を持ったらしい。

ワイバーンはまっすぐロドに向かっており狙いを定めている。


《索敵》は使っていなかったが、大きさのおかげでロドも気づく。

普通の魔術師ならば、焦って逃げようと試みるだろう。

多くの者にとっては簡単に倒せるような相手ではない。


が、ロドは「ちょっと試してみよう」と妙な事を思いついていた。


通常のワイバーンの狩りは、獲物に接敵して尻尾で殴りつける。

その際、獲物へ毒を流し込んでその動きを封じるのである。


今回もこのワイバーンは過去何度もやってきた狩りのつもりだった。

ロドの少し手前で尻尾を振り回して毒針を刺そうとする。


向かって右から振り回されたその尻尾は、何かにはじき返された。

姿勢を崩し戸惑うワイバーンだが、それが致命的な仇となる。

尻尾がまた何かにはじかれる。首を向けて確認しようとするも。

今度は向けた首があらぬ方向にはじかれた。さらには翼が。


姿勢を保てなくなり落ちるワイバーン。地面直前はじかれる。

真上にはじかれたはずが、次は真上から押されるようにはじかれる。

また地面直前ではじかれる。翼も首も別方向にはじかれる。


思わず困惑の鳴き声を出すが、容赦なくあちこちにはじかれる。

獲物に攻撃するどころではない。何が何やら理解が出来ない。


ロドはこの時、無数の《足場》をワイバーンの周囲に配置していた。

ただの足場ではなく、接触したらばねの如くはじく《足場》を。


一つ一つの《足場》自体は小さく使用した本人以外は目視出来ない。

そしてこれ自体に攻撃能力はない。ただはじくだけの代物ではある。

しかしワイバーンの身動きを封じるには充分な効果があった。


疲れ切ったワイバーンが得物のロドを忘れかけている時。

ロドは極薄の《障壁》を放ち、ワイバーンの首を断ち切った。


◆


実験を中断し、ワイバーンの首と残りを障壁で包み込み、

ロドは王都へ帰還する。こんなものは放置も出来ないので。


冒険者組合で別行動をしていた妹分達と出くわし、爆笑された。

魔術の実験という話だったのに何がどうしてこうなってるの、と。


冒険者組合の解体場は大騒ぎである。ワイバーンなんて久々である。

しかも倒したのがたった一人で行動していた十歳の少年だ。


当のロドは、周囲の盛り上がりをよそに別の事を考えていた。

ワイバーンのあの巨体ですら、はじく《足場》で跳ね飛ばせるなら、

はじく《足場》と《飛翔》の魔術構成式を上手く組み合わせれば、

《足場》の勢いを利用して移動効率を上げられるかもしれない、と。


今日はもう遅いので、残念ながら次の休日までは試せない。

彼にとってはワイバーン駆除も魔術の改良のついででしかなかった。


後日ロドははじく《足場》と《飛翔》を組み合わせてみたのだが。

移動効率は上げられたものの、空中を歩いているような動きである。

思っていたのとなんか違う。彼の試行錯誤はまだしばらく続く。

「モテる力を振り絞り」の裏側で起こっていた事。


これはこれで魔術として使用局面がありそうなので、

後に洗練されて《空中歩行》と命名されました。

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