表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/54

脅威累々

 風を切り、マイケルの報告を受けながら、天使はぐんぐんと城を離れていく。

 彼女が城を離れていくのも、彼を援護しなかったことにも訳がある。

 このタイミングで、この国における最大の脅威が今まさに迫ろうとしている。

 それは別勢力による襲撃だ。彼女の眼前に広がるのは、100を超えるドラゴンの大群。その中には、村を襲撃していた一つの体に二つの頭を持つ個体もいる。


「多次元宇宙安全保障理事会へ。こちらウリエル。特殊戒災礼装の拡張機能開放を申請」


『……申請を確認。ウリエル班の特殊戒災礼装及び全ての礼装の使用及び共有を許可します』


 彼女は彼女の職場に問いかけ、彼女自身の能力を最大限引き出す礼装の許可を得た。


「礼装『ライトニング・ウリエル』を起動」


 天使はその頭上に輪を出現させ、翼を生やし、その身に白く光る布を纏い、右手には黒い刀身の剣を持っている。

 さらに、彼女の左手に白い炎のようなものが出現した。


「一応!攻めてきたということでいいんですよね!?」


 彼女はどんな攻撃でも回避可能であろう距離で、大声でドラゴンたちに呼びかけて、最後の確認をしておく。

 その問いに言葉による返答はなく、炎のブレスによる報復が彼女を襲った。

 白い炎を用いてそれらをかき消し、避けられぬ戦いであることを再認識する。


(まずは、小手調べ……!)


 彼女が炎にふーっと息を吹きかけると、全ての竜に向かって一本ずつ光の矢が飛んでいく。

 防御する者、食らう者、回避する者。

 まずは、正直に攻撃を食らった10匹の竜たちは突如苦しみ始めて、地面に胸を搔きながら落ちていく。


(やっぱり、体が特殊なタイプか)


「何をした!?」


 群れの先頭にいる矢を回避した老齢のドラゴンが、苦しみ悶える仲間たちを見ながら天使へと地面が揺れるほどの声で叫んだ。


「魔力を作る器官の機能を実質的に停止させました。この世界の全ての生物には魔力を生成する器官が備わっているようですね。呼吸をすることで空気を魔力に変換し、それを貯める器官が肺とは別にあるでしょう?命に別状はないので、ゆっくり呼吸をしてください」


 細い一本の矢で仲間たちが無力化される光景を見た竜たちは、天使を取り囲むように展開する。


(よし、私にかなり注目している。少しでも彼らを引き付けて時間を稼ぐ!)


 ブレスを吐こうとするドラゴンたちの内、適当な一体に向けて全速力で間合いを詰めた。

 右手の炎も剣へ変貌し、外敵を誅する脅威と化す。

 炎の剣で斬られたドラゴンは焼かれず、『弾ける白い炎』によってダメージを受ける。

 さらに魔力を生成する器官を封じて、次の標的を設定し飛び出した。

 次々と獲物を定め、一匹ずつ、着実にドラゴンたちを討伐していく。

 5体ほど討伐した後、彼らすぐには飛び込めないドラゴンの群れたちの戦意を削ぐために空中で立ち止まり、彼女は自身の炎について解説し始めた。


「もう少し、詳しく説明しましょう。この剣の炎は特殊なものです。燃やすもの、さらにはどれほど燃えるのかを指定できます。この炎を喰らった場合、その器官内の魔力だけを指定して燃やされることになる。つまり、私の炎を浴びた方々は魔力を生成することはできない。今すぐに投降。もしくは撤退を」


「魔力だけだと思うな。我々を舐めすぎだ。人間」


 一匹の年老いたドラゴンが落ちていく仲間たちを見て、天使へと怒りのボルテージを高めていく。


「いえ、あなた方が私を見くびりすぎです。魔力の活用を封じられては勝つことなんてできない」


(正直、早く帰ってほしい。この数はきつい。流石に)


 彼女を囲っている全てのドラゴンは一人の天使を仕留めるためにブレスを吐き出した。

 炎、雷、溶岩、風の光線、何十本ものブレスを交わし、右方にいたドラゴンに飛びつき刃を突き立てる。炎が侵入したことを確認すると、すぐに隣のドラゴンへと飛びついて攻撃。それを一匹ずつ、虫を屠るように仕留めていく。


 その光景を見たドラゴンたちは徐々に自身が狩られる立場であるということ理解していく。数でも図体でも勝っているはずなのに、彼らは一人の人間を狩ることすらままならない。


「そうか…ならば仕方ない。総員!ここは私に任せろ!」


 その空域に大きな声が響き渡る。その声を発したのは一人の老人。その背にはこのドラゴンの群れを率いていた個体の翼が生えている。

 そしてその右腕には厚い歴史が感じられる剣が握られていた。

 ドラゴンたちは彼の指示に逆らうことなく、また疑問を持つこともなく四方八方へ一目散と散り散りへ飛んでいく。ウリエルは逃さぬように近くにいるドラゴンへ飛んで行こうとするが、老竜の飛ばした風のブレスによって阻まれてしまう。


「人間になれたんですか?」


「図体が大きいと君には不利そうだからな」


「そうですか」


 情報はそれだけでいい。どんな手を使ってくるかどうかは口を割らなそうだ。

 ウリエルはその男のスペックをクロノと戦ったあの竜のものであると仮定して戦略を組み立てる。


(炎が危険であることは既に晒している。私の炎を警戒した戦闘を行うハズ!それにこの礼装ならあの速さにも対応できる。丁寧に戦っていけば勝てる──!)


「今だ!行け!」


 その時、老竜は散り散りとなったドラゴンたちへ指令を与えた。


「まさか!?」


 彼らは彼女の炎に恐れをなし逃げ出したのではない。彼女を避けて城を攻めるためにそれぞれの方向へ飛んで行ったのである。

 この空においてドラゴンたちは大幅な数的アドバンテージを持っており、彼らの目標は『ウリエルの背後にある城下町へ攻め入ること』である。


「させ「させるか人間!」


 近くにいるドラゴンに向かおうとすると、老竜はそれに反応し、彼女の首へ剣を振る。


(アレ程じゃないけど、早い!それに、力強い!)


 ウリエルはその剣を受け止めながら老竜の脅威度をより実感した。


(私だけじゃ、この状況は対処できない!)








「杯をこの手に。我は贄となる」


 横に広く飛んでいるドラゴンの群れに、一人挑まんとする男が現れた。

 右手には狼を追いつめた魔剣。

 頬には獣からの傷。

 しかし未だに、意気は健在。

 ファーモットの最高戦力の一人、軍務卿サバス・ナイトはその標的を狼からトカゲへと切り替える。


「満ちて。満ちて。溢れ瞬く」


「力をこの手に。聖剣、解放」


 詠唱を通して左手に宿るファーモットの国宝が励起する。

 現れたのは青い球体。生物ではなく鉱石でもない『正体不明の球体』。

 球体はすぐさま、獲物を殺す剣へと変貌する。


「ヤツを殺せぇ!」


 ドラゴンたちは詠唱の間に、破壊すべき目標を城下町から軍務卿に変えていた。

 彼と彼の持つ装備の放つ魔力の異様さに生理的な恐怖を感じ、一早く取り除かねばならないと判断したからだ。

 ドラゴンたちが下した判断はブレスによる一点集中攻撃。扇状に展開する彼らは炎、雷、水、風の息吹が軍務卿を襲うが、それらは全て『聖剣』へと吸収されてしまう。


「聖剣『ロンスタリナ』」


 その効果は魔力の吸収。聖剣の周りにある魔力を全て吸収し、その持ち主へと還元する力を持つ。軍務卿サバス・ナイトはこの剣と魔剣の併用により、無尽蔵に圧倒的な攻撃を振りまく魔将となる。


(こちらウリエル。軍務卿がこちらに現れました。最高戦力が城の守りを薄めるのは不自然です。何か策を打っている可能性があります。注意を)


 彼女は連絡を飛ばしてから、今すべきことを思考する。


(私が今、すべきなのは───)





 軍務卿の襲来を知った老齢のドラゴンとウリエルは互いに焦りを見せていた。

 軍務卿は彼らの共通の敵だ。しかし、ここで彼らが手を組むことは出来ない。


 ウリエルにとって最悪のケースは『消耗した状態で再びこのドラゴンたちと戦うこと』である。彼女一人では全てのドラゴンに対応することは不可能だ。もし、その状況を許せば彼女の最優先の目的である『城下町の人々を守り、革命を成功させること』が達成できなくなる。だからこそ、軍務卿にドラゴンの群れをできるだけ削ってもらう必要があった。

 対して老齢のドラゴンは、眼前の翼の生えた女はファーモット側の人間であると考えていたため、手を組むという案さえ頭に浮かばない。


 故に両者は最低限かつ最短で難敵を倒すことを決定した。


 ウリエルの左手にある炎は消えて、右手に持つ剣の刀身が白く染まる。

(この勝負、どう手札を切るかで勝負が決まる)


深紅喰(シンクショク)


 そう唱えた老齢のドラゴンの全身には赤いヒビが入り、目の白目部分が黒く染まる。

 彼は軍務卿が魔力を吸収できる範囲を知らないため、魔力の全てを体内と武器の強化へと充てる。


 互いに一直線に敵へと向かっていくと、剣戟のみのコンパクトな三次元戦闘が繰り広げられた。

老ドラゴンは経験による、ウリエルは蓄積されたノウハウによる剣裁きは他の者が見れば美しいと表現出来るほどのものだった。

 3分ほどの剣戟で互いに理解したことがある。


(これじゃあ、すぐに終わらない)


 もしこのまま長引けば、多少消耗した状態でドラゴンの群れを殲滅した軍務卿がこの場に介入する可能性さえある。

 それは避けなければならない。


「ここで、終わらせる!」


 そう決意した瞬間、ウリエルは閃光のように飛び出した。

 それに反応した老竜も彼女を迎え撃つ態勢へ移る。


 互いの距離が、一息では斬りかかれぬ間合いとなると、老齢のドラゴンの口から溢れる風のブレスを彼女に向けて発射した。彼は彼女との戦いの中で軍務卿に魔力を吸収される前に仕留められるギリギリのラインを見定めていた。


(─────取った)


 勝利を確信した瞬間、彼の胸は軽く裂かれてしまう。


(な、ぜ?)


 傷口からは炎が侵入して体中の魔力だけを焼き尽くしている。

 苦しみで体が焼き尽くされそうな感覚の中、ウリエルの様子を視界に入れた。

 眼前の天使は彼のブレスの余波で体のあらゆる場所が傷ついている。これは、放つ直前に攻撃を受けたため、多少狙いがズレたからであった。ただ、それ以上の変化が彼女にあった。

 彼女の持つ剣の刀身が、一息の間合いなど簡単に塗り潰せる程に伸びていた。


老竜は胸から血しぶきを吹き、苦しみながら地面へと落ちてゆく。

それを見届けることなく、ウリエルは軍務卿の方へ振り返り飛び出した。





彼女の視線の先。力尽き倒れたドラゴンの山の上。一人の男が立っている。

彼女と老竜が戦ったおよそ4分、その間に軍務卿サバス・ナイトはドラゴンたちを残らず殲滅していた。


「ハァ───ハァ───ハァ───」


 マイケルによって手痛い一撃を受けていた。

 群れの中には彼女と戦った老齢のドラゴンに匹敵する、もしくは超える個体も存在していた。

 それでも尚、この男は息を切らしながら敗者を踏みしめている。


「……ロンスタリナ、アレを」


 聖剣から触手が伸び、傷だらけの彼に触れようとしたその瞬間、天使が斬りかかりそれを妨げた。


(回復手段!?よし、防げてよかった!)


「回復ですかね?させません」


「させろ。邪魔だ」


 両者。負傷。されど、その戦意は一切衰えていない。


「させません。彼の願いを手助けするので」


 この戦いで必要なこと。

 それはこちらの勝利で、今すぐに終わらせることだ。

 軍務卿の分析力は非常に高い。彼はマイケルが魔法を使わないずに戦うことを看破した上で、その能力の予想と、それに対する戦略を立てて戦っていた。

 こちらの能力が分析されてすぐに手を打たれる可能性、そして聖剣による回復。これらを考慮して、彼女の出せる最大火力で、消耗した軍務卿を倒す。


「ライトニング・ウリエル 最大出力」


「そうだな、それが合理だ」


 軍務卿は立ち上る白い火炎を見て彼女の意図を理解する。


「賭けるか!」


 魔剣は再び力の奔流を立ち上げる。

 天まで届く互いの2つの力は、一撃で敵を屠れる程に膨れ上がると同時に、振り下ろされる。


 爆発、轟音、そして土煙の中、立っていたのは天使だった。


「こちらウリエル!決着しました!」







「キャプラさん。あまり無理しないでくださいよ。ほら少しは休んでください。資料くらい私一人でまとめられますから」


 マイケル、ウリエルが突入した頃、保障局の局長室では資料の取りまとめが行われていた。


「しかし…」


 彼女の部下の女性が、激務続きのキャプラの様子を気遣い心配している。

 そこに、一人の異人が孔を開ける。




「お前は…」


「あなた!誰ですか!?」


 キャプラの部下らしき人間が俺と彼女の間に立っている。


「保障局長!話がある!」


「知らん。違法侵入者」


 彼女の袖から数本の鎖が俺を襲うが、それらを全て孔に通すことで回避する。


「なら、強引に席についてもらうぞ」


「何を言って!」


 俺はすぐに彼女の部下らしき人間を、穴を使って牢屋に移動させた。


「すみません」


 さらに、すぐにこの部屋一帯を孔で包み、世界を丸ごと塗り替える。


 世界は豹変した。

 そこにいるのは二人の人間。荒野。黒い空、そして輝く一つの太陽。


「さて、ようこそ。俺の世界へ」


 俺は両手を広げて彼女を歓迎した。

★★★ブックマーク、感想、評価、お待ちしています!!!!!★★★

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ