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問題提起

「それではどうぞー!」


 俺に微笑んだ女性に連れられて、別室に移動させられた。

 光源が一本の蝋燭しかない石造りで狭めの部屋には、中央に小さく細い蝋燭が立てられた机と、その机を挟むように2つの椅子が設置されている。


「奥の席に座って」


 背中をポンポンと叩かれて席に誘導されたので、されるがままに座った。

 正直、彼女のことは得体が知れない。

囚人と看守という関係性において、初対面から笑顔でのコミュニケーションをとられることは十分に警戒に値する。


「そんな目をしないで、綺麗な目が台無しだよ」


「そう…ですか」


(この場での立場はあちらが上でこっちが下だ。しかも、竜神の発言によると、この世界には魔法があるらしい。魔法は基本的に何でもアリだ。つまり、心を読む魔法が存在する可能性がある。下手なことは考えず、冷静に、正直に、こちらの不利にならないことを発言しなければならない)


「リラックスしてね。拷問するわけじゃないから。これはただの取り調べ。竜神と互角に渡り合える君について色々知りたいんだよ。あ、そうそう。私の名前は『サイコル・ロレッジ』この監獄とこの国の司法のトップを兼任しています」


 自己紹介をした彼女はにこにこしながら椅子に座り、俺の様子を伺っている。


「そろそろ昼ご飯だね…。そうだ!何か好きな食べ物ある?持って来るけど」


 彼女はパン、と手を合わせて何気ない質問をし始めた。


(この質問は……なんの意図があるんだ!?正直に答えておくべきなのか…!?)


「……もつ鍋ですね」


「え……何それ?」


 しまった。この世界にはもつ鍋はない。


「いや、トーストです。バター塗ってから焼いてください」


「あー、おっけー。ちょっと待ってねー」


 俺の好物を聞いた彼女は、嬉しそうに取調室の外へ出ていった。

 もちろん、部屋の鍵は閉められているし、外には衛兵がいるし、そもそも能力が使えないので、簡単に脱出することはできない。


(ウリエル!)


(うわっ!……こほん。なに?)


(……大丈夫か?)


(大丈夫。ちょっと穴掘ってただけだから)


(そうか!ならこちらの本題だ!取り調べで相手をもてなすことってあるのか!?)


(……ないと、思う。その文化が培ってきたノウハウに則ったものなら話は別だけど)


 彼女の真意を相談していると、扉の鍵が開き、取り調べの担当者が戻ってきた。


(早っ。一旦テレパシーを切るぞ!)


「はい。持ってきたよー。…これだけで良かったの?」


 俺の目の前には真っ白な皿に乗せられたアツアツかつ、頼んだ調理手順通りで作られたトーストが置かれた。


「はい。大丈夫です」


「それほどかしこまらなくていいよ。砕けた言葉遣いでオーケー。ほら、食べて」


 ここで食べなかったら何が起きるか分からない。

 毒を検証することもできない。


(クソ、どうすればいいんだ!?)


「安心して、毒とかないから」


(ここは俺の体に任せるしかない。大丈夫だ。俺の体は丈夫に作られている!)


 両手でトーストをゆっくり掴み、ゆっくり口元に運んで、ゆっくり食み、そして飲み込む。


「どう、おいしい?」


(緊張で味がしない……)


「ああ、おいしい。焼き加減も丁度いい」


「うーん。心を開いてくれないね」


 俺を観察していた彼女は立ち上がり、俺の後ろに回った。

 俺の右手を指で触れ、そのままツー、と肩まで動かしていく。


「まぁ、こういうのは苦手だからね。仕方ない」


 彼女に後ろから密着され首元に両腕を回さる。


「だから、少し強引になるけどいいかな?」


 彼女の両手により眼を隠されて、耳元で囁かれる。


「澄んで──開いて──秘密をこの手に」


 そして彼女が手をどかす。

 眼を開けると、辺りの光景が全く別のものに変わっていた。

 壁と天井、床までも本でびっしりと埋まった部屋に俺は座らされている。

 天井から本が落ちていないし、さらに目の前には土星のような形をした黒い物体がある。


「ここは…!?」


 俺が自分の立つ空間に疑問を持っていると、


「あれ、知らないの?『世界を作る魔法』、創造結界だよ?能力を十二分に発揮するために世界を作るすごい魔法なんだけど…ね」


 すると、黒い物体から一冊の本が取り出された。

 それを手に取った瞬間に彼女の顔から笑みが消える。


「……なるほどね。……へぇ。そうなんだ。中々。面白いね」


 笑みの消えたその顔は決して敵意を示すものなどではなく、グロテスクなものを覗いてしまったような、恐怖と興味がブレンドされたものだ。


「俺の過去、見たか?」


 その表情を見た俺は、直感で彼女の行っていることを推察した。


「その通りだよ。うん。色々、説明が必要みたいだね」


 俺の言葉に答えると初対面のような笑顔に戻ってから口を開いた。

 俺について察してくれた彼女は、俺の目の前に立ち物体に座って説明を始めた。

 別に過去を見られたことに嫌悪感はない。隠したところでメリットもデメリットも感じないからだ。

 こんな悲しい出来事は全宇宙を見回せば結構存在する。


「まず、この世界について説明するね」



 しかし、サイコルとってクロノの過去と決起は全幅の信頼に値するものであった。




「この世界の特長は大きく2つ。1つめは魔法があること。2つ目は1つの大陸に5つの国があることだね。ここは農業大国ファーモット。この国が抱える問題は、『重税』だね。特にこの国の原動力である農業とそれにまつわることへの税がかなり重いんだ。前はとてもいい法律だったんだけど、変わってしまったんだよね」


「そうか……その、すごくありがたいんだが、なんで急に色々話してくれたんだ?」


「どうしてって……」


 彼女は物体から降りて、俺の頬に手を当てる。


「君が最高だからだよ。一目見た時、ビビッとキたんだけど、君の過去を見て確信したよ。君にはこの国を変える力がある」


「だから、お願い。私たちの国を変える手助けをしてくれないかな」


「……言うまでもない。元からそのつもりだ」


 この女性を信頼しきっていいのかは分からない。


 ただ、厄災について知るためには、現地について知っておいたほうが良いだろう。


「うん!ありがとう!よろしくね」


 彼女が礼を言うと、彼女の言う魔法は解け始めて、俺が元居た取調室に戻ってきた。


「あの子の勘違いだったみたいだね。すぐにウリエルって子も一緒に開放するよ。それと、宿とかないよね。私の家、部屋空いてるから貸すよ」


「……ああ、ありがとうな」


 俺はあまり躊躇せずに彼女の誘いを受けた。

 この女性を信頼しきっていいのかは分からない。

 しかし、俺たちの目的である厄災の打破とこの国の救済には、現地について知っておくことが重要だ。

 それに、拠点が用意できるということはかなり魅力的だ。


「いえいえ、どういたしまして。私の運命のお相手さん」








「随分と、簡単に出れたね」


「ああ、良かった」


 1時間程すると、俺とウリエルは誤認逮捕だったとして解放された。足枷は外され、能力は自由に使うことができている。さらに心臓への違和感もなくなっていた。

 俺たちのいる城下町は農村部とは対照的な活気のある様子であり、どこか問題があるようには思えない。


「よーし。それじゃあ、行こうぜ」


 そして俺たちの後ろにはマイケルがいる。


(口添えありがとう。クロノ)


(ああ、構わないさ。この怪しい男をできるだけ近くで監視しておきたいんだろ)


(うん。彼の存在は未知数だから)


(その通りだ。ただ、そこまで性根が腐っている奴ではないな)


(その心は?)


(俺がサイコルに頼んだのは、罪の有無だ。つまり彼が出られたのは彼自身が善人だったからだよ)


「……さて」


 俺は二人を視界の内に入れて呼びかける。


「やるべきことが色々あるが……」


 竜神、そしてこの世界の竜とはいったい何なのか。

 さらに、この国の問題とその原因も調査しなければならない。

 しかし、ただ一つ、今すぐにやるべきことがある。


「まずは切り札を作ろう」

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