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打ち切り作  作者: 新藤陽人
第一章 二人の出会い編
3/13

世界の常識と居候

ようやくヒロインとの会話が書けました

正直な所ティルスは賊と女性のどちらを助けるのか迷った


彼にとって重要なのは正義などではなく【どちらが自身に有用か】

ただそれだけ



自己紹介を済ませたティルスは襲われていた銀髪の少女に改めて声を掛ける


「出来れば君の名前も教えてくれないだろうか?」

「え、えぇ・・・私はフィアナ=コる、いえフィアナよ」

「フィアナさんだね、怪我は無いかい?」

「大丈夫、それと助けてくれて助かったわ。でも彼らは一体どこに消えたの?」

「殺してはいないから安心して欲しい、たまたま通りかかったからどちらが正義か判断できなかったんだ」

「そこは困っている女性を助けるのは当然とでも言うべきじゃないかしら」

「確かに彼らの身形や魔力は賊のそれだった、けどそれだけで人の全てが分かる訳では無い」


半分は嘘で殺してしまうと彼らから情報を入手出来ないからだったりするのだが一般的な常識ではなく自分自身の価値観の元で相手を判断するのは少年の本心


「変わった人、それはそうと貴方どうしてこんな場所に?この辺りには古い遺跡くらいしか無かったはずだけど」

「(その遺跡から出てきたと正直に答えるわけにはいかない、けどどうする?)・・・実はその遺跡でついさっき目覚めたんだ」

「・・・は?」


鳩が豆鉄砲を食ったような表情になるフィアナ

無理もないとティルスも思うがここで嘘をついても情報を得るのに支障をきたすので正直に話すことにした


「えっと、精神科には詳しくないから街の医院しか紹介できないけど・・・一緒に行きましょうか?」

「哀れな人を見る様な目はやめて欲しいな、信じ難い事だと理解するけどここは君を助けた私の言葉を信じて欲しい」

「・・・分かった、けど今から私と一緒にある人に会って欲しい。その人が貴方を信じたら私も貴方の話を真剣に聞く」


幾ら助けられたとはいえそんな話すぐに信じられる訳が無い

けれど少年の目を見たフィアナはその言葉が嘘とは思えなかった

それに自分の直観以上に頼りになる判断方法もある


「それで構わない、その会って欲しい人はこの近くに居るのかい?」

「残念ながら大分離れた所ね、あの男たちから引き離したかったから正反対の方向を走っていたから」

「それなら歩きながら私にこの世界の常識を教えて欲しい」

「常識?」

「あぁ、私の話を信じる信じないは置いておいてそれくらいなら構わないだろう?」

「それはそうね、けれど何から何を話せば良いのか・・・」

「私が質問をして君が答えるというのはどうだろう」

「それなら楽ね、それじゃあ最初は何を聞きたいの?」

「そうだな、まず・・・」






それから一時間ほどの間ティルスはフィアナに質問を続けた


「イース歴ではなく神聖歴、私の知らない国の数々・・・実に面白い」

「楽しそうね、私は話し疲れて喉が渇いたわ」

「すまなかった、お詫びと言っては何だがこれを飲んでくれ」


そう言って何もない場所から水筒を取り出し手渡す

水分を補給しつつ少女は何とも言えない表情で


「魔術って凄いのね、冷たい水が何時でも飲めるなんて」

「あぁ・・・だがまさかこの世界から魔術そのものが失われているとは思ってもみなかった」


まるで世界の終わりかの様な表情を浮かべるティルス

最初にフィアナから魔術が遥か太古に忘れ去られた物だと知った時の顔はとても人の言葉で言い表せるものでは無かった

ティルスの生涯においてそんな顔を晒したのは間違いなく目の前にいる少女だけ


「だが考えてみれば無理のないことだ、魔術は生まれ持った才能が無ければスタートラインにすら立てない。それに比べて科学技術?というのは使い方さえしれば誰でも使うことが出来るんだろう?」

「ええ、口で説明するより見てもらった方が早いからこれ以上聞かないで」


未知の技術体系の存在を知った時の事を思い出しため息をつく

まるで見る物全てに興味を惹かれる子供、そう思ったが口にはしなかった


「そういえば山賊たちは適当な場所に飛ばしたと言っていたけど何処に飛ばしたの?」

「近くにあった湖だよ、中心ではないから溺れるような事は無いだろう。多少濡れてしまったかもしれないけどね」


話を変えたくて少しだけ気がかりだった事を質問すると特に表情を変えることなくそんな答えが返ってくる


「その転移魔術というもので目的地まで行けたりいないって話だったわね」

「この魔術は一度行った場所にしか行けない、君の記憶を見せて貰えればすぐに転移する事も出来るんだが・・・」

「それは嫌ね、でも歩いたお陰で貴方の事を知れたのは大きな収穫だった」

「もう信用してくれたのかい?」

「流石に気が早いんじゃないかしら。一緒に居ても問題ない相手だって分かっただけ・・・って話していたら着いたわね、あそこが貴方に会って欲しい人と私の家」


そう言った少女の視線の先には二階建ての家と大きな畑があった

家はそれ以外には無いので間違いようがない


「それじゃあ着いてきて、後はおばあちゃん次第よ」

「分かっているさ、それじゃあお邪魔させて貰おうかな」


そんな会話を繰り広げつつ家のドアを開ける少女とその後ろに続く少年

室内は豪華さのない素朴な作りで一般的な家、けれど少年にとっては全てが未知の技術であり大変に興味を惹かれた・・・が今は何とか自身の欲望を抑え込む


それからすぐに優し気な雰囲気を纏った老婆が視界に入った


「おばあちゃん遅くなってごめんなさい、今帰ったわ」

「おかえりなさいフィアナちゃん、あらあらお客さんだなんて珍しいわね」

「ティルス=ノーグ、初めまして」

「私はダイアナ、ここでこの子と二人で暮らしているわ」

「その辺りの話はもう済ませたから大丈夫、それよりおばあちゃんには私と一緒に彼の話を聞いて欲しいの」

「ティルスくんのお話を?それは勿論構わないけれどどうして私なのかしら」

「正直私だけだと判断できない、でもお祖母ちゃんがその話を聞いた上で彼を信じられるなら私も信じられると思うから」


フィアナがダイアナに向ける信頼は一言で言い現わせるものではない

何処までも深く、優しい愛情に満ちている事だけはそう言った事に疎いティルスにも理解できた


「そう、それじゃあ少し待っていて。ついさっきクッキーを焼いたの」

「じゃあ私は紅茶入れてくるから座って待っていて」


そう言って恐らくキッチンのある方に歩き出す少女を少年が見送っているとダイアナから声がかかる


「あの子の淹れる紅茶、凄く美味しいのよ。楽しみにしてて」

「ありがとうございます、楽しみにしてます」

「それでティルス君、もし良かったらなのだけれど・・・」

「良いんですか?まだ殆ど話して無いのに」

「これでも私、人を見る目には自信があるから。話し終わるまでに考えておいて」


そんな会話が繰り広げられている裏で楽し気に紅茶を入れる少女の姿はあった






それから紅茶を入れて戻って来たフィアナが席に着いてからティルスは自身の素性を語り始める


「まず私はこの時代の人間ではなく今から一万年ほど前の時代からやってきた魔術師なんだ」

「一万年も前?凄いわね~けれどそんなに昔の時代からどうやって来られたのかしら、それに魔術師っていうのは昔話なんかに出てくるあの?」

「その通り、人間の中に存在する魔力を術式を利用する事で火や水に変化させる。それ以外にも未来を予知したり獣を支配するのも立派な魔術になる」

「改めて聞くと凄い話ね、それでおばあちゃんが聞きたがっていたこの時代にやってきた方法って言うのは?」


フィアナは道中で聞いていたりするのだが話半分だったのでしっかりとは記憶していなかった

そんな問いに対してティルスは少しだけ誇らしげ答える


「カプセル内の時間を停止させて一万年後に目覚めるよう設定した。大変だったが成功して本当に良かったよ」

「それって凄いこと、なのよね?」

「当然だとも、時間を止めるだけならそれほど難しくは無いが自身の時間を止めて眠りにつくというなら話は別だ。それに一万年後に目覚める為の計算は難儀したよ・・・で・・・つまり、そうなれば必要魔力も倍々ではなく時数関数的に上昇していくんだ・・・」

「分かった、この時代の人間には理解できない話だって分かったからその話止めて‼」

「そうかい?ダイアナさんは興味深そうにしているけど」

「なるほど、つまりティルスくんの話だと時間を止める魔術は・・・で、貴方は・・・そんな方法を取ったのね?」

「おばあちゃんはなんで分かるの⁉でも合ってるとは、」

「素晴らしい理解力、今からでも魔術師にならないかい?」

「なんで合ってるの・・・」


一瞬「分からない私が馬鹿なんじゃ?」と考えたフィアナだがすぐに正気に戻る

理解できず机に項垂れかかる姿を微笑ましく眺めながらダイアナが白状する


「からかいすぎちゃったわね、私も分からないから大丈夫よ。彼も私に合わせてくれただけだから、元気を出して」

「もぅ、おばあちゃんはたまに意地悪になるから嫌い・・・」

「ごめんなさい、本当に話の半分しか分からなかったわ」

「半分は分かってたの⁉」

「あぁ、だから私は本気だったよ」

「確かに貴方は変わってなかったわね・・・って話が逸れてるじゃない、話を戻さないと夜になるわ」

「それもそうだな、次に私がこの時代に来た理由だが単に未来の技術を見てみたかったんだ。私の居た時代では魔術以外は余り発展していなかったし誰もが今を生きるので精一杯だったからつまらなかった」

「一万年前の人の生活は私も興味があるわ・・・なるほど、だから貴方は」

「察しが良くて助かる、私は一万年前の歴史や魔術をこの時代の人間に教える。代わりに私の知らない技術を教えて欲しい」

「この子が私に判断して欲しいと言った理由がよく分かったわ、確かに一人では信じていいか分からないし問題が起こってしまったら一大事ね」


フィアナの判断が正しいと伝える為かその頭を撫でるダイアナ

けれどそれも少しの間、撫でる手を止めた彼女は目の前に座る少年に


「ティルス君、さっきの話の答えは決まったかしら?」

「話?私が居ない間に何か言ってたの?」

「ええ、実はティルス君に一緒に住まないかって提案をしていたの」

「んっ⁉おばあちゃん⁉」

「フィアナちゃんの気持ちも分かってるわ。年頃の二人が同じ家に住むのだから心配もあると思う、でも彼なら大丈夫だって思うの」

「あの時点で⁉直観を信じるって決めたのは私だけど・・・おばあちゃんは何時もいきなりすぎるわ」

「ごめんなさい、でもねフィアナちゃん。恐らくだけど彼この時代に家は勿論お金もないはずよ?そんな子を放り出すなんて私にはできないの」

「それは私も思ってたから分かる、けどずっと住むのは、」

「そうね、でもフィアナちゃんは心配じゃないのかしら。彼が何をするのか」

「・・・確かに」


悪人ではないとフィアナは思っているが本人に悪意が無くても他の人間に迷惑をかける可能性は否定できない

そんな感情が籠った視線がティルスに向けられる


「失敬だな、私は相手から何かしてこない限りは何もしない。好奇心旺盛なのは否定しないが越えてはいけない一線はある」

「それは話してて何となく感じたけど、じゃあもし私や賊がいなかったらどうするつもりだったの?お金の問題も」

「問題ない、金貨を作る魔術もある」

「紙幣の偽造は重罪よ‼・・・おばあちゃん、私も心配になってきた」

「フィアナちゃんも同意してくれたことだし後はティルス君の意思次第、すぐに決められないなら何日か待つけど」

「すでに答えは出ている、その申し出ありがたく受けさせて頂こう」

「そう、それは良かった。それじゃあさっそくだけど部屋の準備をしましょう、その間フィアナちゃんは家の中を案内してあげて」

「分かったわ。それじゃあティルス、着いてきて」

「それは助かるがダイアナさんだけで大丈夫かい?寝具などの用意もあるなら少々負担が、」

「大丈夫、おばあちゃんビックリするくらい元気だから。それより貴方が興味のありそうな書庫の紹介が遅くなるけれど良いのかしら?」

「っ⁉すまなかった、案内をお願いする」

「(本当に知的好奇心が旺盛なのね、何となく分かってきた)」


書庫という言葉に目の色を変える少年を見て早くも操り方を理解するフィアナであった






それから程無く案内は終わった

最後に案内された場所で二人は雑談に興じる


「二階建ての上に地下まであるとは、これが普通なのかい?」

「無い家も多いと思う、でも珍しくは無いんじゃないかしら」

「素晴らしい、地下室が庶民にも作れる技術になっているのか」

「ティルスの居た時代は違ったの?」

「そうだね、一部の貴族が魔術師に大金を払って作らせるか自分で地下室を作る魔術師が居たくらいである意味で自宅に地下があるというのは一つのステータスだった」

「そう、私にとっては当たり前だから余りよく分からないけど」

「それは私もさ、魔術が廃れていると知った時やフィアナさんの驚きようを見た時は不思議な気持ちになった」

「凄い顔していたものね、そんなにショック?自分で廃れた理由をすぐに察していたのに」


そう言ってティルスの前に出て首をかしげるフィアナ

薄暗い室内でもその銀色の髪は僅かな光を放っている


「未知の技術にも興味はあった、けど魔術も私の知らない進化を遂げていると期待していたんだ。あの時代で人は魔術が無ければ生きていくことは出来なかった、だから廃れるなんて考えてもみなかった。こうなるなら石碑でも残してべきだった」

「ねぇ、ティルス」

「なんだいフィアナさん?」

「―――いえ、夜ご飯はパンとお米どちらが良いかと思って」

「お米という物に興味がある、そちらでお願いしたい」

「分かった、それじゃあ私は準備してくるから貴方はおばあちゃんの話し相手にでもなってあげて」


そう言って足早にその場を後にする少女

先ほどの間と去っていく背中から話そうとしていた事が本心ではない事をティルスも理解している

けれど触れる事はしなかった


「(人間なら語りたくない話の一つや二つあって当然、ましてや今日出会ったばかりの他人だ)」


そんな淡泊な反応だったが夕食時に人生を変えるほどの衝撃を与えられることになるのだが当然この時の少年には知る由もないことだった



次回からこの世界の説明です

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