12.1. ガスパール — 写真が告げた危機
「今まで気づかなかったな。赤って、こんなに美しかったか? それとも――色に美しさを与えているのは君のほうか?」
ガスパールは黒いパンツのポケットから手を出さないまま階段の下に立ち、見惚れるようにロザリアを眺めていた。
今日のバルディーニ家は、どこか幸福に満ちて見えた。ロザリアは数か月ぶりにルカ・バルディーニに会いに行くのだ。
ルカ・バルディーニとの電話を盗み聞くため、私は盗聴器のひとつをロザリアの部屋に仕掛けていた。だが、この家に来てから聞けた会話はわずか二度だけ。そのうちの一度が昨夜だった。ルカ・バルディーニは妻を恋しがっていた。ただロザリアと一夜を過ごすために、危険を冒して戻ってきたのだ。
待ち合わせは「アモーレ・アンティコ」。
ロザリアの顔は幸せに輝いていた。装いには祝祭のような華やぎがあった。
炎のように情熱的なドレスが身体にぴたりと沿っている。赤いベルベットの生地が肌に吸いつくように、彼女のシルエットを余すことなく浮かび上がらせていた。胸元の深い開きは、息をのむほど美しい。太めのストラップが肩にかかっていたが、それでも肩の火傷の痕を完全には隠しきれない。膝下で終わるタイトなペンシルラインは、まるでロザリアの長い脚のために誂えたかのようだった。
黒のポインテッドトゥのハイヒールは高く、ロザリアは階段を下りながら慎重に足元を確かめている。
「本当に綺麗だ……」
ガスパールは瞬きもせずに見つめ続けた。
「ありがとう、ガスパール。」
ロザリアは微笑んだ。
「今の、声に出してたか?……馬鹿だな、ガスパール。どうしてそんな失敗をする。よりにもよって、ルカ・バルディーニのもとへ行く日に」
ガスパールはドアへ向かって歩き出した。
いつかこの女のせいで首が飛ぶ。思考が制御を失っていた。気づかぬうちに、頭の中の言葉がそのまま口に出てしまう。これは良くない兆候だ。
小さなバルディーニたちも父が来ると聞いていた。皆いちばんのスーツを着込み、嬉しそうにロザリアのもとへ駆け寄る。
「ママ、僕たち準備できたよ!」
ジョヴァンニが母のドレスの裾をつかんだ。
「うん、ママ、早く行こう!」
ドメニコは顔を上げてロザリアを見つめる。
ジョヴァンニ、ドメニコ、そしてエリオがロザリアを取り囲んだ。
「そんなにおめかしして、どこへ行くの?」
ロザリアは子どもたちと目線を合わせるために膝をつき、微笑みながら尋ねた。
「パパに会いに行くんでしょ?」
ジョヴァンニはおもちゃの電話をぎゅっと握りしめながら言った。
「どうして知ってるの?」
ロザリアの顔に驚きの笑みが浮かぶ。
「兄さんが言ったんだ。」
ドメニコは目をそらし、エリオを指さした。
昨夜、盗聴の見張りをしていたのは私だけではなかったらしい。エリオは叔父のルカ・バルディーニが来ることを知っていた。
「今回は無理よ、みんな。でも約束するわ。次は一緒に連れていく。」
ロザリアはジョヴァンニの髪を撫でながら言った。
「ママ、これ、叔父さんに渡してくれる?」
エリオが手にしていた絵を差し出す。
エリオは子どもたちの中でいちばん静かで、いちばん聞き分けがよかった。まだ幼いが、とても賢い子だ。エリオはロザリアを“ママ”と呼び、ルカ・バルディーニを“叔父さん”と呼ぶ。実の両親が亡くなったことは理解している。それでも彼が必要としているのは、なぜか母だけだった。ルカ・バルディーニは父のように接しているが、エリオにとって彼はあくまで叔父なのだ。
子どもたちは父に会えると思い、贈り物を用意していた。
「ママ、この電話、絶対パパに渡してね。危ないときは僕に電話してって。」
ジョヴァンニは重大な任務を託すかのような真剣な顔で、緑色のおもちゃの電話をロザリアに差し出した。
「ママ、僕にもプレゼントがあるよ。」
ドメニコは急いで手に持っていた段ボール箱を母に渡す。
箱の中には、彼がいちばん好きなミニカーが入っていた。
「パパ、隠れてる家で退屈したら、これで遊べるでしょ。」
ドメニコは一緒に行けないことが寂しかった。
「ありがとう、みんな。パパ、きっととても喜ぶわ。」
ロザリアは一人ひとりにキスをし、立ち上がった。
家を出ると、私はガレージへ向かった。
「あなたが運転して。」
ロザリアは車の鍵をガスパールへ放り投げた。
「本当に? 今日を待ってたのか?」
ガスパールは心の中でつぶやきながら、宙で鍵を受け止めた。




