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将棋部見学

昼休みの終わり。

銀香は机に頬杖をつきながら、隣の歩美をつついた。

「今日さ、放課後……将棋部、見学行くわ。」

一瞬の静止。

次の瞬間。

「マジか!!」

歩美が椅子ごと飛んだ。

「ついにか! やっとか!」

周りがざわつく。

「ちょ、声でかいって…」

銀香は慌てて袖を引く。

歩美は満面の笑み。

「決心したんだな!」

「いや、まだ見学だから。」

「今さら何言ってんだよ。」

あっけらかん。

「入るに決まってんだろ。お前もう顔がその顔だし。」

「どんな顔だよ。」

「覚悟決めた女の顔(笑)」

大げさにうなずく歩美に、銀香は呆れながらも笑ってしまう。

——ほんと、この人は。

放課後。

将棋部の部室の前。

銀香は一瞬だけ立ち止まる。

「よし。」

ノックしようとする。

扉が勢いよく開いた。

「待っていたぞ、神崎銀香!」

ハイテンションの声。

部長、一条玲奈が、なぜか両手を広げて立っている。

「いや、見学ですけど…」

「細かいことは気にするな!」

腕をつかまれ、そのまま中へ。

「諸君! 新入部員だ!」

「ちょっと待って!?」

銀香の声はかき消される。

部室の空気が、一瞬で固まった。

盤を挟んでいた部員たちが顔を上げる。

視線が突き刺さる。

「……は?」

低い声。

窓際に座っていたエース、鷹宮がこちらをジロリと睨む。

立ち上ると。

「また勝手に決めたんですか、部長。」

空気が冷える。

一条玲奈は笑顔のまま。

「才能は即確保だ。」

「見学って言ってますけど。」

「入る前提の見学だ。」

銀香は顔が熱くなる。

「ちが……まだ何も——」

「部長がそう言うなら……」

他の部員のひそひそ声。

鷹宮の視線が鋭くなる。

「強引なんですよ、いつも。」

その言葉に、何人かがうなずく。

部室の空気は最悪だった。

鷹宮は舌打ちをひとつ。

「俺は反対です。」

そう言い残して、部室を出ていく。

ドアが閉まる音が重い。

沈黙。

一条玲奈は、頭をかいた。

「……またやらかしたか〜(笑)」

笑いながらあっけらかんとしている。

銀香はいたたまれない。

——やっぱり、ウチが来たから。

胸がぎゅっと縮む。

でも。

ここで逃げたら、また同じだ。

「……今日は、見学させてください。よろしくお願いします!」

なるべく明るく言う。

一条玲奈がにやっと笑う。

「もちろんだ。ようこそ将棋部へ!」

その笑顔に合わせるように、銀香も無理やり笑う。

けれど、空気は重いままだった。

帰宅後。

ベッドに倒れ込み、すぐにスマホを開く。

《どうだった!?》

歩美からの通知。

銀香は今日のことを全部打ち込む。

一条の宣言。

鷹宮の怒り。

最悪の空気。

少しして、返信。

《気にすんな。》

即答。

《ああいうエースタイプは最初反発すんだよ。》

《そのうち手のひら返すって。》

銀香は苦笑する。

《そんなうまくいかんて。》

《いくいく。》

《だって銀香かわいいし。》

「は?」

思わず声が出る。

《そのうち将棋部のアイドルだな。》

《意味わからんし。》

《なるわけないし。》

すぐに返信。

でも、画面を見つめながら、胸がじんわり温かくなる。

——この人、いつもこうだ。

どんな時でも、明るい未来を平気で言い切る。

無理そうでも、笑い飛ばす。

《まあ見とけって。》

《あたしの目に狂いはない。》

銀香は、ふっと笑う。

《なにそれ。》

《アイドルじゃないっしょ(笑)》

《そうだった。将棋ギャルトップな。》

画面越しなのに、歩美の声が聞こえる気がする。

銀香は天井を見上げた。

部室の重い空気。

鷹宮の冷たい視線。

不安は消えていない。

部活には不安もある。

憧れもある。

今まで普通に学校生活を送れなかった。

部活やって仲間となにかをやってみたい。

そんな気持ちをずっと抱えていた。

うまくやれるのか。

それでも。

それ以上に。

——応援してくれる人がいる。

それが、うれしい。

「ほんと……好きだわ。」

ぽつりと呟く。

スマホを胸に抱えながら、銀香は目を閉じた。

明日も、きっと大変だ。

でも。

一人じゃない。

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