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3. ガスパール ― オーブンのケーキ、食卓の血

女性は皿に載ったケーキを、ほんの少しかじった。

ケーキを飲み込むたびに、彼女の目からは止めどなく涙が流れていた。


「ママ、ぼくもケーキがほしい」

ドメニコがキッチンに入ってきた。


黒く波打つ髪をした、四歳ほどの少年だった。ルカ・バルディーニの息子の一人だ。

彼はテーブルの周りを回り込みながら、ゆっくりとロザリアのほうへ近づいてきた。歩きながら、ずっとケーキを見つめている。背がテーブルに届かないため、つま先立ちになって、必死に覗き込もうとしていた。


「おいで、ドメニコ。ほら、ベアトリーチェさんがこのケーキをとても気に入ってね。お家に持って帰りたいんですって。だからこれは彼女にあげましょう。新しいのを作ってあげるから。さあ、兄弟たちのところへ行ってらっしゃい」

ロザリアは身をかがめ、ドメニコの髪を優しく撫でた。


「うん、ママ」

ドメニコはケーキに触れることなく、キッチンを出ていった。


ドメニコは出ていくまでに、何度も小さな頭を振り返らせ、名残惜しそうにケーキを見ていた。


「その一切れは、全部召し上がってください」

ロザリアは隣に座る女性から、目を離さなかった。


ロザリアは、皿のケーキを食べ切るように女性に命じた。女性は泣きながら、ほんの少しずつ口に運んでいた。


「お願いです……許してください……」

女性は咳き込みながら、そう訴えた。


ケーキを半分ほど食べたところで、女性は突然激しく咳き込み始めた。


「その一切れは、最後まで食べるのよ、ベアトリーチェさん」

ロザリアは、命令するような口調で言った。


女性は咳き込みながらも、ケーキを食べ続けた。

数秒後、彼女の口と鼻から血が流れ始めた。皿のケーキを食べ終えた瞬間、女性は椅子から床へと崩れ落ちた。床の上で咳き込み、息を詰まらせ、口からは血が流れ続けていた。

ロザリアは一歩も動かず、その様子を見つめていた。表情は虚ろだった。


数分後、女性は息絶えた。


「また、子どもたちを殺そうとしていたのか?」

ロッコがロザリアに尋ねた。


「ええ。この一か月で、五人目の使用人よ」

ロザリアは立ち上がった。


「この男は、ボスが見つけた。これからはお前の専属の護衛だ。この家に住むことになる。俺はもう行かなきゃならない。何か命令はあるか、ボス?」

ロッコはロザリアを見た。


「出るときにマッテオに伝えて。ベアトリーチェさんの埋葬に必要な手配をさせて」

ロザリアはキッチンの棚を開け、オレンジを取り出した。


ロザリアは、バルディーニ家の子どもたちの食事を作るため、日雇いの使用人を雇っていた。

先ほどケーキで毒殺された女性も、その一人だった。彼女はルカ・バルディーニの子どもたちを殺すため、ケーキに毒を仕込んでいたのだ。毒は非常に強力で、大人の女性ですら数分で死に至らしめた。もし子どもたちがそのケーキを食べていたら、全員が即死していただろう。


「あなたの名前は?」

ロザリアは棚から小麦粉を取りながら、ガスパールを見た。


「ガスパール・ルッソです」

ガスパールは動かずに答えた。


「ガスパール、手伝ってくれる?」

ロザリアは小麦粉をキッチン台の上に置いた。


「あなたをお手伝いするのが、俺の任務です」

ガスパールは、ロザリアからの指示を待っていた。


「“あなた”なんて言わなくていいわ。ロザリアでいい」


「オレンジを切ってくれる?」

ロザリアはボウルに小麦粉を入れながら言った。


潜入捜査官としてバルディーニ家で与えられた、最初の任務。

それは、ルカ・バルディーニの子どもたちのために、オレンジケーキを作ることだった。


「あなたの頭の上の棚にアーモンド粉があるわ。それを取ってちょうだい」

ロザリアは卵と砂糖を混ぜていた。


ロザリアと一緒にケーキを作りながら、私は大きな失望を感じていた。

目の前にいるのは、恐るべき力を持つ女であるはずだった。だが、そこにいたのは、子どもたちのためにケーキを焼く一人の母親だった。


家には八人の子どもがいた。七人はルカ・バルディーニの息子で、もう一人はエリオ・バルディーニだった。

さらに、マッテオと妻フェリシアにも二人の娘がいた。家の中はまるで幼稚園のようで、どこもかしこも子どもで溢れていた。


ロザリアはすでにケーキをオーブンに入れていた。

大きなオレンジケーキを、四つも焼いたのだ。

家にいる子どもの数を考えると、それでもまだ足りないくらいだった。



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