パジャマパーティーと暴虐の夜
フィアナたちの元に皇女が現れ、その専属騎士とティルスが決闘した日の夜
フィアナの自室には二人の少女が横になっていた
「なんで泊まることになってのよ⁉」
「フィア今さら言っても遅いわ。仕方ないでしょ、貴方の作る夜ご飯も食べたくなったんだもの」
「それにしても護衛の人たちの事も考えなさいよ、いきなり野営になってギルさん達の顔酷かったんだから」
「問題ないわ、さっき彼に頼んでこの辺の気温を一定に保つ結界?ていうのを張って貰ってついでに人、魔物除けもして貰ったから普通よりは余裕があると思う」
「フェイ、貴方私の知らない所で彼に何させてるのよ。こっちはアイツが可笑しな事しないか気が気じゃないって言うのに」
「相変わらず真面目ね、でも人や獣除けの結界は普段から張っていたみたいよ?私が頼む前からもう張ってあるって言ってた」
「・・・初耳なんだけど」
「フィアのそんな顔を見たのは凄く久しぶり、彼と一緒に居る貴方は昔みたいに見える」
同じベットでこそないが二人の距離は極めて近い
フェイゼルのからかう様な表情も暗い室内でもフィアナにはよく見えた
「何を期待しているのか知らないけどそう言うのじゃないわよ、私と彼はあくまで互いに利益があるから一緒に居るだけ」
「でしょうね、分かってたわ」
「分かっててからかうのは余計に質が悪いじゃない。そういうフェイこそ随分ティルスを気に入ったみたいじゃない、私にとってはそっちの方が意外だった」
「反撃のつもり?別に良いけど・・・そうね、ダイアナの手紙で聞いていた以上に面白い人だったし直接言ったけど私を特別扱いしない人って貴重だから」
「気持ちはよく分かるわ」
皇位継承権という点においてフェイゼルの立場は決して高いものではない
彼女の上には兄が一人、姉が二人居るので玉座に着くとすればその中の誰か
だがそれでも皇族が持つ様々な力が関係して善人も悪人も等しく対等な立場で語りある事はない
そんな境遇もあって彼女は表面上は理想の皇族を演じつつ内面は冷めた性格になった
けれど気を許した相手にだけは本当の自分を見せる、それが彼女なりの生き方なのだ
「私にはフィアやダイアナも居たけど今日で三人目が出来たわ。私の事よりフィア、貴方ティルスには何処まで話したのよ」
「―――何も、話して無い」
「・・・貴方とダイアナが血の繋がりが無い家族だっていう話も?」
「ええ、でも殆ど察してるはずよ。気を使っているのか興味が無いのかは分からないけど」
「後者でしょうね、今日話してみて感じたけどティルスはそういうタイプなんでしょう」
フェイゼルがティルスを気に入った理由がそこだった
礼儀が無いとか優しさが無い訳では無い、根本的に自分の興味のある対象以外はどうでもいいのだ
普通に考えれば冷たく感じるその在り方が逆にフェイゼルという少女にとっては居心地が良い
「話すも話さないも貴方の自由だし私が口を挟む気も無いけど面倒毎はやめてよ?人間関係のあれこれは城の方で十分だから」
「分かってる、ていうかやっぱり来る頻度増やす気なのね」
「当然でしょ、失われた古代の技術に一万年も過去の歴史。私とティルスどちらにもメリットしかない情報交換になると思うの」
「フェイはそういう性格だったわね、私にはもうできなさそうな生き方」
「失礼ね、確かに皇族として染み付いた考えただけど私個人としても彼の事は気に入ってる・・・あ、言い忘れてたけど明日からしばらく私の護衛として色々と付き合って貰うからよろしく」
「聞いてないんだけど、どうして夕食の時にでも伝えないのよ」
「伝えてたわよ、フィアがお風呂に入ってる時ダイアナとティルスに」
「なんでわざわざ私の居ない時に話してるのよ、確信犯じゃない」
「ごめんなさい、最近は本当に色々あって大変だったから」
「増えてるの?」
「ええ、最近は地方の領主の戦力じゃ討伐が間に合わないから皇国軍も出動してる。お姉さまはそっちの管理があるから普段やっていた仕事が私に回ってきて大変だったんだから、全く何処から沸いているんだか」
「―――あの国に決まってる」
「私も、ていうか皆そう思ってる。でも確たる証拠がない以上は動けないのよ」
先ほどまでの楽し気な空気は鳴りを潜めて重い空気が場を支配する
けれどそんな物を望んでいない少女は
「この話は終わり‼フィア、明日行くおススメのお菓子を教えて頂戴」
「視察でしょ?お菓子を買いに行く時間なんて、」
「馬鹿ね、抜け出すに決まってるじゃない。今までなら何十にも策を巡らせないとダメだったけど今の私にはティルスが居るわ、彼の魔術なら幾らでもやりようはあるに決まってるじゃない‼」
「皇女が私利私欲で使うんじゃないわよ‼」
「フィア、こんな時間に騒いだらダイアナや彼が起きてしまうわよ?それに護衛たちも来るかもしれないんだから」
「あんたのせいでしょうが・・・全く」
頭を抱えつつも結局はフェイゼルの望み通り寝落ちするまで語り合う二人であった
パジャマパーティーが行われているのと同時刻
ティルスは書庫で本を読んでいた
「ティルス、貴様は寝ないのか?」
「寝るよ、けどこの部屋の時間は外の十分の一になっているからあと五時間くらいは起きてるかな?そういうクラリスさんこそ睡眠をとった方がいいんじゃないかな、明日も護衛の仕事があるんだし」
会話をしながらも少年の視線は本から一切離れない
そんな本の虫な姿を呆れた目で見つつクラリスが答える
「治癒魔術とやらのお陰で決闘で負った怪我はおろか今の私は気力が満ち溢れている、数日の徹夜などなんてことは無い」
「効果があったようで何より・・・タルミア皇国以外に神聖国家アルザーム、和の国、コルトラン王国なんて所があるのか」
「コルトラン王国だと?」
「知っているのかい?もしかして君はその国の出身だったり、」
「違う―――コルトラン王国は既に存在しないんだ」
「へぇ、理由を教えて貰ってもいいかな?」
「断る、その件に関して人々は誰もが口を噤むだろう、私も例外ではない・・・どうしても知りたければ【暴虐の夜】について調べる事だ、私から言えるのはこれくらいだ」
「暴虐の夜・・・この本に書いてあることであっているかな?」
「あ、あぁ。言っておいてなんだがまさかあの事件について触れている本が現存していたとはな」
「・・・」
「既に意識は本の中か、傷を癒して貰った礼を言うつもりだったのだがな」
クラリスがそんな事を呟いていたがティルスの意識は彼女の予想通りその本に全て割かれていた
「(暴虐の夜、かつてタルミア皇国の隣国だったコルトラン王国が一夜にして滅んだ惨劇)」
事件が起こったのは今から三年前と最近の事
コルトラン王国は何か突出した物がある訳では無かったし国土も皇国の半分も無い小国だった
ただ民と貴族、王族の関係性は極めて良好で民は貴族や王族に感謝しつつ自分たちに出来る事をやっていた
貴族、王族もまたそんな民に報いるべく華美な装飾は好まず常に民たちの言葉に耳を傾ける者たちであった
「(そんな国なら反乱がおきるはずがない、詳細は無いが他国との関係も良好と言っていい)」
特に隣国であるタルミア皇国とは友誼を結び一年に一度は相手の国に赴き会食などをしていたと記載されている
「(他国から戦争でもない。なら考えられるのは飢餓か疫病、だがそれなら一夜で滅びるはずがない)」
滅んだ理由を考えていくティルスだったが結局この本に正確な答えは乗っていなかった
前半部分の国の内情や他国との関係性こそ彼の好奇心を満たしたが後半に掛かれていた根拠に乏しい説の数々は微妙という他ない
「(それから程無くしてコルトラン王国のあった場所に一人の男が現れ、新たな国の設立を宣言した)」
国の名前は書かれていない、ただその国を表す言葉は【死の国】
ただし国というよりは一種の無法都市とも記載されてあり真実は謎
国の詳細も書かれている内容は少なかったがこれに関してはこの本を執筆していた頃はまだ情報がはっきりとしていなかったのか・・・もしくはこの著者でさえ語るのを恐れたか
「(興味はあるがまずはこの国を満喫してからだな、国内で興味のある場所も目星を付けなければ)」
そうして本から意識を戻すティルス
「ようやく戻って来たか、望む答えは書いてあったか?」
「残念ながら記載がないね、小国とは言え国が一夜にして滅びるなんて一万年前でも起こり得なかった・・・生き残りを探すのもてかな?」
「それは止めておけ、王国から逃げ延びた者たちも少数ながら確認されているが殆どの者たちが心に深い傷を負っている。いたずらに傷を抉るような行為はするべきではない」
「そうだね、残念だけど君の言う通りだ。なら契約通り城の書庫を観覧した時に期待するよ」
ティルスがクラリスに勝利した時の報酬の一つが「皇族が住む城の書庫を観覧する」
タニアの図書館も魅力的であったがこの国で最も地位の高い者たちが住まう書庫はそれを遥かに超えるはず
それを理解していたフェイゼルがティルスに報酬として提示し見事勝ち取った
「他はこの時代のレアメタルの融通、様々な工場施設への見学希望。殿下もお前の性格を理解しておられる」
「私の時代では未発見だった物質に企業秘密で普通なら手に入らない情報、フェイゼル皇女殿下には感謝してもしきれないよ」
「一国の皇女を相手にして物怖じした様子もないその振る舞い、ここまでくると関心すらする」
「彼女の希望だからね、王族や貴族には相応の礼儀を持って接するようにはしているんだ。でもこの時代の礼儀作法は分からないから何時か学ばないといけないかな?」
「城に出向く以上はそうするべきだ、あそこには私以上に頭の固い人間がゴロゴロ居る」
「頭が固いって自覚はあったんだね」
「黙れ、私はこんな生き方しかできない。貴様とてそうだろう」
「そうだね、今更になって生き方を変える事なんて出来そうにない。そうだ、何時でも構わないけど【皇国流剣術】の他の技も見せて欲しい」
「決闘で負けた以上は否などありはしない、しかしお前が模倣していた剣士も相当な手練れだったではないか」
「【絶剣奥義】かい?一万年前に開催された何処かの国と国の戦いでみたんだ・・・使い手の名前なんだったかな?」
「・・・はぁ」
何処までも自身の好奇心を満たすことしか興味が無い男にため息しか出ないクラリスであった
・・・一万字くらい書きたいんです