11話
「貴族階級から入隊ですから、殿下は少尉に任官となります。王族だろうと規則に変わりはありません。故に指揮できるのは小隊規模の30名まで。これ以上の増員は認められません」
「王位継承権はないが、れっきとした王子だぞ!? それで指揮できるのが小隊だけだと……冗談だろう!! そこらの貴族の三男四男と変わらない扱いだぞ!!」
俺は編成官のあまりに事務的かつ高圧的な物言いに、つい声を荒らげてしまった。
「規則は規則です。王子だろうと特別扱いはできません。陛下からもそう伺っております」
取り付く島もないとはこのことか。
さて、困ったことになった。成人の儀での立ち回りは完璧だったはずだ。だが、狙い通り南軍での士官をつかみ取ったものの、階級は少尉、指揮できるのは小隊の30名ときた。これも王妃界隈からの妨害工作なのだろうか?いや、単なる堅物という線も捨てきれないが……いずれにせよ、これでは南軍のトップまで上り詰めるのに何年かかるか分からない。そもそも可能なのか?
「……いいだろう。ただし編成は俺が行う。いいな? 他に国王陛下から仰せつかったことは? 後出しは無しにしてもらうぞ」
「そうですね……階級を少尉とするよう厳しく言いつけられておりますが……」
「先ほど貴族階級は何者でも少尉からと言っていなかったか? まあいい。貴殿に何を言っても仕方ないことだ。では失礼する」
俺はそう言い捨てて部屋を出た。コレットが小走りでついてくる。
「テオドール様、あのような態度はよろしくありませんよ!これ以上王宮内に敵を作ってはなりません」
「……コレットの言うとおりだな。反省しよう。しかし小隊規模とは困ったよ。大きな戦果を挙げるのは難しいだろうな」
「ですから危険を冒さずに後方にいらしてください。小さな部隊でテオドール様が前線に出るなんて……心配でたまりません……」
コレットは心底不安そうに眉を寄せているが、残念ながらその願いは聞き入れられない。
「そうもいかないんだコレット。武神様への恩を返すためにも、俺の王族としての将来のためにもな」
(そして世界を統一し、妹の凜を助けるためにも)
俺は護衛三人とセシルの待つ馬車に戻り、次は財務省に向かうよう伝えた。
「王子、財務省には何用で? お金が入用ですかい?」
御者のジュリアンが手綱を握りながら軽口を叩く。
「惜しいなジュリアン。どちらかといえば、借金の取り立てだな」
この俺の肉体、テオドール・アストレウスは、庶子とは言え王子であり、従者や護衛にそれなりの人件費が予算化されていた。だが、放蕩の限りを尽くす過程でなあなあになり、その実務のほとんどをコレット一人が担ってきたのだ。にもかかわらず、その予算は減額されることなく、毎年計上と執行が繰り返されてきた形跡がある。おそらくは中抜きだろう。
「てっきり借金する側だと思ってましたよ、王子」
「言葉が過ぎますよ! テオドール様もなんとか言ってください!」
コレットに怒られて、ジュリアンは頭をへこへこと下げている。
正直、この汚職の形跡を見つけられたのは幸運だった。あとはこれをいかにうまく使えるか……。
策を巡らせていると、豪奢な石造りの財務省庁舎に到着した。
「コレット、行こう。何があっても絶対に顔に出すなよ」
俺は受付に向かうと、わざと高圧的な態度で「王室会計局に今すぐ案内しろ」と迫った。小さな騒ぎになり、中年の小役人がすっ飛んできて案内を買って出る。部屋に通されると、職員たちの視線が一斉に俺に向いた。注目を集めるのは好都合だ。俺はあえて大声を出した。
「俺、テオドールの予算を管理している者は誰だ!? 今すぐ話を聞きたい!!」
部屋中がざわめき立つ。すぐさま奥から局長と思しき男が出てきて、最奥にある小ぎれいな面談室に通された。事情を聞かれたが、担当者を出せの一点張りで抵抗すると、ついに折れたらしい。担当する役人が呼びつけられた。
現れたのは、でっぷりと太った男だった。びくびくと震えていて足元がおぼつかない。分かりやすすぎる反応だ。
「あんたが俺の予算編成の担当者か。単刀直入に聞こう。俺は計上された予算のほとんどを使った記憶がない。侍従のコレットにもない。しかし、予算は毎年満額で執行され続けていた。間違いないか?」
局長がカッと目を見開き、太った役人を睨む。だが、本人は俯いたまま黙秘を貫こうとしている。
「……勘違いして欲しくないんだが、俺はあんたを糾弾しに来たわけじゃないんだ」
その言葉に、太った役人が弾かれたように顔をあげた。局長とコレットも俺に視線を向ける。
「俺は過去のことを追及するつもりはない。ただ、あんたの行った”管理不足”の償いとして、これから俺に協力してもらいたい」
「……私に……できることがあれば……なんなりと……」
太った役人は、絞り出すように声を返した。
「耳にしたかもしれないが、俺は南軍で少尉として部隊を指揮することになった。編成される兵士の待遇は規則で決まっている。しかし、王子である俺の旗下だ。最低限、王宮近衛と同等の待遇にしてやりたい」
言い終わるか終わらないかのタイミングで、局長が身を乗り出してきた。
「殿下の兵を慮るお気持ち、平伏致します。なんと崇高な配慮でしょう。流石は国王陛下のご子息。ぜひとも局としてご協力させていただきます!!」
この程度で済むなら万々歳という雰囲気だ。俺が心変わりしないうちに、この不祥事に蓋をしてカタをつけたいのだろう。交渉成立だ。
「助かるよ局長。今回は小隊規模で30名だが、この先で増員される可能性もある。適宜予算を膨らませるよう努めてほしい。できそうか?」
冷や汗を拭いながら局長は「全力で務めさせていただきます」と返して、首をぶんぶんと縦に振っていた。太った役人とコレットは状況がつかめずポカンとしている。
「それじゃあ南軍には王室会計局に話を通すように伝えておくから、宜しく頼む。優秀な役人と話が出来て嬉しいよ。コレット、戻るぞ」
帰りの馬車ではコレットが「汚職は正すべき」だの、「官憲を同伴させるべきだった」だのと騒ぎ、それを宥めるのに道中を費やす羽目になった。
「なあコレット、あの太った役人を問い詰めたところで俺に何の得がある?俺にとっちゃ過去のことよりこれからのことが大事なんだ。ああそれと、俺の私室は引き払って、私物もできるだけ現金に換える準備をしといてくれ」
それを聞いたコレットが、また「えええ!?」と騒ぎ始めてしまった。
俺に残された道は一つ。南軍の小隊長として戦果を挙げて、南軍のトップに上り詰め、そして国権を握る。これしかないし、それでようやくスタートラインなのだ。
すべてをこの計画に詰め込み、あとは前に進むしかない。
お世話になっております。Tastyです。
ここまでご覧いただきどうも有り難う御座います。
会話文を書き始めると一場面で力尽きてしまう。。。集中力不足ですね。精進します。早く王都を抜け出せるように頑張ります。
それでは、また次話でお会いできますことを楽しみにしております。
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登場人物紹介
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【主人公】
八雲 蓮 (20歳)
難病を患う妹・凛を救うため、クリア報酬「願いを叶える」を求めてストラテジーゲーム『ヴィクターナ戦記』の世界へ転生した。
テオドール・アストレウス (15歳)
アストリア王の側室の子で、放蕩王子と呼ばれていた不良少年。熱病によって死を迎えたが、蓮の精神が転生することで蘇生した。身体強化魔法の才を持つ。
【テオドールと行動を共にする人物】
コレット・フィディア (35歳)
テオドールの専属侍女。テオドールの母ロザリーが出産と同時に死去した後、宮廷内で孤立するテオドールを幼少期から支えてきた。
セシル・グラティア (25歳)
王宮所属の女性癒術師。他の宮廷癒術師が匙を投げた結果、異例の若さで王子であるテオドールの治療を担当することに。
ラウル・ベラトル (42歳)
南軍で蛮族相手に武勲を上げたベテラン兵。王宮近衛に栄転したが、上級貴族の子息中心の近衛隊では浮いてしまっている。
ジュリアン・ルクスリウス (28歳)
成金商家の四男で、父親の意向で王宮近衛に押し込まれた。飄々としていて軽薄な印象を与えるが、近衛兵の選抜試験を通過するだけの実力は持っている。ラウルと同じく、上級貴族の子息中心の近衛隊では浮いた存在。
レオポルド・マイオルム (22歳)
没落貴族の跡継ぎ。実家を経済的に支援するため、給金の多い王宮近衛に入隊した。金目当てというものの、実力で選抜試験を通過している。ラウルと同じく、上級貴族の子息中心の近衛隊では浮いた存在。
【アストリア王国の住人】
ゴーティエ・リギドゥス (56歳)
王都の外れに建つ武神教会の司教。身体強化魔法に精通する。
【アストリア王宮の面々】
ルイ・アストレウス (55歳)
アストリアの現国王。優柔不断かつ臆病。北の大国エクイタニアの意を汲む王妃や宰相の傀儡と化している。
イザベラ・アストレウス (40歳)
アストリアの現王妃で継室。大国エクイタニアの有力貴族オプシディウス家の長女。権力欲が強く、実子リシャールの王位継承に固執している。
リシャール・アストレウス (18歳)
イザベラの第一子でアストリアの皇太子。エクイタニアに派遣されている北軍の元帥の任に着く。尊大かつ傲慢で、庶民からの受けは悪い。
マルグリット・アストレウス (16歳)
イザベラの第二子で長女。母に似て高飛車だが小心者。
ルドルフ・アストレウス(14歳)
イザベラの第三子で次男。内向的で、自室に籠りがちと噂されている。
ジュール・ドロス (46歳)
宰相であり北方の大貴族ドロス家当主。親エクイタニア派の貴族筆頭で、王妃と結託してアストリアの属国化を推進していると目される。
リュシアン・ヴェリタス (58歳)
王宮図書館の館長。北部の大貴族の三男で現国王の学友だった。政争からは身を引いているが、アストリアの行く末を案じている。
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セントゥリア大陸地図




