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打ち切り作  作者: 新藤陽人
第一章 二人の出会い編
7/13

魔術の特訓と皇女様の来訪

二人目のヒロインが登場

タルミア皇国 古い遺跡


その中のある一室で少女は魔術を学んでいた


「それじゃあ今日から実践だね、まずは〈火球〉から試してみよう。的はアレだ」


そう言ったティルスの視線の先の地面が変化し的が出来上がっていく


「学び始めてから一週間、少しずつ分かってきたけど詠唱も無ければ魔力を通すのも一瞬ね」


あの展望台で魔術を教えて欲しいという願いは簡単に聞き届かれ、フィアナはこの一週間の間ずっと魔術に関する本を読み続けていた

ティルスの転移魔術のお陰で出来た時間を有効活用した結果それなりの時間が出来たのが幸いした


「でも才能があって本当に良かったわ、これで才能が無いから諦めろだなんて言われたらどうしようかと思ったから」

「そればかりは本当に運だからね、けれどその先は君の努力次第でどうとでもなる」

「分かってるわ・・・〈炎よ、我が眼前の敵を焼き尽くし私に勝利を。火球〉」


少女の詠唱によってソフトボール程度の火の玉が出現しその意図に従って的に向かって飛んでいく

けれど狙いが甘かったからか端に掠る程度で的を破壊するには程遠い


「ねぇ、あんな詠唱恥ずかしいんだけど」

「そればかりはフィアナさんの術式が甘いからとしか言えないね、もっと効率的な術式を組むことが出来ればこれくらいで出来るよ。〈火球〉」


詠唱なしで生み出された火の玉は少女の生み出した物より二回りは大きく、発射されても狙い通り的のど真ん中にヒットして的を木っ端微塵にした


「渡された本は毎日読んでるけど半分も理解できてないわよ・・・それはそうとさん付けはいらないって言ったでしょ、フィアナで良いわ」

「そうだったね、すまない。お詫びという訳では無いが幾らでも特訓に付き合おう、この部屋での時間は外と比べて遥かに遅いから」

「時空間魔術でしょ、一回だけ読んだけど何が何だか全く分からなかった」

「火、水、土、風の基本属性はともかく闇や光の魔術は生まれ持った資質が求められるし時空間魔術に関しては私の時代でも使い手は数えるほどしかいなかったから仕方ないさ。だが君の持っている魔力があれば何時かこの魔術も使えるようになると思うよ」

「何十年後の話かしらね・・・まずは私に一番適性がある火から覚えていく」

「良い判断だ、火の魔術は破壊のイメージが強いが明かりにもなるし何かを温める事も出来るから便利だ」

「貴方の魔術講義はまたにして、それよりさっきの私の術式は何がダメだったのかしら?」

「君自身も気付いているだろうが術式がグチャグチャで発動を阻害している箇所がある、後は新しく組み込んだフォルテ公式は相性が良くないから消したほうが良い、他にも幾つかあるけどひとまずその二つを改善してからだ」

「分かった、改善してみるから待ってて」

「あぁ、私は何時も通り過ごしてるから完了したら声を掛けてくれ」


そう言ってすぐさま異空間から図書館で借りた本を取り出し読み始める

先ほどまでの真面目な指導から一転してこちらに一切の視線も向けないその姿ももはや慣れたものだ


「(何時か絶対この男が驚くような術式を編み出して腰を抜かしてやる)」


自身が魔術を教えて欲しい理由を深く聞かずに指導してくれた事には感謝していても共に暮らし始めて一週間が過ぎて尚変わらないその姿に少しだけ怒っているフィアナだった

街の人々に話せば恋だの言われるのだろうがそんな感情ではない事は理解している

けれど完全には言語化できないその気持ちを少女は現在見つけようとしている最中だ


「ふぅ、邪念の捨てるのよフィアナ・・・〈術式構築〉」


深呼吸をして気を取り直し自身の心に問いかけるようにそう呟く

そうすれば少女の意識は遺跡から自身の心の中、精神に移動する




「(何度体験しても慣れないわね、この感覚)」


精神体となった少女が飛んだ場所は肉体で言えば心臓の部分

けれど実際に臓器などがある訳では無い、あくまで比喩だ


「(お世辞にも綺麗な術式とは言えないわね、改めて見てみると無駄な場所も多いし)」


少女が居る空間には中心には巨大な球体とその周囲を浮遊する文字の羅列、術式がある

因みに巨大な球体はその人間の持つ魔力の量を表す


「(こことここが混線して火球の狙いを逸らしていたのね、後はフォルテ公式を消して・・・そうね)」


術式とはその人間が魔術を使う為に必要な工程をサポートするための物

その種類は千差万別であり魔力の消費を抑えたり発動を早くするために考えられた公式なども存在しているが必ずしも相性が良いとは限らず今回の様に魔術の邪魔をする事も少なくない


「(ただの火球でこれなんだものね。私の目標はまだまだ遠いみたい)」


そんな独り言を零しつつティルスから指摘された点以外にも不備が無いか探っていくフィアナ



それから五分ほどであらかたの改善は終わる


「(今の私じゃまだまだ分からない事が多すぎる・・・〈術式構築終了〉)」


そう少女が呟けば視界は先ほどまで居た遺跡の一室に戻ってくる


「ティルス、終わったからもう一度見て貰える?」

「分かった、それじゃあ見せて欲しい」


それからたっぷりと時間を使ってフィアナは自信の魔術を改良していくのだった





「ねぇ、特訓を初めて何時間建ったの?」

「そうだね、大体十時間だから外の時間は三時間と少しかな?」

「て事は十五時くらい、そろそろ戻りましょう」


途中で数時間の仮眠を取りつつ特訓を行った二人だったがそれ以上はダイアナに心配されてしまうので今日は終了となった


「それじゃあ悪いけどお願い」

「あぁ、〈転移〉」


そう少年が呟けば二人の視界は一瞬でうす暗い遺跡から太陽の照らす自然豊かな自宅の付近

流石に慣れた少女だったがこの日ばかりはそうもいかなかった


「・・・嘘でしょ」

「何か見慣れない物が止まっているね、確かアレは自動車だったかな?」


のどかな雰囲気をぶち壊す金属の塊

それが一台ではなく何台も停車しておりその周囲には同じ服装の人間が二十人ほど待機している

明らかに異常な光景だったがフィアナが頭を抱えている理由は恐らく自宅の中にいるであろう人物に対してだ


「悪意を感じる訳では無いから問題ないのだろうけど一応確認させて欲しい、大丈夫なんだね?」

「ええ、危険な存在じゃないわ・・・面倒な存在ではあるけど、ね」

「君のそんな顔は初めて見た、少し興味が沸いてきた」

「こんな所で好奇心を刺激されてるんじゃないわよ・・・行くわよ」


如何にも不本意、面倒といった空気で歩き出すフィアナの後ろをティルスも追従する

二人に気付いた男たちが一瞬だけ身構えるがすぐに警戒を解く

そしてその中から代表して一人の男が前に出てフィアナに声を掛けてくる


「お久しぶりですフィアナ様、そちらがティルス=ノーグですね?」

「そうよ、ギルさん何度も言っているけど私に様付けなんてしなくていいから」

「そういう訳にはいきません、貴方様はあの方の御友人ですから・・・ティルス=ノーグ」

「なんでしょうか」

「申し訳ないがこのままここを通すわけにはいかない、今この家にはさる高貴なお方がやってきている。ダイアナ殿やフィアナ様と共に暮らしている以上余計な心配だろうが仕事は仕事だ、ボディーチェックを行わせて欲しい」

「構いませんよ、どうぞ」

「それでは失礼するよ、所持品も念のため確認させてもらう」


フィアナに向けていた敬愛にも似た感情とは一転して威圧的な声音だったがティルスは特に抵抗する事無く男の言葉に従う

今の彼の内心は男に対する不快感などではなくこの中にいる高貴なお方についてのみ


それから数分でボディーチェックは終了する


「協力に感謝する、だがくれぐれもあのお方に失礼が無いように」

「ええ、気を付けます」

「ギルさん、多分あの子の方からそういうのは止めるように言ってくると思いますけど」

「・・・フィアナ様、職務は職務ですから」

「あぁ、ごめんなさい。ティルス行くわよ」


男の何とも言えない表情を見つつ二人は玄関の扉を開く

その先には普段ならダイアナだけのはずだがこの日は少し違った



「お初にお目にかかります。私の名前はフェイゼル=ディア=タルミア、この国の第三皇女です」


胸まで伸ばされた紫色の髪に黄色の瞳をした少女が華麗にカーテンシーを披露する

その雰囲気は見たものを自然と傅かせる人の上に立つ者だけが持つ独特な物でこれが普通の人間であればすぐに跪き、緊張で言葉を失うか出会えた事への感謝の言葉でも述べたのだろう

けれどこの二人はそのどちらでもない


「皇女殿下からご挨拶いただけるとは感謝の極み、私の名前はティルス=ノーグ。現在この家でお世話になっているただの魔術師でございます」


そう言って一礼する少年

完ぺきとは言えないが王族に対して最低限の礼節をもって接するその姿に隣に立つ少女は驚きを隠せない


「ここにやって来ることは私の父、国王陛下と一部の者しか知らない事です。ですからどうか他の者たちと同じ様に接してくださいなティルス様」

「それではお言葉に甘えさせて頂きます・・・よろしくお願いするよ、フェイゼル嬢」


一気に気を抜いた少年の言葉を聞いてフェイゼルの方は特に気にした様子も無かったのだがその隣で待機していた唯一の護衛だけは別だった


「貴殿は少々場の空気という物が読めないようだな」


腰に剣帯をして背中に盾を背負った二十代ほどの女性が少年を睨みつつそんな事を零す

その言葉の真意を理解できないほど愚かでは無かったがまるで気にしていない少年が適当に言葉を返そうとした所で先に言葉を放つ少女が居た


「クラリス、私は貴方の忠誠心を誇りに思いますがこの場は社交場でもなければダイアナとフィア以外に人はいません。何よりこの家に住むのなら今後は私とも頻繁に会うことになる、そなのに堅苦しい関係では私の気が休まりません」

「承知しました・・・ティルス、先ほどの言葉は撤回させて欲しい」

「構いませんよ、元々気にしていませんから」


明らかに不本意と言った表情だったが主の命令に従うクラリスと呼ばれた女騎士


「寛大な処置に感謝します・・・それとここからは私も気を抜かせて貰うから、王族の威厳とか面倒な事は言わないでね?」


それまでの雰囲気をかなぐり捨てて一気に気の抜けた声音となる

それがこの少女の本当の性格なのだろう


「あ、フィア久しぶり。元気だった?」

「元気よ、というか最後に来たの二週間前じゃない」

「一時期は週に一回来てたんだから少ないでしょ。あ、私フィアのお菓子が食べたいから何か作ってよ」

「本当に自由なんだから・・・ちょっと待ってて」


なんとも気安い二人のやり取りを見守っていた少年にキッチンに向かって行ったフィアナを見ていたフェイゼルが声を掛ける


「私と彼女が幼馴染って話は聞いた?」

「聞いたよ、君が私の市民証を用意してくれるかもしれない相手って言うのもね」

「貴方・・・分かってるわね‼私が楽にしてって言っても皆少なからず堅苦しさを残すのに貴方は本当に気を抜いてるみたい、こんな人初めて」

「見た所ダイアナさんとフィアナは気を抜いているように見えるけどね」

「あの二人は別よ、それより貴方からも色々聞かせて貰うわ。私が市民証を用意するかはそれ次第」

「それは緊張するね、けど市民証が無いと毎回の様にフィアナ同伴で図書館に行くのは面倒だったんだ」

「ダイアナからも聞いてたけど本当に好奇心旺盛ね、気が合いそう♪」

「私もそう思った所だよ、良ければ後で皇都について教えて欲しい」

「良いわよ、フィアのお菓子食べながら色々と話しましょう。あの子の作る料理が私一番好きなの」

「奇遇だね、私も彼女の作る料理が毎日の楽しみなんだ」

「あら。本当に似ているみたいね、私たち」


フェイゼルからは見えない場所でクラリスが鬼の形相をしてティルスを睨んでいたのだがそんな物はどこ吹く風

フェイゼルと話すティルスのに夢中になっているティルスであった





それから半時ほど経った頃

お菓子を完成させたフィアナが戻って来た先で見た光景はそれはもう凄かった


「凄いわ、本当にお伽噺に出てくるドラゴンを倒したの?」

「あぁ、あと一匹残っているから見せよう」

「是非お願い、それにしても一万年前の歴史が知れて面白かったわ。ありがとうティルス」

「それはこちらの台詞だね、感謝するよフェイゼル」

「それにしてもフィアばかり魔術を教えて貰ってズルいわ・・・私にも教えてって言ったらどうする?」

「構わないよ、ただ君の持っている知識などを対価として貰うけど」

「私は皇族よ?貴方の望む物ならなんでも・・・」


「ストップ‼フェイ、お待ちかねのお菓子が出来たわよ」


このまま話を進ませるのは不味いと判断したフィアナが割り込んで中断させる

そして盛り上がっている二人とは正反対な状況の人物についても触れておく


「ねぇ、どうしてあの人はあそこで蹲ってるの?」

「やっぱりフィアのお菓子は最高ね・・・クラリス?何時の間にこんな酷い有様に」

「気付いてなかったのね・・・」


フェイゼルとフィアナ、二人の少女の視線が部屋の端で蹲るクラリスに向く


「あぁ、ようやく私にも意識が・・・主よ、感謝いたします」

「クラリスさん、私は貴方の神様じゃないから。何があったの?」

「殿下が何度声をお掛けしても私に気付いてくださらなかったんだ‼」

「なるほど、クラリスさんはこう言ってるけどフェイの言い分は?」

「そもそもクラリスが話しかけて事すら気付かなかったわ、すっかり彼と話すのに夢中になっていたから」


そう言ってティルスに身を寄せるフェイゼル

その行動が遂にクラリスの限界を超えた


「殿下、申し訳ありませんが我慢の限界です。ティルス、私と決闘をしろ‼」

「決闘?この時代にもまだその文化は残っていたんだね」

「あるにはあるけど殆ど形骸化した制度ね・・・クラリス、私は彼に楽にするように言った、気にするなと言ったわよ」

「っ⁉幾ら殿下の命令と言えどこればかりは我慢なりません、そもそもダイアナ様やフィアナ様と違いこのどこの馬の骨とも知れない男が貴方様と同じ空間にいること自体が問題なのです‼」


それまで気を抜いていたフェイゼルから放たれた威圧に一瞬怯んだクラリスだったがすぐさま気を取り直し自身の忠誠を示そうとする


「お父上、国王陛下にもこの男についてはお話になっていないのでは、」

「お父様には全て話してるわよ?それにどこの馬の骨とも知れないって貴方は言ったけど彼についてはダイアナが身分を保証しているから何も問題ないわ」

「そんな・・・では決闘も認めては戴けませんか?」


ここで止められればクラリスとて止まらなくてはならない

幾ら忠誠心が故の行動であっても超えてはならない一線はある

何となく答えを予想していた質問だったがフェイゼルの答えはクラリスの予想とは違った


「それは別に構わないわ」

「・・・よろしい、のですか?」

「ええ、勿論だけど命は取らずって条件はあるけど貴方がやりたいのなら私は止めないわ」

「殿下、感謝致します」


先ほどまでの情けない姿から一転してフェイゼルに跪き礼を述べるその姿はとても様になっていた

家臣の意思を尊重した姫と普通なら思えるだろう・・・だが幼馴染だけは見方が違った


「フェイ、彼の魔術が見たいだけでしょ?」

「何の事かしら・・・ティルス、あの子の決闘を受けてあげてくれないかしら?」

「(どうしたものか、この時代の戦士の実力は気になるが正直受けてもあまりメリットが無い)」

「クラリスが何を望むか知らないけど貴方が勝ったなら私から・・・や・・・をプレゼントするわ」

「クラリスさん、貴方の挑戦を受けよう」

「全員フェイの想い通りに動いてるじゃない、何でティルスを釣ったの?」

「それはフィアにも秘密、教えてあげない♪」

「・・・はぁ」



そんなカオスな空間を少し離れた所で見守っていたダイアナはというと


「みんな若いわね、良いことだわ~」


ある意味でフェイゼル以上に満喫しているのだった



次回、初めてのまともな戦闘シーン

頑張る

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