キャリーケースの福周
成田空港の夜勤のシフト。大杉 勇は、ロビーの隅で、残されたキャリーケースの山を見つめていた。
「また、放置か、最近増加しているな・・・」
同僚は顔をしかめ、
「面倒だから業者に任せればいいからね」と言い残した。
だがその背後で処分費がどんどん増えているのもまぎれもない、事実。
従業員に強制して処分させるというのも、社会的、経営的にも不可能だろう。
大杉はそんなことも考えながら、行動に出る。
"放置の中の、ほんの少しなら、俺も役に立てるかな・・・"
という思いを持ち、(持ち帰る処理の許可を得て、見返りはもちろんない、という条件、ソラソーヨ、見返りを受け取ったら処理費とおんなじじゃん。)
数個を数日に分けて持ち帰り、早く帰れた日に工具を広げ、分解を始めた。
キャリーケースの中からは、フライパン、鉄の棒、靴類、衣類、ラジオ、電気のコード、電池、電化製品などが、出てきた。旅行?それとも、故意に捨てるのが目的・・・疑問に思えた。
反面あきれてしまっていた、夢中で、一つ一つを分解・分別した。
ネジを外す手つきは慎重で、かつ自分の会社を閉めた記憶と重ねていた。
"物にも、最後まで責任を持たなきゃな"そのつぶやきは自分の戒めでもあった。
数日後近所の修理工房を覗いた勇は若い起業家、夏目に、声をかけられる。
「そのパーツ、どうしたんですか?」
事情を話すと、夏目の眼が大きく開いた。
「これ再生素材として使えます、環境系のビジネスを計画しているので、一緒にやりませんか?」
勇は戸惑いながらも、時間のある時に、手伝いに加わった。分解したキャリーケースの部品がエコ製品の試作品へと形を変えていく。
やがて、二人のプロジェクトは、メディアに取り上げられ、リサイクルブランドとして、大成功を収めた。
勇の人生に久しぶりの温かな風が吹き込んだ。
祝賀パーティーの夜
勇は自宅の棚の隅に残しておいたキャリーケースの小さなキャスターを見つけた。
音もなく転がり落ち、床で、コトンと小さく鳴り止まった。
「ありがとう」
誰もいない部屋で勇はそっと頭を下げささやいた。
置き去りにされたガラクタが、勇の未来に"福"を運んできたのだった。
この物語は「復讐」という言葉の音に"福"を重ね、"怒り"がめぐるのではなく、"福"が巡るという想いを込めました。
日常の小さな誠実・思いやりが、思わぬ形で自分を、救うことがある、そんなささやかな希望をキャリーケースを通して描いてみました。
放置するのは不法投棄に、当たらないのか?
と疑問になってしまいます。
最後まで拝読ありがとうございました。
じゅラン 椿