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竜神決戦

 互いに、強敵への対策に思考を巡らせていた。


(あの移動魔法は厄介だ。扱い方も上手い。さらにあの武器が応用力を高めている)


(速すぎるな。目で追うのが精一杯だ。それにまだ奴の底が見えない)


((だが!強みで圧倒すれば勝てる!))


 竜神の強みはその速さ。

 救世主の強みは手札の多さ。


 それらを生かすことにした結果、動き始めたのは同時だった。

 竜神にとっては下手に突っ込むと対応されてしまう。

 救世主にとってはその速さを発揮させるわけにはいかない。

 この思惑が重なり、互いを急かした結果である。


 進行方向は眼前の敵。






 ただ、俺は激突する直前に前方に穴を出してそこに潜り込み、竜神の頭上に現れ長針を振るった。

 対して竜神はスピードのギアをもう一つ上げることでそれを回避する。


(もう一つ上があるのか!)


(だが、急な方向転換はできなさそうだな)


 長針を2つの短針に変形させて、一つ上のスピードへ適応する。


 地面に着地する間に

・もう一つスピードのギアを隠していることを考慮した上で、

・奴が移動するルートを計算し、

・それに合わせてブラフの穴も用意し

・半径1キロにおいて298個の穴を展開した。


 そこから展開される速さと手数の勝負は苛烈を極めていった。

 上がり続ける速度に対応し絶え間ない攻撃を続ける俺と、

 その手札に対応し速度を上げ続ける竜神。


 最初の3分35秒の攻防で、

 俺は既に500を超える穴を生成し、竜に攻撃を5回加え、

 竜神は速度を音速以上に高めて、刀で俺を7回切りつけた。


 互いに具合はかすり傷。

 

 状況だけ見れば拮抗。ややクロノ側の不利。

 このままこの状態を維持すればウリエルの合流によって形成が変わるのだろう。

 しかし、その理論には一つ致命的な欠点があった。


(俺が持つか分からんな)


 俺は生涯にて戦闘中に500以上の穴を展開したことがなかった。

 この状態をいつまで保てるか分からない。

 

 薄氷の均衡を崩したのは竜神だった。


 スピードのギアを上げ、俺がそれに気づき追いつくまでの一瞬で、レーザーのような炎を吐き出した。

 それと迫撃の斬撃を交わすことはできたが、体勢を崩してしまい、もろに蹴りを食らってしまった。

 炎のレーザーは射線上の全てを溶かしているようだ。この攻撃だけは避けなくてはならないという思いはより強くなる。

 さて、更なる迫撃が来ることは容易に想像できる。

 転がっている進行方向に穴を開いて崖際にまで移動する。

 奴は俺が地面に転がっている隙に空高く飛び上がった。

 

 竜神は赤い閃光と共宙を旋回し始めている。

 空からの強襲。自由落下と最高速度で獲物を貪るために。

 

 逃げるという選択肢は捨てている。


 この化け物を放置しておくわけにはいかない。


 ウリエルを待つことも難しい。時間稼ぎのために受け回ると殺されかねない。


 だから

───このタイミングで、倒すべきだ。


(もう、準備運動は十分だろ!)


 すぐに展開している全ての穴を俺の前方180度だけに展開する。ただ一つだけ通り道を残して。

 わざと穴に突っ込むならそれでいい。それ相応の戦術はある。

 レーザーを出されてもいい。穴を使って跳ね返すことは可能だ。

 2つの短針を一つにまとめ、俺の身の丈を超える大剣へと変形させて、脇構えで応対する。


「かかって来いよ!竜神!」


 俺が挑発をすると、すぐに奴はその直線を目指して突っ込んできた。


 そうして俺は剣を振り下ろしながら一本道の入り口のすぐ右側にワープする。


 『すぐには方向転換できないだろう』という考えのもとの作戦であったが、これは破られる。


「芸がないな!」


 竜神は翼を逆噴射し急停止をした。そして、俺の剣を竜のような手で受け止めた上で、刀で俺の首を切ろうとする。


(それはどうかな!)


 俺はすぐに大剣の中から小さな太刀を作り出した。奴は大剣の抜け殻を受け止めるだけで、本命の太刀は避けられない。

 互いに首を狙いながら、渾身の刃を振るう。

 しかし、互いの刃が首に到達する前に、更なる緊急事態が起きる。




 突然、体が動かなくなってしまったのだ。

 それは竜神とやらも同じようで、切りかかる体勢のまま、動画を停止したかのように固まっている。

 その原因は鎖。

 俺たちはどこからか鎖を巻き付けられ拘束されてしまった。

 しかも、今まで展開していたゲートが全て閉ざされてしまっている。

 どうやら移動の力が使えなくなってしまっているらしい。


「頼むから仕事を増やさないでくれ」


 長い金髪にクマのある釣り目、タイトスカートにシャツ、肩に軍服のようなジャケットをかけている女が、左手から鎖を出し、右手でウリエルを抱えながら現れた。


「お前ら全員、逮捕だ」


(クソ、体が動かない。あと、心臓に違和感がある。ただの鎖じゃないな)


 そして俺たちはそのまま金髪の女性に馬車にまとめて放り込まれた。

 抵抗できなかったのは、あの彼女の鎖のせいで体に力が入らなくなってしまったためだ。


(ごめんなさい。捕まっちゃった。私、あの親子に信用されなかったみたいで)


(それは、残念だったな。言葉が通じても…なんだこれ。テレパシーか!?)


(そう、急な契約だったのか、システムの同期が遅れて)


(そうだったのか。ただ、内緒の話し合いはできるのなら──)


(……どうかした?)


 『役に立ちそうだ』そう口にしようとした俺は、馬車の窓からこの世界の光景を目にしてしまった。

 瘦せこけていて生気が感じられない人々、もう作物が育たないであろう灰の畑。そして変色したヒトの死体。

 この世界の現状の一端を垣間見た。


(ウリエル、ひどいな。これ。手を貸すことができるのなら、貸したい)


(必ず助けよう。でもまずは、この状況を切り抜けよう。私は色々脱出方法を探る。それと、ちょっと聞いて欲しいことが)


(ん。どうした?)


(この世界の厄災について、大まかな位置が分かった。どうやら厄災は複数あるみたい。あの竜神と呼ばれた男、その他に北に一つ、北西にもう一つ。南にも反応があるけど……これは屈服されているみたいだから……竜神を除いたらあと二つ、この世界には倒すべき厄災がある。ということは覚えておいて。もちろんまずはこの国だけど)


(もちろん、分かっている。よろしくな)





 そしてさらに数時間後、俺たちは城のような場所に連行され、地下の監獄に投獄されることとなった。

 持っているものは全て没収され、さらに、足枷を着けさせられることで能力が使えなくなってしまっているようだ。

 監獄は石造りの部屋に蠟燭の明かりだけがぽつぽつと灯っており、その中の一つの牢屋に俺は入れさせられた。

 ウリエルや竜神は別の遠くの牢に投獄されている。


「そこの奴と仲良くしていろ」


 眼を凝らすと、奥には足枷で繋がれ、汚れたスーツを着ている黒人が座っていた。


「……お前、出身は?」


 俺が入ってくるのを見るなり、うな垂れた顔を上げて出身を聞いてきた。


「日本、東京だけど、知ってるか?」


 その言葉を聞いた男は、表情をにこやかなものに変えながら立ち上がった。


「USA!ニューヨークゥ!」


 そのまま右手を挙げて笑顔で俺に足音を立てながら歩いてくる。

 彼の圧さえ感じる嬉しいという感情に気圧されて、そのハイタッチに答えてしまう。


「本っ当に良かった。周りに地球人がいなくて、ずっと一人だったんだ!しかも友好国だ!いや、別に仲が悪い国だったら駄目ってわけじゃないけどな!単に気まずい!あぁ、俺は『マイケル・レブナント』だ。よろしく」


「そうか……それはよかった……俺はクロノ・ノーデンスだ」


 彼の言葉にふと、疑問がよぎる。


「……待ってくれ。一人?どういうことだ?相棒みたいな奴はいないのか?」


 男はその言葉を聞いて見当がなさそうに首を傾げた。 


(ウリエル!?理事会の派遣って一人の場合あるのか!?)


(絶対ない。必ず二人一組)


(目の前に一人で別世界に紛れ込んだ奴がいる!)


 その言葉を聞いたウリエルは、驚きのあまり数秒間何も返答しなかった。


(貴方みたいに、別の宇宙を移動できたりする?)


(そういう口ぶりじゃない)


(その人、明らかに変だね。ちょっと上に報告してくる。クロノはその人の情報収集をお願いしていい?理事会の情報は言っても大丈夫だから)


「ん。おいおい。大丈夫か?ジャパニーズ。それとお前、結構英語は話せるな」


「……ああ、それは翻訳機能がついているからだな」


「あ、え、どういうことだ?」


 俺は俺自身が置かれている状況をぼかしながら説明した。

 契約時に理解させられたことだが、契約をすることで全ての宇宙の住人と意思疎通ができるようになっているらしい。

 ただ、この翻訳機能自体は、俺には元から搭載されているモノではある。


「なるほど、肉体が強化され、どんな場所でも活躍できる最低限のサポートがあると」


「ああ、それは契約して手に入れるハズ。そのでもって契約した人間と二人一組で行動するらしいんだがお前は違うみたいだ。参考までにお前がどうやってここまで来たのか、説明して──」


「うるせぇぞ!てめぇら!」


 隣の房から男の太い怒鳴り声が聞こえてくる。


「はいはい。うるさいよー!囚人たちー!」


 カツカツとハイヒールの音が奥から聞こえてくる。


「落ち着いて、君たちへの……」


 ワイシャツにパンツスーツ、両手には黒い手袋、右胸元には看守の勲章を着けた泣きぼくろの女は、俺の前で歩みとセリフを止めて、爽やかににっこりとほほ笑んだ。


 その微笑は初対面の看守と囚人のものとは思えないほど柔らかいので背筋が凍った。

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