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5話

挿絵(By みてみん)

※挿絵等に生成AIを使用しております。

※登場人物集は、後書きに移動致しました。

※スマホからだと画像の読み込みに時間がかかる/更新しないと表示されない場合が御座います。

「テオドール様! 起きてください、テオドール様!」

コレットの切羽詰まった声が、重い意識を叩き起こす。

「コレット……おはよう……今、何時だ?」


「まもなく八時になります。本当は一日休んでいただきたいのですが、朝になったら必ず起こせと仰せでしたから」


昨日の強行軍のツケか、体が鉛のように重い。それでも、俺には無駄にする時間など一秒もないのだ 。 立ち上がろうとした拍子に視界がぐらりと揺れ、咄嗟にコレットが肩を支えた。


「テオドール様! やはりまだお休みになられた方が……」


「いや、やることがある。……セシル殿を呼べるか? 彼女の癒術なら、この倦怠感も少しはマシになるだろう」


「登宮されているか分かりませんが、すぐに確認してきます! それまで、大人しくしていてくださいね!」


コレットは小走りで部屋を飛び出していった 。 俺はぼやける頭を軽く叩き、昨日練り上げた計画を反芻する。


(まずは南方蛮族による侵略を食い止める。その上で、蛮族領域を切り取って国土を広げる。その足がかりとして俺が就くべき公務は、南軍の司令官ポストだ)


リュシアン図書館長の話によれば、大国エクイタニアへの援軍として派遣される北軍こそが花形であり、格上。逆に、野蛮な蛮族を相手にするだけの南軍は「落ちこぼれ」の集まりという評価だ。


「放蕩王子」の俺が突然、南軍での公務を希望したとしても、多くの人間は高熱で気がおかしくなったのだと解するだろう。しかし、王妃周辺は警戒せざるを得ない。南軍は対蛮族の最前線だが、それは同時に「南方貴族の兵力を拘束する」という王家側の重要戦略でもあるからだ。


王家と北方貴族が支配するアストリアにおいて、不満の溜まった南方貴族が反旗を翻さない理由は、常に蛮族への対応に兵力を割かざるを得ないからに他ならない。さらに、俺の母ロザリーは平民とはいえ南方出身だ。皇太子リシャールへの権力移譲を急ぐ王妃派にとって、庶子とはいえ俺が南方貴族と親密になることは避けたい事態。だからこそ、奴らが警戒を解くような「納得感のあるストーリー」が必要になる。

しばらくして、コレットがセシルを連れて戻ってきた。


「王子、どうされました? 昨晩の診察では異常ありませんでしたが」


セシルは淡々とした口調で言いながら、俺の胸に手のひらを当てた。そこから淡い光が漏れ出す 。


「……体が重いだけだ。だが今日は外せない用がある。癒術でなんとかならないか?」


「倦怠感に癒術を使おうとは、贅沢が過ぎますよ。まあ、気休め程度にはなるでしょうが」


セシルは一歩下がり、両掌をこちらに向けて意識を集中させた。 先ほどより強い光が俺を包み込み、体の奥からじわじわと温まるのを感じる。


「少しは楽になったはずです。ですが、無理は禁物ですよ王子」


「ありがとう、セシル殿。助かった」


足に力が戻り、俺はベッドから立ち上がった 。


「コレット、今日は武神教会に行きたい。案内を頼めるか?」


その言葉に、コレットは意外そうに眉を寄せた。 この大陸中部の上流階級では、光神ルミナスへの信仰が一般的だ。対して武神ベルガトスは、現場の兵士たちの間では人気を誇るが、世間一般としては格が落ちる信仰だ。


「武神ベルガトス様の教会ですか……? 王城区画の外になりますから、護衛をつけないと……」


「ああ、そうだな。馬車と護衛の手配を頼む」


すると、コレットが思わずといった様子で吹き出した。


「ふふっ、あれほど護衛を嫌がって一人で城外へ飛び出していたテオドール様が! 承知しました、すぐに手配いたします。朝食の支度は済んでいますので、ちゃんと食べてくださいね。セシル様も、よろしければご一緒にいかがですか?」


「それは助かります、コレット嬢」


コレットは満足げな笑顔を浮かべ、部屋を後にした。 俺が食卓に着くと、セシルが向かいの席に腰を下ろす。


「それで、どういった風の吹き回しです? 死の淵で信仰に目覚めたとでも?」


「まあ、そんなところだ。タイミングとしてはこれ以上ないだろう?」


そう、タイミングが良いのだ。死の淵で武神への信仰に目覚め、その教義を実践するために南軍での公務を渇望する。これが俺の考えた自然なストーリーだ。


「含みのある言い方ですね。それにしても光神教ではなく武神教とは……。失礼ながら、王子には縁もゆかりもなさそうですが?」


随分と詮索してくる。 彼女が王妃派の回し者である可能性は低いと思いたいが、確かめておく必要はあるだろう。俺はわざとらしく口端を吊り上げて見せた。


「縁ならこれから作るつもりだ。……随分と熱心に探るな。もしや、王妃派に告げ口でもするつもりか?」


セシルは間髪入れずに応じた。


「私は王妃派とは距離を置いています。だからこそ、放蕩王子の担当などという閑職に回されたのですよ」


即答だった。彼女は冷めた瞳のまま続ける。


「もともと王宮のような窮屈な場所で働きたくはないのですが、実家の経済的支援のために仕方なく、といったところです」


「そうか……疑って悪かったな」


俺は気まずさを誤魔化すように、スープを口に運んだ。


「ところで王子、私はあなたの専属癒術師に任じられています。あれほどの高熱の後ですから、しばらくは経過観察が必要です。他に急ぎの仕事もありませんので、しばらく行動をご一緒させていただこうと思いますが、構いませんか?」


「ああ、癒術師が同行してくれるなら心強い」


俺は数秒考えた後、彼女を真っ直ぐに見据えて告げた。


「ただし、俺と共にある間に見聞きしたことは一切口外無用だ。たとえ父王陛下であっても、だ。約束できるか?」


セシルの鋭い視線が眼鏡の奥で光る。


「随分な要求ですね。ただの一癒術師には、少々荷が重い話です」


「分かっている。その交換条件として……俺の企みが順調に進めば、給金は今と同額で、この退屈な王宮の外でやりがい溢れる職務を提供できるだろう」


「……放蕩王子にそんな提案をされても、にわかには信じがたいですね」


「そりゃあごもっともだ。まあ、近いうちに答えを聞かせてくれ」


その時、扉がノックされた。


「テオドール様、準備が整いました。東門に馬車と護衛が待機しております」


「ありがとう、コレット。……さて、武神様へ挨拶に行くとしようか。あ、それからコレットセシル殿も経過観察のためにしばらく同行することになった」


「まあ! 癒術師様がいらっしゃれば安心です。セシル様、ありがとうございます!」


セシルは少し複雑そうな表情のまま会釈し、俺たちの後についてきた。


東門の外に用意されていたのは、王族用としてはあまりに質素な四人乗りの馬車だった。 護衛は御者を含めて三名。王城区画の外へ出るには心許ない戦力だ。


「テオドール様、申し訳ございません……。急な手配だったとはいえ、あまりにも……。近衛局に苦情を言って参ります!」


コレットが申し訳なさそうに肩を落とすが、俺は首を振った。


「構わんさ、コレット」


これまでのテオドールの行いを考えれば、軽んじられるのは当然の結果だ。むしろ、目立たなくて都合がいい。


(侮りは最高の隠れ蓑になる…特に今は)


俺は口端をわずかに釣り上げた。無能な王子が、気まぐれに神頼みへ向かう――周囲にはそう映っていればいい。


俺は迷いのない足取りで、三人の兵士たちのもとへ歩み寄った。

お世話になっております。Tastyです。

ここまでご覧いただきどうも有り難う御座います。


もう少し先まで進めたかったのですが、思ったより文量が増えたため一旦区切ります。

どうしても序盤は世界観の説明が長くなり、読み辛いかもしれません。力不足で恐縮です。


それでは、次話でまたお会いできますことを楽しみにしております。


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登場人物紹介

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【主人公】


八雲 蓮 (20歳)

難病を患う妹・凛を救うため、クリア報酬「願いを叶える」を求めてストラテジーゲーム『ヴィクターナ戦記』の世界へ転生した。


挿絵(By みてみん)

テオドール・アストレウス (15歳)

アストリア王の側室の子で、放蕩王子と呼ばれていた不良少年。熱病によって死を迎えたが、蓮の精神が転生することで蘇生した。身体強化魔法の才を持つ。


【テオドールと行動を共にする人物】


挿絵(By みてみん)

コレット・フィディア (35歳)

テオドールの専属侍女。テオドールの母ロザリーが出産と同時に死去した後、宮廷内で孤立するテオドールを幼少期から支えてきた。


挿絵(By みてみん)

セシル・グラティア (25歳)

王宮所属の女性癒術師。他の宮廷癒術師が匙を投げた結果、異例の若さで王子であるテオドールの治療を担当することに。


【アストリア王宮の面々】


挿絵(By みてみん)

ルイ・アストレウス (55歳)

アストリアの現国王。優柔不断かつ臆病。北の大国エクイタニアの意を汲む王妃や宰相の傀儡と化している。


挿絵(By みてみん)

イザベラ・アストレウス (40歳)

アストリアの現王妃で継室。大国エクイタニアの有力貴族オプシディウス家の長女。権力欲が強く、実子リシャールの王位継承に固執している。


挿絵(By みてみん)

リシャール・アストレウス (18歳)

イザベラの第一子でアストリアの皇太子。エクイタニアに派遣されている北軍の元帥の任に着く。尊大かつ傲慢で、庶民からの受けは悪い。


挿絵(By みてみん)

マルグリット・アストレウス (16歳)

イザベラの第二子で長女。母に似て高飛車だが小心者。


挿絵(By みてみん)

ルドルフ・アストレウス(14歳)

イザベラの第三子で次男。内向的で、自室に籠りがちと噂されている。


挿絵(By みてみん)

ジュール・ドロス (46歳)

宰相であり北方の大貴族ドロス家当主。親エクイタニア派の貴族筆頭で、王妃と結託してアストリアの属国化を推進していると目される。


挿絵(By みてみん)

リュシアン・ヴェリタス (58歳)

王宮図書館の館長。北部の大貴族の三男で現国王の学友だった。政争からは身を引いているが、アストリアの行く末を案じている。


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挿絵(By みてみん)

セントゥリア大陸地図

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