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ヴィクターナ戦記  作者: Tasty
第4章 南軍合流
30/40

26話 炎の魔女

挿絵(By みてみん)

※挿絵等に生成AIを使用しております。

※登場人物集&地図は章末に移動しました。ネタバレにご注意下さい。

俺たちは要塞都市ヴァラリアを出立し、前線より内側にある村々を経由しながら、駐屯地に向かっていた。


(南部の暮らしを見ておくのにいい機会だ……こっちにきてからはゴブリンとの戦闘続きだったからな)


「……随分と酷い道ですね。前線近くの兵站路と大差ないです」


向かいの席に座るコレットが、悪路の揺れに耐えながら小さく呟いた。見渡す限り未舗装の泥道が続き、雑木林が点在しているせいで視界も悪い。


「なに、馬車が通れる道があるだけマシさ。場所によっちゃ、大雨で道が流れる地域もあるんだからね」


俺の隣にはベルナデットがふんぞり返るように座っていた。彼女は退屈そうに外を眺めているが、その瞳の奥には常に鋭い警戒色が宿っている。


ほどなくして、道沿いに小さな村落が見えてきた。


「先に見える村で休憩を入れよう。農民の実情も見ておきたいしな」


だが、近づくにつれて、俺の眉間には自然と皺が寄った。そこは「村」と呼ぶにはあまりに生気が欠落している。


入り口付近の畑は踏み荒らされたまま放置され、修復されていない柵や、崩れたままの石壁が目立つ。


村に若い男の姿はほとんどない。徴兵で連れて行かれたか、出稼ぎに出たか、あるいは戦死したかだろう。


「……水をもらいたい。代金は払う」


俺が井戸の近くにいた老人――村長らしき男に声をかけると、男はビクリと肩を震わせ、恐る恐るこちらを振り返った。


「へ、兵隊様……でしょうか。それともお貴族様……?」


「ただの旅の者だ。水と、少しばかりの情報をくれればいい」


俺が銀貨を1枚渡すと、村長は信じられないものを見るような目でそれを受け取り、ようやく重い口を開いた。


「ありがとうございます……ですが、見ての通り、この村にはもう差し出せるものは何もございません」


「この惨状、ただ事ではないな。何があった?」


村長は周囲を憚るように視線を巡らせてから、搾り出すように言った。


「……ゴブリンです。奴らが森を抜けて頻繁に襲撃に来るのです」


この辺りは我らが西部方面旅団が『拘束と打撃』ドクトリンで防衛している地域だ。だが、数匹のゴブリンは索敵小隊から見落とされることが多々ある。


「備蓄していた食料はあらかた奪われました。家畜も食われ、先日は……逃げ遅れた子供が1人、喰われました」


「……衛兵は何をしている? 領主から派遣されているはずだろう」


俺の問いに、村長は絶望に染まった顔で首を振った。


「いることはいますが、装備も古く士気も低いのです。ゴブリン相手に槍で威嚇するくらいしかできず……それならと南軍に頼もうにも『前線維持で手一杯だ』と相手にされません……」


そこまで言うと、村長は声を震わせた。


「それでいて、税の取り立てだけは厳しいのです。何かと名目をつけて、種籾まで持っていかれる始末。隣村では食うに困って盗賊まがいのことまで起きていると聞きます。もう、限界です……」


俺は何も言わず、懐から干し肉の入った袋を取り出し村長に渡した。それが一時凌ぎにもならない偽善だと知りながら。



村を出て、再び馬車が動き出す。車内の空気は、来る時よりもさらに澱んでいた。


「……笑えないね」


沈黙を破ったのはベルナデットだった。彼女は口元を歪め、吐き捨てるように言った。


「南部の村はどこも似たようなもんだ。農民はゴブリンに食われるか、飢えて死ぬかを選ばされてる。そのくせ、王都やヴァラリアの貴族様たちは贅沢三昧らしいじゃないか」


彼女の言葉は鋭い棘となって、王族である俺に突き刺さる。


ゲームではこの状況は単なるパラメータの変動に過ぎなかった。『治安度』が悪化し、『民忠』が低下する。画面上の数字が赤くなるだけのことだ。


プレイヤーだった頃の俺なら、「効率が悪いな、治安維持にコストを割くか」と淡々と処理していただろう。だが、現実は違う。そこには、奪われた生活があり、泣き叫ぶ子供がいて、理不尽な死があるのだ。


「……批判はもっともだ」


俺はあえて冷徹な口調で返した。


「後方の村が疲弊すれば、物資の生産能力が落ちる。補給が滞れば、前線の維持もままならなくなる。治安と経済を軽視する上層部は、自らの首を絞めていることに気づいていないな」


俺の言葉に、ベルナデットが片眉を跳ね上げた。


「へえ? 民が可哀想だ、とは言わないんだね」


「可哀想だとも。だが、同情で腹は膨れないし、ゴブリンも減らない。必要なのは厳しい現実を変えるための方策だ」


俺は拳を握りしめ、真っ直ぐにベルナデットを見据えた。


「富を独占し、義務を果たさぬ者たちはいずれ必ず排除する。だが、それを成すには力が要る。綺麗事だけでは何も守れない」


馬車の窓から、灰色の空を見上げる。


「俺は権力を手に入れる。そのために、まずは南部戦線で誰よりも戦果を上げる必要がある。その過程で蛮族を駆逐すれば、結果として民の生活も安定するはずだ」


「……成人したての坊ちゃんがそんなに上手くやれるのかね」


「やれるさ。あとは部下の腕次第だ」


俺はニヤリと笑って、ベルナデットへ顔を向ける。


「ベルナデット、お前たちにもその剣の1つになってもらうぞ。この腐った現状をひっくり返すのに手を貸してもらおう」


ベルナデットはしばらく俺の顔をじっと観察していたが、やがて「ふん」と鼻を鳴らし、面白そうに笑った。


「口だけの甘ちゃん王子かと思ってたが……案外、本気みたいだね」


「本気も本気だ。そのために王宮を出奔したんだ」


「いいだろう。王子の理想とやら、特等席で見せてもらうよ。報酬分はきっちり働いてやる」


彼女の目から侮蔑の色が消え、代わりに宿ったのは、値踏みするような興味の光だった。



アストリア王国南西部の小都市、ネモリスに着いた。ここから真っ直ぐ南下すれば、テオドール小隊が所属する第一大隊の担当戦域に当たる。


挿絵(By みてみん)


森林地帯に面したこの街は、古くから林業と木工業で栄えてきた。本来であれば、街の入り口をくぐった瞬間に、爽やかな木の香りと、活気ある製材の音が旅人を迎えるはずだった。


だが、今のネモリスを包んでいるのは、鼻を突く焦げ臭さと、重苦しい沈黙だけだ。


「……こいつは酷いな」


幌馬車の窓から外を覗き、ベルナデットが顔をしかめた。


俺たちの視線の先――街の西側一帯が、無惨な焼け野原と化している。


黒く炭化した柱が墓標のように突き出し、半壊した家屋からは未だに白い煙が細く立ち上っている。火災から数日が経過しているはずだが、熱気はまだ完全には引いていないようだ。


「これだけの規模の火災……ただのボヤや失火ではありませんね」


コレットが青ざめた顔で呟く。


街路を行き交う人々は一様に俯き、俺たちの馬車に目を向ける余裕すらない様子だ。彼らの目には、恐怖と憎悪が入り混じった暗い色が宿っていた。


「この惨状は何だ? 敵襲か?」


俺は通りがかった男に声をかけた。男は木こりのような身なりをしていたが、その肩は力なく落ちている。


「いや……違う。『魔女』だよ」


男は焼け跡の方角を睨みつけ、憎々しげに吐き捨てた。


「あの忌々しいガキがやりやがったんだ。突然、身体から火を噴き出して……あっという間に3つの通りが燃えちまったらしい。俺の店も、家も、なにもかもだ」


「子供が火を? 放火か?」


「そんな生易しいもんじゃねえ! あれは呪いだ! 数十人が焼け死んだんだぞ!」


男は興奮したように叫ぶと、これ以上関わるなと言わんばかりに足早に去っていった。


残された俺たちの間に、重い空気が流れる。


「……魔女、か」


俺は顎に手を当て、思考を巡らせた。


(『ヴィクターナ戦記』に魔女やら呪いやらといったオカルトめいた設定はなかったはずだが……)


「コレット、ベルナデット。今の話、どう見る?」


コレットは悲痛な面持ちで口を開いた。


「おそらく……『魔力暴走』でしょう」


「魔力暴走?」


「……テオドール様、ご存じありませんか? 魔法学の基礎講義で習うはずですが」


コレットが怪訝な顔をする。


「……講義は寝ていたからな。詳しく頼む」


悪びれもせずに答えると、コレットは小さくため息をつき、説明を始めた。


「魔力暴走とは、主に幼少期の子供に起こる現象です。生まれつき強力な『魔力回路』を持っているにもかかわらず、精神の未熟さや制御技術の欠如により、体内の魔力を抑えきれなくなる状態を指します」


「なるほど。聞けば確かにあり得そうな話だ」


「そして、その子が『元素魔法』の資質を持っていた場合、大災害となります」


コレットは焼け焦げた街並みに視線をやった。


「特に火や雷の属性を持つ子供が暴走すると、周囲を一瞬で破壊し尽くすことがあります。本人の意思とは無関係に、感情の高ぶりなどが引き金となって」


「ふん、よくある話さ」


今まで黙っていたベルナデットが、つまらなそうに鼻を鳴らした。


「……それで? その暴走した子供はどうなる」


俺の問いに、ベルナデットは冷酷な事実を告げた。


「処刑だ。それ以外にないだろう?」


彼女は親指で首を掻っ切る仕草をした。


「いつ爆発するかわからない爆弾を抱えてるようなもんだ。この大陸じゃ、魔力暴走を起こした子供は『忌み子』として即刻処分されるのが掟だよ」


コレットが手で顔を覆い、嗚咽を漏らす。


「まだ子供なんですよ……きちんとした指導を受け、訓練を積めば、立派な魔術師になれるかもしれないのに」


「甘ちゃんだね、メイド様」


ベルナデットは冷ややかな目でコレットを見据えた。


「その『指導』ができる人間がどこにいる? 王都の魔術院ならともかく、こんな田舎町に元素使いなんているわけがない。それに、一度暴走した回路は癖になる。次に癇癪を起こしたら、また人が死ぬんだよ。あんた、犠牲者の遺族の前で同じことが言えるのかい?」


「それは……」


コレットは言葉を詰まらせ、唇を噛み締めた。


正論だ。被害を受けた側からすれば、その子供は殺人鬼以外の何物でもない。


「現に、牢にぶち込まれてるってことは、処刑が決まったんだろうよ。明日の朝には広場で火あぶりか、首を刎ねられるか……ま、せいぜい苦しまないように祈ってやるのが慈悲ってもんだ」


ベルナデットは興味を失ったように背もたれに体を預けた。車内は再び沈黙に包まれる。


だが、俺の内心は、2人の会話とはまったく別のベクトルで動いていた。


(強力な元素魔術師は喉から手が出るほど欲しい。現に西部方面旅団には片手で数えるほども存在しない。それに『ヴィクターナ戦記』において、魔力暴走なんて言葉は存在しなかった。単に魔法の制御技術が未熟なだけなら、鍛錬でどうにかなる可能性がある。……その忌み子とやら、この目で確認しないわけにはいかないな)


「……その子供に興味がある。今どこにいるかわかるか?」


「ええと……先ほどの男性の話では収監されていると。おそらく、街の衛兵詰所か、地下牢でしょう」


コレットは不安そうに答えた。


罪状は大量殺人。処刑は確定。街の住民は憎悪に燃えている。普通に考えれば、手出し無用だ。関われば、俺たちまで住民の怒りを買いかねない。


「まさか、助けようなんて言い出すんじゃないだろうな」


ベルナデットが呆れたように俺を見た。


「助ける? 違うな。才能を有効活用したいだけだ」


「はあ?」


「制御不能なら、制御できるようにすればいい。人殺しなら、敵を殺させれば英雄だ」


俺の言葉に、コレットが息を呑み、ベルナデットが目を丸くした。


「おいおい……正気か? 火種を抱え込むことになるんだぞ。この街の連中だって黙ってない」


「まあ、見てろ。何事もやりようはあるさ」



衛兵詰所の地下にある石造りの牢獄へ続く階段を、俺たちは降りていた。


案内するのは衛兵3人。そして、この街を治める男爵も同行している。


「……今からでも引き返しましょう、殿下。とてもじゃないですが、王族の方にお見せする光景じゃございません」


男爵はまだ、抵抗の意思があるらしい。俺たちが領主館を訪れ「魔女に会わせろ」と要求すると、この男爵は酷く抵抗し、数十分問答した上でようやく折れたのだった。


「何度も言わせるな。案内だけすればいい。卿の不利益にはならないよう配慮するから、安心してくれ」


「……何卒、ご高配をお願いいたします。家が燃え、家族が焼け死に、住民は気が立っておりますので……」


(この男の頭の中は保身でいっぱいで、なんとか『魔女』を吊るし上げて住人のガス抜きをしたいらしい。民を制御する自信が無いのだろう)


「こちらです」


衛兵が地下牢の松明に火を灯す。


鉄格子で囲われた牢が5つ。一見すべてがらんどうに見えたが、手前の牢に布の塊が転がっている。空気は淀み、腐敗臭と焦げた肉の臭い、そして消毒用の薬草の香りが混ざりあっていた。


「うわっ、キツイねぇ。こりゃ酷い」


後続のベルナデットが鼻をつまみ、顔をしかめる。


コレットは口を抑え、目に涙をためて震えていた。


「当家の癒術師が被害者と勘違いして必死に治療してしまいましてね、なんとか一命をとりとめてしまったんですよ。アメリという娘なのですが、いっそのこと死体だったら簡単な話だったものを……」


俺は男爵を鋭く睨み、黙らせた。


「開けろ」


衛兵は牢の鍵を開けたが、扉を開けることなく後ずさり、こちらを見る。その怯えた表情を見るに、いまにも階段を駆けあがりたいのだろう。


俺は躊躇なく独房の中へと足を踏み入れた。


薄暗い部屋の隅、藁の上に、それは転がっていた。


全身を白い布で幾重にも巻かれ、さながらミイラのように見える小さな人影。包帯の隙間からは、焼け爛れた皮膚と、絶望に濁った瞳が覗いている。


「……ひっ、うぅ……」


俺の存在に気づいたのか、少女は小さく身を震わせた。その喉から漏れる音は、言葉というよりは、壊れた笛のような掠れ声だった。


「……殺して……」


「ほう?」


俺は少女の枕元に立ち、見下ろした。


「殺して……ください……もう、痛いのは……嫌……」


「痛みか? それとも、罪の意識か?」


俺の言葉に、少女の身体がビクリと跳ねた。


彼女は包帯でぐるぐる巻きにされた腕を、なんとか動かして顔を覆おうとする。


「私が……殺したの……お父さんも、お母さんも……ジャンも……みんな……私が……」


涙が包帯に染みていく。


「熱かった……みんな、叫んでた……助けてって……でも、火が消えなくて……私の身体から、どんどん火が出て……」


「お前には炎魔法の才があったのさ。それが突然開花して暴走した。不幸な事故だ」


俺は淡々と事実を告げた。


「……私は忌み子だって……呪われた子だって……いままで普通に暮らしていたのに……家族みんなで……」


「俺は呪いなんてものは信じていない。だが事実として、お前は人の皮をかぶった爆弾だ。一度着火すれば、周りのすべてを灰にするまで止まらない」


「あぁああっ! ごめんなさい、ごめんなさいっ……! 死にます、死なせてください……っ!」


少女は半狂乱になって叫び続ける。


男爵が目を背け、コレットが痛ましげに口元を押さえる。


だが、俺はしゃがみ込み、その小さな頭を掴んで無理やり上を向かせる。


「そうか。だが、死んでどうなる?」


俺は冷ややかに言い放った。


「お前が死ねば、両親が生き返るのか? 焼け死んだ弟が戻ってくるのか? 巻き添えになった住人が、焼けた街が、元通りになるのか?」


「そ、それは……」


「ならない。何も変わらない。お前が死んで残るのは、『魔女が死んで清々した』という住民の安堵と、被害者が無駄死にしたという事実だけだ」


少女の瞳が激しく揺れる。


俺はさらに畳み掛ける。


「お前はただの災害として処理され、歴史の闇に消える。お前の家族は、娘に殺された哀れな被害者として人々の記憶に刻まれる。それでいいのか? それがお前の望む償いか?」


「じゃあ、どうすればいいの……!? 私には、もう何も……こんな力、欲しくなかった! 普通に暮らしたかっただけなのに……! 私が生きているだけで、また誰かを傷つける……! なら、死ぬしかないじゃない!」


その悲痛な叫びに、背後のコレットが思わず前に出ようとした。


だが、俺はそれを手で制し、少女の目を真っ直ぐに見据える。


「違うな。生きる道はある」


「……え?」


「お前のその力――『呪い』を、『武器』に変えるんだ」


俺は少女の包帯だらけの手を掴んだ。


熱い。未だに彼女の体内では、強大な魔力が暴れ回っているのがわかる。


「力を制御する方法を見つけ、鍛え、自在に扱えるようにするんだ。そうすれば、これ以上誰かを傷つけることはなくなる」


「……そのあとは?……大勢を殺しておいて……いくら謝っても許してもらえるわけない……」


「そのとおり。お前は許されざる大量殺人者だ」


無慈悲な言葉を聞いて少女は嗚咽を漏らす。もはや流す涙も残っていない。


「……1つだけ罪滅ぼしをする方法がある」


「……そんなものあるわけない!! 人殺しなのよ!!」


俺は暴れようとする少女を力強く抱きかかえた。


「お前が奪った命の分だけ、いや、それ以上に多くの民を救ってみせろ。お前のその業火で、罪のない人々ではなく、害なす敵を焼き尽くせ。それが、お前に残された唯一の『罪滅ぼし』だ」


「敵を……焼く……?」


「そうだ。地獄の業火を背負ったまま、民のために戦え。そうすれば、お前の両親も弟も、焼け死んだ町民も、ただの無駄死にではなくなる。『民を救う英雄の礎』として、その死に意味が生まれる」


(詭弁だ。死んだ人間に意味などない。それは生き残った者が勝手に付与する物語に過ぎない。だが、絶望の淵にいる人間には、その『物語』こそが蜘蛛の糸となる)


少女の瞳に、わずかな光が宿る。


それは希望というよりは、妄執に近い、暗く鋭い光だった。


「……私が、戦えば……お父さんたちの死に、意味ができるの……?」


「ああ、お前が英雄になれば、誰もがお前の家族を称えるだろう」


「……でも、怖い。また暴走したら……また、誰かを……」


「させない」


俺は断言した。


「お前が魔力の制御を身に付けるまで、俺が全力で助けよう。そしてお前を導き、その力を民のために使う方法を教えてやる」


俺は少女の手を強く握りしめた。


彼女の体温が伝わってくる。


「あなたは……いったい……」


「俺はテオドール・アストレウス。この国の王子だ」


少女の曇った目が見開かれる。


「選べ、アメリ。ここで惨めに処刑されて終わりか。それとも、修羅の道を歩んで罪を償うか」


長い沈黙があった。


地下牢の澱んだ空気の中、彼女の荒い呼吸だけが響く。


やがて、包帯に巻かれた小さな手が、俺の手を弱々しく、しかし確かに握り返してきた。


「……連れて行って、ください」


彼女の声から、迷いは消え失せていた。


「この命、あなたにあげます。私が犯した罪を、炎で償うことができるなら……どんな地獄へでも」


「いい返事だ」


俺は満足げに頷く。


「テオドール様……!」


たまらずコレットが駆け寄ってくる。


背後では、ベルナデットが「へえ」と感心したような声を漏らしていた。


一方、男爵は呆気にとられた表情で俺たちを見ていた。


「で、殿下……本気で、この娘を連れて行かれるおつもりで? 住民が納得するとはとても……」


「そうだな。まともに話しては暴動が起きるか」


俺は住民の怒りを逸らしつつ、アメリを確実に手中に収めるための『筋書き』を脳内で組み立てた。


「よし――一芝居打つとしよう。ベルナデット、男爵、手伝ってもらうぞ」


俺は有無を言わせぬ迫力を纏い、ニヤリと不敵に笑って見せた。

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