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17話

挿絵(By みてみん)

※挿絵等に生成AIを使用しております。

※登場人物集は、後書きに移動致しました。

※スマホからだと画像の読み込みに時間がかかる/更新しないと表示されない場合が御座います。

次の宿場町へ向かう道中。のどかな昼下がり。 俺は地面の上で座禅を組み、魔力制御の鍛錬に励んでいた。正面には向かい合うようにエリナが座り、同じ鍛錬に努めている。


「司教の言い付けを守れ! この放蕩王子!」


そうエリナに叱咤され、馬を休めるたびにこの鍛錬を強要されている。 確かにゴーティエ司教からは、日々魔力制御の鍛錬を続けるように念を押されていた。しかし、まさかここまで徹底的に、隙間時間まで埋められてしまうとは。 まったくこれだから狂信者は……


「おい! 魔力が乱れているぞ! 集中しろ!」


エリナの高い声が響く。 彼女の身体強化魔法の才は凄まじいらしく、ラウルと同じように他者の魔力のゆらぎを感知できる領域に達しているようだ。ハッキリ言って、今後が楽しみな逸材だ。


「だから集中しろって!」


言うが早いか、膝を蹴られた。この乱暴が歳とともに収まることを願うばかりだ。


「二人とも! 昼食にしますよ!」


コレットの呼びかけにこれ幸いと立ち上がり、エリナに引き止められる前にさっさと馬車の方へ退散した。



俺は宿の食堂で、机に突っ伏していた。


「一人も……集まらない……くそったれ……」


今日は三つめの宿場町で人材を探し回ったが、ついぞ有望な者は見つけられなかった。 明日には中部都市コルディアに着く。それまでに一人も集められないとは想定していなかった。


「そんなものですよ、王子。もとより、有望な兵士候補を簡単に見つけられるなら、南軍の人員不足もいまごろ解消しています」


レオが、慰める気など微塵もなさそうな淡々とした口調で言った。


「なんかこう……見ただけで魔法の才能が分かるような、そんな道具はないものか」


「そんなものがあれば、領土を半分売っぱらってでも買いたいという国がいくらでもあるでしょうね」


そりゃそうだ。この世界には戦術級の破壊力を持つ戦士や魔法使いが存在する。そんな高度人材に育つ金の卵を見定めることができれば、覇権を握るのも容易だろう。


「この際、一人ずつ探すのではなく、何かしらの集団をまとめて採用するのはどうですか? 王子が一人ずつ見定めて三十人を集めるのは、相当な時間がかかりそうですよ」


セシルが助け舟を出すように提案してくる。


「そんな都合のいい集団がどこにいる? それこそ軍属くらいなものだろう」


それでは最初から南軍の小隊を指揮しろという話に戻ってしまう。


「明日は大都市コルディアに到着します。人が多い分、宿場町よりは可能性があるでしょう。今日のところは明日に備えてしっかりと休むのが吉です」


ラウルの言う通りだ。明日はようやく中部最大の都市、コルディアに到着する。


「そうだな。コルディアに期待するとしよう」


その一言で今宵は解散となった。



中部都市コルディアは、人口一万人を擁する堅牢な城壁都市だ。 王都アストレオンと南部要塞都市ヴァラリア、さらには西部の都市ディシアを結ぶ交通の要衝であり、街は行き交う人々と物流の熱気で活気に満ちていた。 ラウルは過去に何度か訪れた経験があるらしく、慣れた様子で馬車を先導していく。


城門ではひと悶着あった。 供回りが数名の小部隊、しかも豪奢な装飾もない馬車とあっては、衛兵が「王子一行だ」と信じられなかったのも無理はない。数十分の問答の末、ようやく身分証の確認が取れると衛兵は青ざめ、慌てて領主の城への道が開かれた。


通された城は都市の規模に比して小さく、質素な造りだった。 王城の十分の一にも満たないだろうが、無駄がなく機能的だ。迎賓室の調度品も華美な装飾は削ぎ落とされており、領主の実利を重んじる気質が色濃く表れている。


「これはこれはテオドール殿下。お初にお目にかかります。私はこの一帯を治めるノミコス家当主、クロード・ノミコスと申します」


挿絵(By みてみん)


現れたのは、長い手足に端正な顔立ちをした初老の男だ。若い頃はさぞ浮名を流しただろう美貌だが、その瞳には事務的で冷静な光が宿っている。彼がコルディアの領主だ。


「ノミコス卿、此度は予め連絡も無く失礼した。半ばお忍びの旅路となっていてな」


「伺っておりますよ。なんでも私兵を組織して、南軍へ合流されるとか。ですが……まだ頭数は揃っていないようですね」


流石は交通の要衝を握る領主だ。情報収集に余念がない。 俺たちが到着するより早く、王都あるいは街道筋から情報が入っていたらしい。


「正確には、私兵ではなく正規軍の枠組で、俺に指揮権がある独立部隊だ。その件で是非、ノミコス卿の助力を仰ぎたい」


「私どもにできることなら何なりと。まずはご用件を伺いましょう」


柔和な笑みを浮かべてはいるが、なんとも油断ならない雰囲気の男だ。 だが、悪意や罠があるようには感じない。事前の調べでは、ノミコス家は北部貴族と南部貴族の軋轢に対し、徹底して中立を保ってきた歴史がある。それゆえに、この地域の領地運営は極めて安定的だと評判だった。


「単刀直入に言おう。俺は自ら小隊を編成して南へ向かうつもりだが、肝心の人材が不足している。そこでコルディアで募兵を行いたいのだが、どこか有望な人材に心当たりはないだろうか」


ノミコスはこの質問を予見していたのか、表情一つ変えずに即答した。


「はっきりと申し上げれば、心当たりはありません。優秀な者は北軍へ、そうでなければ街の衛兵に。市中に残る者は、その衛兵にすらなれなかった者だけでしょう。女子供に至っては……正直、武官として有望な者など見たこともありませんな」


後ろで控えていたコレットの眉がピクリと跳ねたのが気配で分かった。セシルとエリナを部屋の外に待機させておいて心底良かった。特にエリナが聞いていたら、この場で乱闘騒ぎになっていたかもしれない。


「左様か……。では、貴族の三男や四男はどうだろう。北軍の選抜には漏れたが燻っている者たちの中に、眠れる才能があるかもしれないと考えているのだが」


「……残念ながら。北軍の選抜に落ちた者が、殿下のお眼鏡に叶うとは到底思えません。殿下の連れている王宮近衛の方々と比べてしまえば、それこそ天と地ほどの差があるでしょう」


俺は落胆とともに迎賓室を後にすることになった。 ノミコスは今までの町長たちに比べれば協力的ではある。だが、既存の評価基準――いわゆる貴族の出世コースから外れた者を『無能』と切り捨てる実利主義者であり、俺が求める『規格外れの人材』には見当もつかないようだった。


「さーて困ったな。貴族の別邸回りを始めるか? その前に武神教会に行くか。たしかコルディアにも支部があったはずだな?」


城に用意された客間で、俺たちが今後の方針を話し合っていると、給仕をしていた執事の一人が申し訳なさそうに声を挟んだ。


「失礼ですが、コルディアの武神教会は数年前に閉鎖となりました。資金難だったようです」


「なっ……!?」


執事の言葉に、信徒であるエリナが激昂して飛びかかろうとするのを、ジュリアンが慌てて後ろから羽交い締めにする。


「なんと……十年前は細々と活動していたのですが……」


ラウルもショックを隠せないようだ。


「残念ながら、ここ中部地域は南の蛮族領土からも北のエクイタニアからも、それなりの距離があります。平和ゆえに兵士への敬意が薄く、それゆえ武神教への信仰も先細りしてしまったのです。特に最近は、光神教が庶民の間に浸透しています」


光神教とは、一言で言えば「平和」と「選民思想」を掲げる宗教だ。 その教義は『貴族の支配権は、光神の血を引くがゆえの正当な権利である』と説くもので、支配階級にとっては極めて都合が良い。 組織構造も武神教とは異なり、確固たる総本山が存在する。それこそが、大陸東方に位置する宗教国家――ルミニア教国である。


「嘆いていても仕方がないな。それでは貴族の別邸や連絡所、他には傭兵の斡旋所なんかを回ってみるとしよう」



俺はラウルとジュリアンと共に、コルディアの南地区を巡っていた。 もうコルディアに来て四日目になる。 北地区が貴族街、東地区が商業区、西地区が倉庫街。そして今いる南地区は、それ以外の雑多な人々が集まる下町だ。


最も当てにしていた貴族街での成果は散々だった。それなりに興味を持つ家もあったのだが、俺の『放蕩王子』という悪名と、たかだか小隊規模で戦果を挙げようとする無謀さが敬遠され、まともな交渉には至らなかった。


「この辺りは商館勤めの手代や、労働者階級の住居か……。あまり期待はできなさそうだな」


「出自は関係ないって言ってたじゃないですか、王子! 現に俺も、成り上がり商家の四男坊ですしね」


ジュリアンはこの不毛な人探しすらも楽しんでいるようだ。


「ジュリアン、あまり無責任なことを言うな。私の故郷は五百人規模の比較的大きな村だったが、その中で蛮族とまともに渡り合えたのは私一人だった。平民の中から武芸に秀でた者が生まれる確率など、そんなものだ」


ラウルは厳しい目つきでたしなめる。


「そりゃ、ラウル隊長クラスの傑物ならそうでしょうよ。俺たち『普通の』王宮近衛レベルなら、そこまで高望みはしませんって」


「今は副隊長だ!」


そう言ってラウルは、軽口を叩くジュリアンの頭を小突いた。


(いつも思うが、俺のような生意気なガキに付き合ってくれる皆には感謝しないとな。彼らの常識に照らせば、突拍子もないことばかりに付き合わせているのだから)


そんなことを考えながら街中を散策していると、不穏な一角に出くわした。 年季の入った宿と思しき建物の周りで、十代後半の男たちがたむろしている。


最初は家出少年のたまり場かと思ったが、何かがおかしい。 育ちの良さを感じさせる整った顔立ちに、鍛えられて引き締まった肉体。それとは対照的な、くたびれた衣服と絶望に染まった表情。 その奇妙なミスマッチが、俺の足を止めさせた。


「ラウル、あの一角……なんだと思う?」


俺が問いかけるより早く、ラウルは剣の柄に手を掛けていた。


「不穏な手合いですね……わざわざ近づかない方がよろしいでしょう」


「俺に任せて下さい! サクっと聞いてきますよ」


ジュリアンが軽快な足取りで連中に歩み寄る。賊ではなさそうだが、あまりに無警戒に見えるその後ろ姿に、俺は少しハラハラした。 一団の中でも一際体が大きい短髪の男がベンチから立ち上がり、ジュリアンの行く手を阻むように立つ。 二人は少しの間、何か言葉を交わしていたが、すぐにジュリアンがこちらを振り返り、大きく手招きをした。


「どうやら危険はなさそうです」


身体強化で聴覚を研ぎ澄ませたラウルが、こっそりと耳打ちしてくる。 二人が安全というなら問題ない。俺は怪しげな古宿に向かって歩みを進める。


転生前のテオドールであれば親近感を覚えたであろう、この薄汚れた青年たち。彼らとの出会いが、この旅の大きな転換点になるとは――この時の俺はまだ、予想すらしていなかった。

お世話になっております。Tastyです。

ここまでご覧いただきどうも有り難う御座います。


一行の旅はこれまで苦労続きですが、ようやく次話あたりで進展がありそうです。

本当は一話に入れ込むつもりでしたが、力尽きてしまいました...

それでは、また次話でお会いできますことを楽しみにしております。


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登場人物紹介

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【主人公】


八雲 蓮 (20歳)

難病を患う妹・凛を救うため、クリア報酬「願いを叶える」を求めてストラテジーゲーム『ヴィクターナ戦記』の世界へ転生した。


挿絵(By みてみん)

テオドール・アストレウス (15歳)

アストリア王の側室の子で、放蕩王子と呼ばれていた不良少年。熱病によって死を迎えたが、蓮の精神が転生することで蘇生した。身体強化魔法の才を持つ。


【テオドールと行動を共にする人物】


挿絵(By みてみん)

コレット・フィディア (35歳)

テオドールの専属侍女。テオドールの母ロザリーが出産と同時に死去した後、宮廷内で孤立するテオドールを幼少期から支えてきた。


挿絵(By みてみん)

セシル・グラティア (25歳)

王宮所属の女性癒術師。他の宮廷癒術師が匙を投げた結果、異例の若さで王子であるテオドールの治療を担当することに。


挿絵(By みてみん)

ラウル・ベラトル (42歳)

南軍で蛮族相手に武勲を上げたベテラン兵。王宮近衛に栄転したが、上級貴族の子息中心の近衛隊では浮いてしまっている。


挿絵(By みてみん)

ジュリアン・ルクスリウス (28歳)

成金商家の四男で、父親の意向で王宮近衛に押し込まれた。飄々としていて軽薄な印象を与えるが、近衛兵の選抜試験を通過するだけの実力は持っている。ラウルと同じく、上級貴族の子息中心の近衛隊では浮いた存在。


挿絵(By みてみん)

レオポルド・マイオルム (22歳)

没落貴族の跡継ぎ。実家を経済的に支援するため、給金の多い王宮近衛に入隊した。金目当てというものの、実力で選抜試験を通過している。ラウルと同じく、上級貴族の子息中心の近衛隊では浮いた存在。


挿絵(By みてみん)

エリナ・リギドゥス (13歳)

武神教会に拾われた孤児の少女。ゴーティエ司教から古武術を会得し、年齢に不釣り合いな戦闘力を持つ。武神教の教義に心酔しており、蛮族と戦う場を求めてテオドール隊への入隊を希望した。


【アストリア王国の住人】


挿絵(By みてみん)

ゴーティエ・リギドゥス (56歳)

王都の外れに建つ武神教会の司教。身体強化魔法に精通する。


【アストリア王宮の面々】


挿絵(By みてみん)

ルイ・アストレウス (55歳)

アストリアの現国王。優柔不断かつ臆病。北の大国エクイタニアの意を汲む王妃や宰相の傀儡と化している。


挿絵(By みてみん)

イザベラ・アストレウス (40歳)

アストリアの現王妃で継室。大国エクイタニアの有力貴族オプシディウス家の長女。権力欲が強く、実子リシャールの王位継承に固執している。


挿絵(By みてみん)

リシャール・アストレウス (18歳)

イザベラの第一子でアストリアの皇太子。エクイタニアに派遣されている北軍の元帥の任に着く。尊大かつ傲慢で、庶民からの受けは悪い。


挿絵(By みてみん)

マルグリット・アストレウス (16歳)

イザベラの第二子で長女。母に似て高飛車だが小心者。


挿絵(By みてみん)

ルドルフ・アストレウス(14歳)

イザベラの第三子で次男。内向的で、自室に籠りがちと噂されている。


挿絵(By みてみん)

ジュール・ドロス (46歳)

宰相であり北方の大貴族ドロス家当主。親エクイタニア派の貴族筆頭で、王妃と結託してアストリアの属国化を推進していると目される。


挿絵(By みてみん)

リュシアン・ヴェリタス (58歳)

王宮図書館の館長。北部の大貴族の三男で現国王の学友だった。政争からは身を引いているが、アストリアの行く末を案じている。


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挿絵(By みてみん)

セントゥリア大陸地図


挿絵(By みてみん)

アストリア王国地図

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