対戦
放課後の将棋部部室。
他の部員が遠巻きに知らん顔しながら、時々チラ見しながら対戦の様子を伺っている。
銀香は教本を片手に、必死に盤面をみている。と思ったら教本のページをめくる。
この動画の繰り返しだ。
それを何回もくりかえす。
高坂は銀香が一手指すのをじっと待っていた。
「神崎、ゆっくりさしていいからな…」
銀香にはアドバンテージ与えてある。
あと何手かで大手だ。
それはぎんかには教えてある。
高坂は防ぎ切る自信があった。
それどころか逆転する自信すら。
時間が過ぎていく。
一手一手
なにかがおかしかった。
必死に防戦することになるとは…
銀香は小さく頷き、駒を動かす。
最初は手探りだったが、数手進めるうちに盤面は思わぬ展開に。
「……ちょ、マジやべ、いい感じじゃん!」
銀香は心の中でテンションを上げる。
高坂の眉がぴくりと動く。
――初心者相手のはずなのに、盤面がどんどん追い込まれていく。
銀香はさらに駒を動かす。
あと数手で大手になる位置まで迫っていた。
「……よし、あとちょっとで大手になるっしょ……」
机の上には、駒が緊張感を漂わせるように並ん
高坂は額にうっすら汗をにじませ、でなんとか王将を守り切った。
結果は銀香の負けだった。
「ふぅ……」
息をつく高坂。
銀香は顔をぱっと明るくして、ギャルらしい声で叫んだ。
「あー負けた〜ちょー惜しー!マジあとちょっとで勝てたじゃん!」
結局、銀香は再テストを受けることになった。
再テストは簡単な問題ばかりだったが、銀香は頭を抱えて苦戦していた。
高坂は教壇から、その様子をじっと見つめる。
――簡単に終わるはずだったのに、あの前の対局が脳裏をよぎる。
職員室で、再テストを銀香に返す高坂。
「ご苦労さん、合格だ…」
「やった!はい、これ!」
銀香は教本を返そうと差し出す。
高坂は首を振る。
「あ…これは…記念にやる…」
銀香は眉をひそめる。
「いや、ウケる〜こんなんもらってもしょうがねー」
「まあ、そう言わずにもらってくれ…」
高坂はなぜ銀香に本をあげようとしてるのか、この時は全く意識していなかった。
銀香とのやりとりは、ただの売り言葉に買い言葉の応酬だったはずだ。
二人はこうして押し問答を繰り広げる。
「いや、もらってくれ。頼むから」
「でもさー、先生からもらうとかちょっと恥ずいんだけど!」
結局、銀香は肩をすくめて笑う。
「しゃーねーな、じゃあもらっちゃお!」
高坂もにやりと笑い、銀香も少し照れくさそうに笑った。




