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「わ」たしから「あ」なたへ

「わ」たしから「あ」なたへ

作者: 日浦海里

         あいしてる

  伝えないとやきもちを妬く

 気持ちの裏返しだって分かる

  思ってくれてるからだって


         いき苦しい

  伝わってほしいと思うのは

 単なるわがままだって分かる

  望むのはお互いなんだって


         嘘じゃない

  伝えたいって思ってるのは

 似た言葉だって分かっている

  飾った方が嘘みたいなんだ


         永遠はない

  一瞬がただ続いていくだけ

 大切にしたいんだって知って

  今日があるから未来(あした)がある


         終わりたい

  そんなことは望んでいない

 楽しいだけがいいのは分かる

  苦しみもあるからこそだろ


         かなしくて

         目にしただけでただ妬いて

         悪い方に考えすぎって分かる

         こえを掛けられただけって


         きみだから

         目にしただけで不安になる

         わたしがそうだったからって

         誰もが好きになるだなんて


         くるしくて

         自分じゃない誰かへの笑顔

         屈託ない君が好きなんだって

         好きなはずなのに胸が痛い


         けんかして

         思ってることを言葉にして

         嫌われることが怖いからって

         言えないままで困らせてる


         子供みたい

         話したいこと話せず泣いて

         伝えたいこと伝えられないで

         袖握りしめたら撫でられて


    咲いた花を

 枯らしてしまうのは簡単で

水加減だけでだめって分かる

 萎れるか腐らせるかの違い


    四季を知り

 儚さを知り未熟さを知って

振り向いた先は元居たところ

 終わりは始まりなんだって


    菫の花言葉

 紫なら愛と貞節なんだって

きみはきっと白く咲くんだろ

 僕はただ陽光だけを望むよ


    詮無い事と

 笑って言うときみは泣いた

まっすぐにぶつけられた感情

 もう少し早く出来たらって


    早春の頃に

 鮮やかに花は一面咲き乱れ

散りゆく花びらは綺麗だよね

 そうしてまた花は咲くから


         ただいま…

         お帰りなさいって声がする

         そこに誰かが居てくれるって

         当たり前じゃないんだって


         血を眺める

         指先を切って出来た赤い玉

         心が鼓動を打つたびに流れる

         今わたしが生きてるって証


          通話中って

          誰と話してるんだろうって

          昨日までならきゅってなった

          今日はもうきゅってしない


          手の平の線

          中心にある線は生命線って

          命の長さを教えてくれるって

          わたしと同じ長さなのにね


          突然の終局

          生命線が嘘だって言うなら

          赤い糸だって存在しないから

          繋いでいた手が離れたって


流れていく

空に浮かんだ雲も川の水も

生きた時間も残された時間も

止まることなく流れていく


虹の橋の先

地平の先なのか山の裾野か

渡れば向こう岸に行けるって

いつか誰かが言ってたっけ


縫い留めて

括り付けて絡めて縛ったり

どこにも行けないようにって

単なるわがままなんだけど


眠れなくて

夜空に浮かんだ星たちの光

何千年も前に輝いていた証左

強く輝けたら残せるのかな


野火の煙が

夕焼け空にたなびいている

一瞬が大切なんだって知って

未来(あした)は当たり前には来ない


          話したくて

          何度もスマホを立ち上げる

          繫がらないことは分かってる

          忘れてねってそういうこと


          卑怯だって

          君に酷いことを言ったから

          いい加減疲れていたんだって

          仕返しだなんて君は笑った


          不思議だね

          生きていくのが苦しいって

          望んでたことを神様が聞いて

          だから悲しくないよと君は


          平気な顔で

          嘘を吐く時の君はいつでも

          まっすぐ相手の瞳を見る振り

          でも忘れてねって時だけは


          本当のこと

          何処にあったのか探してる

          意味ないことだと分かってる

          それはずっと傍にあるから


    待ち侘びる

 あり得ないから願っている

遠ざけておいて待つ自分勝手

 叶えば風が吹くかもなんて


 身苦しいと

 誰の目にも触れたくなくて

関わりを全部拒絶し続けてる

 沈みゆく船には独りでいい


難しくても

流れるだけなら海の藻屑で

別の(みち)への海峡は渦逆巻いて

転覆したならそこで終わり


 目覚めない

 このまま永遠に眠ったまま

静かに終わっていく夢を見る

 明日の朝陽が遠くに思える


    もう十分と

 どこか諦めてたはずなのに

未来(あした)があるから言える戯言と

 笑える程度に諦めていない


          槍のように

          長く細くて手がかりもない

          その穂先で君が一人佇んでる

          不意に落ちてくその時まで


          いままでは

          君の視線の先を気にしてた

          自分以外の誰かを見ていると

          きゅって胸が苦しくなった


          夢みたいに

          君が傍にいてくれることを

          どこかで他人事に思っていた

          自分の好きだけに酔ってた


         永遠はない

         どんなことも終わりはある

         それぐらいのこと分かってる

         でもこんなのは望んでない


         欲張りだよ

         だから今も自分の都合だけ

         でも楽しいだけじゃないから

         苦しみもあってこそでしょ


    螺旋みたい

 巡るようで違う場所にいる

何もかもが少しずつ変化する

 次の季節に移る、それだけ


理屈はそう

それは何度も考えたことで

次の季節に何かが欠けてても

誰にも訪れる未来ってだけ


ルーレット

投げ入れた玉はどこへ行く

普通の人なら迷うとこだけど

僕には赤と黒だけしかない


礼は終えた

懇願されたものだけ残して

後は全部火にくべて燃やした

縛られずにいてほしいから


碌でもない

自分勝手なことばかりした

この扉から出てこれたとして

やり直せるとは思ってない


         忘れないで

         わたし自分勝手なんだって

         君にも友達にもそう言われた

         君はそれでもいいと言った


         いきてほしい

         届いてほしいと思うだけで

         伝わらないって分かっている

         だから君の願いは聞かない


         嘘でもいい

         大丈夫だからなんて言葉に

         根拠はないって分かっている

         飾った嘘で叶うんだったら


       えんを切る

       嫌われ避けられたとしても

       忘れてねって願いは聞けない

       会えないなんて聞いたりしない


     彼方(をちかた)の先でもそんなの知らない

     あいしてるなんてわたしの勝手

     君がわたしを思ってくれたのも

     それは君の、君だけの気持ちで

     だからわたしは君のそばにいる

     どこに行ったって想い続けるよ


        終わりたい

        そんなことは望んでいない

        君を忘れる苦しみに比べたら

        他のどんな苦しみなんて


        あいしてる

    伝えられる時伝えて欲しい

    素直に言えないの分かってる

    想いを知っていたとしても


        いつだって

    伝えてって言葉にするのは

    自分のわがままだと知ってる

    でも望むのはお互い様だよ


        嘘じゃない

     伝えたいって思ってるから

    君にはちゃんと届けたつもり

     飾りつけるのは苦手なんだ


        永遠はない

     絶対なんて約束も出来ない

    だから大切にしたいんだって

     今この一瞬が続いてくこと


        終わりの時

     それはいつか必ず来るけど

    たくさんの事を二人で一緒に

    悲しいことも嬉しいことも

だから君がいなきゃ……。



-----

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


「わ」から「あ」へ

という作品から始まったシリーズは

もう一度「わ」から「あ」へ

に戻った前作を以て完結となります。


本作はそれぞれの作品に置ける

二人の心理的な距離感をイメージしながら

全体を描いたものです。


個々に読んだときと、

読後の印象が違っていたなら幸いです。


最後なので簡単な解説を。


本作では一組の男女の心を描いています。

あ、さ、な、ま、ら行は男の子

か、た、は、や、わ行は女の子

一周した最後の節は、

二人それぞれの気持ちとも

どちらか一方だけの気持ちとも

捉えられるようにしています。

最終節が中央部に位置しているのはそうした理由です。


描かれなかったお話の背景

-----

男の子はある日、自身の不調に気付きます。

健康であるはずなのに、どこかおかしい。

受診の結果、血液の病である可能性を疑われます。

経過観察と分析の結果は、当初の見た目通りでした。

その病は不治の病ではありませんでしたが、

完治する確率の非常に低い難病でした。

まだ年齢の若い男の子は、病の進行速度も早く

このまま何もしなければ、

一年と持たず命を落とすと宣告されます。


手術をすれば、治る見込みはありますが、

上手く行かなければ、

手術後そのまま意識が戻らないことも。


彼は、身辺整理を始めることにします。


彼女に別れを告げ、

自らの思い出となるものは燃やし

家族を除いた人々との付き合いを拒絶して

誰の記憶にも残らないように


手術の結果、彼は意識を失ったままとなりますが……。

-----


この先の展開は

読み手の方のご想像にお任せしようかと思います。


曖昧にする。

その事が書き手である自身の願望なのかもしれません。


改めて、最後までお付き合いいただき、

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  それぞれの心を続けて見ることで繋がること。  重なることで重みを増して。 [一言]  離れ揺れる左側の五文字。  一度は引きながらも、寄り添おうとする右側の五文字。  先を思う余地を残…
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