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2話

挿絵(By みてみん)

※挿絵等に生成AIを使用しています。

気がつくと、俺は底知れない暗闇の中にいた。目を閉じているわけではない。そもそも、瞼を開閉する感覚すら消失している 。どこかに腰掛けているような気はするが、臀部に伝わるはずの触感も、空気の揺らぎすら感じられない完全な虚無だ 。


「まさか……俺は死んだのか……?」


脳裏をよぎるのは、病室で力なく笑っていた妹・凛の姿だ。何も成し遂げられず、あいつを助けることもできずに死ぬ。そんな結末は、到底受け入れがたい。もしこの虚無が永遠に続く「死後の世界」だとしたら、神様ってやつは残酷が過ぎるだろう 。


絶望に呑み込まれそうになったその時、正面に一点の光が灯った。光は急速に広がり、まるでスクリーンに映し出される映画のように、ある「映像」を映し出し始めた 。


最初はピントの合わないレンズのようにぼやけていたが、やがて焦点が合っていく。どうやら、誰かの視点を追体験しているらしい 。

重厚な木製家具、白と黒のコントラストが鮮やかなメイド服の女性、無骨な石造りの壁。視界が外へ向くと、そこには巨大な城砦がそびえ立ち、甲冑に身を包んだ騎士が馬を駆っていた。極めつけは、ローブの老人がその掌から鮮烈な炎を生み出した瞬間だった 。


「中世ヨーロッパ風の街並みに、魔法……まさか、ヴィクターナ戦記の世界なのか?」


視界の主は、一人の少年だった。音のない無声映画のような映像だが、彼が城で生活し、極めて高い身分であることは理解できた。常に一人の侍女が付き従っているが、両親らしき人物は一度も現れない 。  少年は幼い頃から部屋を抜け出し、物を壊し、やりたい放題に荒れていた 。


「子育てってのは大変そうだな。……まあ、俺にはそんな機会、一生巡ってきそうにないけどな」


こんな状況で自分でも呆れるほど呑気な感想を抱きながら、俺はその映像に見入った。


場面は変わり、少年が侍女に連れられて大広間に通される。玉座に鎮座するのは、豪華絢爛な衣服を纏った初老の男――国王だろうか。王は親しげに語りかけているようだが、十歳ほどになった少年は露骨に反発し、ついには侍女の手を振りほどいて広間を飛び出した。驚くべきことに、彼はそのまま城の壁を蹴り上がり、重力すら無視したような動きで城外へと消えていった 。


「俗に言う『放蕩王子』ってやつか。あの身のこなし、身体強化魔法の才があるようだな」


この世界において、身体強化魔法は最もありふれた魔法だ。だが、その出力には個人差が大きい。


それからの少年は、ますます荒れた。城の内外で問題を起こし続け、救いようのない思春期を謳歌していた。しかし、その日々は突如として終わる。少年が激しい高熱に倒れ、寝たきりになったのだ。視界は激しく霞み、献身的に介抱する侍女の姿さえおぼつかない 。


「……年貢の納め時、か」


数日後。視界のぼやけは耐えがたいほどに強まり、やがてぷつりと、視界は再び暗転した。少年は、死んだのだ。どこか凛の境遇と重なり、胸の奥に切ない痛みが走る 。


その瞬間、背中に「重み」が戻ってきた。


「これは……ベッドか?」


鼻をくすぐる、爽やかなハーブの香り。耳を打つのは、暖炉で薪が爆ぜる心地よい音。全身を包む布団の温もりを感じると同時に、鈍い頭痛が這い上がってきた 。


「気絶してどこかに寝かされているのか? 今の映像は……たちの悪い夢か何かか」


そう自分に言い聞かせ、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。視界に広がったのは、漆喰が塗られた白い壁と、年季の入った木の天井。部屋の隅にある大きな机の向こうで、茶髪の女性が熱心にすり鉢を動かしていた 。


「……コレット……」


知らないはずの名前が、自然と口をついて出た 。


「っ!? テオドール様!」


女性――コレットが弾かれたように振り返り、こちらへ駆け寄ってくる。映像の中で、ずっと少年の傍にいたあの侍女だ 。


「気がつかれたのですね! ああ、ルミナス様、アルマリア様……慈悲深きご加護に感謝いたします……!」


彼女は俺を抱きしめるようにして、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。なぜ俺は、彼女の名を知っている?あの無声映画のような夢では、名前なんてわからなかったはずなのに 。

疑問を抱いた瞬間、頭痛が猛烈な勢いで加速した。夢よりも遥かに鮮明な「記憶」が、濁流となって脳内に流れ込んでくる 。


「テオドール様!? どうされましたか、頭が……!? すぐに癒術師様を呼んで参ります!」


コレットは扉を引きちぎらんばかりの勢いで開け放ち、廊下へと走り去っていった。


記憶の奔流は止まらない。アストリア王国の庶子、テオドール・アストレウスとしての15年間の記憶。  

母、ロザリーを産後すぐに亡くし、孤独と劣等感の中で荒れ狂った日々の後悔。そして、病魔に冒され、無念の中で一度途絶えた意識の終着点 。


――理解した。この体の主は、病で命を落とした。そこへ俺、八雲蓮の精神が入り込み、蘇生したのだ 。


あまりに現実離れしている。だが、もしこれが『ヴィクターナ戦記』の世界そのものであるなら。そして、俺の精神が何らかの超常的な力でこの死にかけの少年に転生したのだとしたら。


あの不気味な難易度6、『星に願いを』の報酬が本物で、クリアすればどんな願いも叶うというのなら。


(……やってやるさ)


凛の命を救うためなら、例えここが地獄であっても、俺は世界を征服してやる。テオドールとしての新たな人生、その幕が上がった瞬間だった。

お世話になっております。Tastyです。

ここまでご覧いただきどうも有り難う御座います。

ストーリーの構想は概ね定まっているのですが、本文を書くとなると手が止まってしまいますね。

まだ先になりますが、RTSらしさを前面に出せる場面を描写することを作者ながらワクワクしております。


それでは、次話でまたお会いできますことを楽しみにしております。

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