10.2. ガスパール— 血に染まった静寂
従業員たちは、俺がプレイヤーではなく、ただ客として同行しているだけだと知っていた。
だから俺は、ロザリアに連れられてそのままカジノの更衣室へ案内された。
「あなたはただの知人よ。誰にも、あなたが私の護衛だと知られてはいけない。何か起きても、私が許すまで絶対に動かないで、ガスパール。」
ロザリアは視線を逸らさず、低く、しかしはっきりとした声で言った。
厚手で長いバスローブを着ていたが、見知らぬ人間の中でこの姿でいることに、ロザリアはわずかな不快を覚えていた。
その微かな違和感に気づいていたのは、俺だけだった。
チップはテーブルの横で渡される。
ロザリアが一つのテーブルへ近づくと、従業員が彼女にチップを差し出した。
俺はすべてを聞き取り、そして彼女の近くにいられるよう、そのテーブルのそばで静かに待っていた。
ロザリアのテーブルには八人が座っていた。だが女は三人しかいない。
このテーブルには、どこか違和感があった。
ここだけ、男女のチップが違っていた。
女たちのチップの裏には、部屋番号が書かれていた。
「お客様の負けです。」
ディーラーは顔も上げず、ロザリアのチップを勝者の男の前へ押しやった。
ロザリアはルールを知っていた。
だが彼女はギャンブラーではない。
当然、負けた。
「お支払いの時間ですよ、お嬢さん。」
勝った男は笑みを浮かべ、ロザリアを上から下まで舐めるように見た。
その視線を受けた瞬間、ロザリアは理解した。
このテーブルで“勝つ”のはチップではなく、女だということを。
ロザリアは動かなかった。
「いい加減にしろ。ここに座る前に考えるべきだったな。」
男は乱暴に彼女の腕を掴み、個室のある廊下へと引きずっていった。
その手がロザリアの腕に触れたのを見た瞬間、俺の視界が赤く染まった。
一瞬、自分が彼女の護衛であることを忘れた。
胸の奥から、原始的で獣じみた衝動が込み上げる。
あの瞬間、彼女はボスの妻でも、守るべき女でもなかった。
誰にも触れさせてはならない存在だった。
男はロザリアの腕を掴んだまま、個室の並ぶ廊下へ消えていく。
ロザリアは「やめなさい」と命じた。
だがその時の俺には、命令も、彼女の正体が露見することも、どうでもよかった。
俺にできることは一つだけだった。
――あの男を殺し、ロザリアをここから連れ出すこと。
目立たぬよう、走らずに早足で進む。
「どけ!」
ガスパールは苛立ちを隠さず、前に立つ客たちを押しのけた。
廊下へ入ろうとした瞬間、人波が前を横切り、俺の足を鈍らせる。
個室の廊下は蒸気に満ち、何も見えない。
「どこだ!」
ガスパールは自制を失い、部屋へ飛び込んだ。
最初の部屋は空だった。
「ロザリア!!」
隣の部屋から、くぐもった音が聞こえた。
その音を聞いた瞬間、胸の奥の獣じみた衝動は、恐怖へと変わった。
ほんの数秒遅れただけで、見失っていた。
「もしロザリアに触れていたら、その首を素手で引きちぎってやる。」
ガスパールはドアノブに触れることなく、肩で一気に扉を打ち破った。
部屋に踏み込んだ瞬間、恐怖は一瞬で消え去った。
目の前の女に、守りは必要なかった。
ロザリアこそが、危険そのものだった。
男は床でのたうち回り、喉から溢れる血を手で押さえながら、自らの血に溺れていた。
深く息を吸い込んだとき、ようやく視界がはっきりした。
ロザリアの手には、冷たく、しかし気高い武器が握られていた。
金の柄には繊細な曲線の装飾。
中央に埋め込まれた大きな赤いルビーは、まるで悪魔の瞳のようだった。
冷たい刃でありながら、ロザリアの手にあれば、それは装身具のように美しかった。
ロザリアに属するすべてのもの、そしてすべての者の上には、わずかな血がある。
この短剣は、彼女自身の血で封じられている。
そしてガブリエル・ジョルダーノは、その覚悟の前に敬意をもって膝を折り、この短剣を彼女に差し出したのだった。




