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「あなたを愛せるか、自信がない」と弱気発言されましたので、こちらが全力で愛して差し上げることにいたしました。  作者: 朝姫 夢
本編

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11.可能性

 悲しいかな、葬儀の手配だけは慣れてしまっているリッシュ伯爵家の使用人たちは家令であるピエールを筆頭に一切悲しみを表に出すことなく、ただ粛々と準備を進めている状態だった。

 そんなリッシュ伯爵邸の中では現在、突然の訃報を聞いて娘を心配し駆けつけたダヴィッド伯爵も加わり、ブランディーヌだけでなくジスランも交えて今後のことについて話し合う機会を設け、まずはすぐにでも当主交代の手続きをしておくべきだろうと喪に服している間にすませておくべき事柄をいくつか伝授してくれていた。

 だが、戸惑っているであろう娘と少しだけ二人きりで話したいと伯爵が口にしたときはさすがに、ジスランだけでなく使用人たちも気を遣って部屋を出ていく。ブランディーヌがまだ正式にリッシュ伯爵家の人間ではない以上、ふさぎ込んでしまっている彼女のためにもそれが一番だと誰もが同じ結論にたどり着いたからなのだが、そのせいで彼らは一切気づくことができなかった。それら全てがブランディーヌの演技であり、ダヴィッド伯爵と口裏を合わせた行動なのだということを。


「……それで、ブランディーヌはどう考えているのかな?」

「……リッシュ伯爵の最期は、呼吸すらできずに苦しんで亡くなられたそうです。ですが医師や使用人たちの話ですと、外見にさほど変化はなかったということでした」

「なるほど。それで?」

「ジスラン様だけが、亡くなられた他のリッシュ伯爵家に連なる方たちにも同じような症状が出ていたことに気づいていらっしゃいました。全員、視線と頭が下を向いていた、と」

「……そう、か。それでこの薬の調合を依頼してきたというわけだね」

「はい」


 小さな丸い銀の缶に入れられたそれは、まさしくブランディーヌが緊急で頼んでいた調合薬。この件に関して話すには、どうしてもリッシュ伯爵家の人間がいては不都合だったのだ。


「つまり、リッシュ伯爵は病ではなく毒殺された可能性が高い、と」

「リッシュ伯爵だけではありません。伯爵夫人も本来の嫡男だった男性も、そしてジスラン様のお母様であるリッシュ伯爵の妾も、おそらくは全員」


 病人らしく急激に痩せるようなこともなければ発熱などの分かりやすい症状も出ていなかったというが、だからこそ彼らの突然の死はあまりにも不自然なのだ。そしてダヴィッド伯爵家の人間は、それぞれに違う症状が出ていながらも突然の発症や発作による呼吸困難という共通の亡くなり方、そしてなによりも頭も視線も下を向いているという病人であれば一見自然にも思えてしまうその特徴的な様子から、ひとつの毒の可能性にたどり着けてしまっていた。


「まぁ、うん……そうだね。私もおそらく、病ではなく毒殺の線が濃厚だと思うよ」


 ただこの結論が真実だった場合、最も恐ろしいのはこの屋敷の中に彼らの命を奪った殺人犯がいるということ。

 本当ならばそんな場所に娘を置いておくなどできないと言うのが父親というものなのだろうが、悲しいかな彼らは薬草を専門に扱うダヴィッド伯爵家の人間。


「……許せませんよね」

「そうだね。希少な薬草をこんなことに利用するなんて、ダヴィッド伯爵家としては許しがたい暴挙だよ」


 同じ空色の二人の瞳の奥に宿っていたのは、恐れではなく怒り。とてもではないがこの状況下で抱く感情ではないはずのそれは本来であればあまりにも場違いなものなのだが、残念ながらこの場には同じ意見を持つ父娘だけだったため、誰かがそれを指摘することはできなかった。


「ただ、どうやって犯人をあぶり出すか、だね」

「まずは順当に、リッシュ伯爵家の関係者が次々と亡くなっている事実が不安だとあえて口にして、特に毒を混入しやすい食事や飲み物に対して神経質なまでに対応してみようかと考えています」

「うん、それがいいかもしれないね。ジスラン殿だけが無事なのも、長い間食事内容が異なっていた可能性があるかもしれないと疑いの目を向けられる」

「リッシュ伯爵家の過去を知ることができますし、同時に食事内容だけでなく誰がどこでどう動いていたのかも確認できるかもしれません」


 それどころか当然のように犯人探しをすることが決定している始末。

 もはや二人を止められる人物は存在しておらず、ダヴィッド伯爵がヴァンサン・リッシュ伯爵の葬儀がつつがなく行われたことを参列者として確認し領地へと戻るまでの間、この二人はあちらこちらで今回の件について不安を口にしつつ話を聞いて回ることに成功し、そうして最終的には宣言通りリッシュ伯爵家の過去をひとつ知る結果となったのだった。


 そこで彼らが知り得たのは、やはりジスランは数年ほど前まで息子としてどころか家族としてすらリッシュ伯爵には受け入れてもらえぬまま、生まれてからずっと離れの部屋から出ることも許されず質素な食事だけが毎日二回運ばれ、掃除などは十日に一度程度あればいいほうという生活を送っていたというあまりにも悲しい事実。


「想像していた以上と言うべきか、むしろいっそ想像以下と言うべきか。言葉の選び方が難しいほど、ひどい現実だよ」


 とは、真実を知った際のダヴィッド伯爵の言葉である。

 だがこれで、食事が病に影響していたのではないかと堂々と口にできるとして口実ができたことを喜んでいたダヴィッド親子は、変わり者であるのと同時に似た者親子でもあるのだろう。あるいはダヴィッド伯爵家に生まれた子供は皆同じように育つのかもしれないが、いずれにせよ彼らが通常の人々とはだいぶかけ離れた感性や信念を持っているということだけは、確実に間違いない。



~他作品情報~


 いよいよ明日から『ヒロインヒロイン』のコミカライズがピッコマ様にて先行配信開始となります!(>ω<*)


 またピッコマ様にて、今回のコミカライズ作品のポップアップバナーを表示していただけることになりました!

 ただこちらのポップアップ、一人につき表示されるのは一度のみとのことですので、見逃さないようお気を付けくださいませ!



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