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次期部長

放課後の静かな部室。

夕陽が盤面を赤く染めている。

一条玲奈は、一人で窓際に立っていた。

——引退。

その二文字が、現実味を帯びてきている。

次の部長は、間違いなく——

「鷹宮くん」

名を呼ぶと、盤を片づけていた鷹宮が顔を上げた。

「話があるんだけど…」


部室に二人きり。

一条玲奈は単刀直入に言った。

「次の部長は君しかいないと思ってる…」

鷹宮は一瞬目を伏せる。

「……光栄です。」

「でも…」

一条玲奈の声がわずかに低くなる。

「銀香との関係が気になる…」

沈黙。

「きみは、銀香をどう思っている?」

鷹宮は視線を逸らした。

「………」

「……正直に言いますが…」

「どうぞ」

「外見からして、ふざけてるように見えます。」

空気が張り詰める。

「真摯に将棋に取り組んでいるようには…」

一条玲奈は間髪入れずに返す。

「この前のトーナメント、あれでも?」

鷹宮はわずかに眉をひそめる。

「負けました。」

「負けることは誰にでもある。」

「まして初心者だ。」

鷹宮は口を閉じるが、すぐに言う。

「でも、あの外見は将棋の世界に合わない。」

「続けるなら変えるべきです。」

一条玲奈は、静かに告げる。

「銀香は泣いていた。」

鷹宮の目が揺れる。

「……知っています。」

「ふざけてやっている人間が、人前であんなふうに泣くと思う?」

言葉が、真っ直ぐに刺さる。

「私は友達が銀香を庇って食ってかかったところをみた…」

「友達があそこまでできるのはそれだけ銀香が真剣にやってるからだと思う…友達思いのいいやつだ…」

一条玲奈もなかなかそんな友達には出会えないと思った。 

直情的?だけど、今の世の中にはああいう友達は貴重だ。

当たり障りの無い関係性でしか友達といえない。

そんな友達が多い。


鷹宮は沈黙した。

夕陽が長い影を落とす。

一条玲奈は話題を変える。

「実力はどう思う?」

「……筋はいいです。」

「筋は?」

「将来は無いと思います。」

「将来とは?」

「プロにはなれない。」

はっきりと言う。

一条玲奈は、少しだけ笑った。

「私がプロになれると思う?」

鷹宮は戸惑う。

「……部長は、」

「なれない(笑)」

あっさりと言い切る。

「なる気もない。」

「だが私は将棋が好きだ。」

「続ける。努力もする。勝ちたいからだ。負けると悔しいからだ。」

一歩、鷹宮に近づく。

「そういう私は、将棋を続けてはだめなのかな?」

「みんなと一緒に続けてはいけない?」

鷹宮は答えられない。

一条玲奈の声は、穏やかだが強い。

「私は将棋でいろいろ学んだ。」

「まだ子供だし、これからも学べることは多いと思う。」

「それでいいと思っている。」

一拍置く。

「銀香も、それでいいんじゃないの?」

「きみは外見のことを言うけど、プロにならないなら関係ないと思う。」

「もしなるなら、その時本人が決めればいい」

沈黙。

鷹宮は、反論しなかった。

部長もわかっているはずだ。

この年から始めても…

アマチュアでも大したことにはならないだろう…


だが部長の言うことは、内心では、もう否定できなかった。

——泣いていた。

——真剣だった。

自分は、何を見ていた。

一条玲奈は静かに言う。

「どうする?」

鷹宮は顔を上げる。

「……態度を改めます。」

「次期部長として。」

鷹宮は一条玲奈が自分に要求していることはわかっていた。

当然のことだ。

自分が去った後のことを考えれば、問題を解決しておきたいと思うのは。

それをわかったから、部長の意図を組んで返事をした。

できるかどうかはわからないけど。


一条玲奈はうなずく。

「期待している。」

話はそこで終わった。

だが一条玲奈は、少しだけ気になった。

——あっさり納得しすぎ。

何か、別の理由があるのではないか。

しばらく観察するか。


部室を出た鷹宮は、一人廊下を歩く。

胸が重い。

——俺は、何に意固地になっていた。

外見?

そんなもの、本質ではない。

あのとき。

銀香が入部した日。

あの場で、自分がオンラインの対戦相手だと認めていれば。

こんなにこじれなかった。

部長にまで心配をかけた。

情けない。

ほんの些細なことなのに…

別にやましいとかそんなこともないことなのに…

スタートラインで間違えるとなかなか修正できない。

自分が道化を演じてあっさりとなんでも話せばいいのに。

実際そんな奴はたくさんいる。

そういうやつをいつも羨ましいと思ってみていた。

どうして自分は同じようにできないのか…

どうしても躊躇してしまう。

隠してしまう。

なにもなかったように。

なにも間違ってなかったように。

それがダメなんだ。

子供なんだ。

幼稚と言ってもいい…


俺は子供だ…


クラスでも陽キャのグループだろうと思うあの外見…

どこのクラスにもいる…

自分とは違う世界の人…

どこかでバカにしていた…

そういう人が相手だったとわかった

途端に拒否る…


俺は幼稚だ…


ポケットのスマホが重い。

あのアカウント。

何度も対戦した相手。

本当は、指すのが楽しかった。

——話すべきか。

迷う。

だが、今は言わない。

まだ整理がついていない。

とりあえず。

「向き合う。」

部長のために。

将棋部のために。

そして——

自分の未熟さを越えるために。

鷹宮は小さく息を吐き、歩き出した。

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