充実のクズライフ
働きたくないから大学に行き、勉強したくないから中退した。
まあ、クズだよな。自覚はある。
でも、そんな俺ですら部屋から一歩も出ずに生活費を稼げる。
ネットさえあれば。
ロシア、ベトナム、南海の小島、得体の知れない場所にあるサーバが俺の仕事場だ。
クズなりのグローバル。
今日のメニューは、海外のクラウドサーバからアダルトビデオをダウンロードして、別のクラウドサーバへアップロードするだけの簡単なお仕事。
無事にアップできたら、情報サイトにリストを流せばいい。
さすれば、世界中の好き者たちがダウンロードしてくれる。
そいつらから、クラウドサーバ会社はダウンロード量に応じた料金をふんだくり、俺のようなアップロード者に報酬を振り込んでくれる。
単純作業だし、週に百本もこなせば、そこそこの収入にはなる。
もちろん、違法だ。だが、捕まる気配なぞ毛ほどもない。
仕事は他にもある。色々ある。
昨日やったのは、ネットビジネスのノウハウをまとめた書類の編集と販売。
編集といっても、ネット上で誰が作ったかわからないドキュメントを拾っては適当に合体させて、てにをはを直した代物をでっちあげるだけ。
こいつを「必ず儲かる情報商材」として情報商材ストアにアップして、メールアドレス収集ソフトがゲットしてきた宛先へDMを送る。それだけ。
たいした収入にはならないが、労働対価は悪くない。
これは違法だか、ギリギリOKだか知らない。
もうちょっと、ましなこともやっている。
毎日こまめに、ニュースまとめサイトを更新している。
ネタ収集ソフトが書き集めた記事を適当に選んでアップ。思わせぶりな見出しを付けて、そこらじゅうにリンクを貼り、広告バナーを置く。孫引きの話題ばかりで、エロバナーばっかだが、月のうち数食分はこいつの収入で都合してるはずだ。
他にも転売だのセドリだの、ネット上で小銭をかき集めれば、男子一人がこそこそ生きていくにはノー問題だ。
しかも、楽ちん。本日のお仕事は、しめて三時間もかからなかった。
仕事を終えても、まだ午前中。
朝型のクズだから一日が長い。
心地よくない労働の汗を流すため、散歩へ出発することにした。
蒸し暑い部屋で深呼吸、ジーンズを履く。さすがにTシャツとトランクスで外出はしない。社会人なんだから、最低限の、いや、最底辺の身だしなみを整えなきゃね。
ん? ジーンズが見つからない……外へ出る前に、ざっと室内を見渡し、捜索を始める。
八畳の部屋に、万年床と安物デスクとノートパソコン。そのすべてに衣服と本が積みあがっている。
見つからない。どうして、あんな大きなモノが紛失するのやら。
どっかにかけたかと、頭上を見上げれば、壁にも天井にも人の顔に見えるシミだらけ。
これはあれか。霊のたたりか。妖怪フクカクシの仕業か。
この部屋はネットの事故物件サイトで見つけた掘り出し物。立地は墓場の真裏で、しかも二年前に殺人事件があってから三ヶ月以上住み続けた者のいない物件だ。
家賃は格安だから、霊感が零感の俺にはベストなお部屋だった。
まさか、たたりがこんな形で降りかかるとは……んなわきゃない。
ジーンズは壁のハンガーにかけたままであった。
いるかも知れない地縛霊に「いってきます」と手を振って、タオルを持ってドアを開けた。
炎天下、八月の午前十一時、三十度オーバーの湿気が俺の痩せぎすな体を包み込む。
これから俺はスポーツジムへ向かう。
トレーニングをするわけじゃない。
シャワーで汗を流すだけ。風呂屋代わりだ。
平日会員なら、二日に一度利用するだけで、風呂屋の半額以下というコストパフォーマンス。しかも、日に何度利用しても文句は言われない。言いたそうな顔はされるけども。
午前中のジムは、贅肉まみれのマダムが多い。
彼女たちは、俺みたいな貧相なガキに冷たい眼差しを向けがち。
でも、慣れてるから、これまたノー問題。
シャワーだけで帰るのも気に食わないらしいが、無視。
長針短針がぴったり重なる頃、俺はこざっぱりとした顔で、風呂上りの散歩を始めた。
コンビニ経由で児童公園がいつものコースだ。
ベンチにどっかと腰かける。
冷え冷えのサイダー缶を首筋に当てて、ボケーッとする。
二十代なかばらしいママたちが子供を遊ばせている。きっと、彼女らの旦那はまともな勤め人で、今頃は後ろ指をさされない仕事に励んでいるのだろう。
子供たちの歓声を耳に、時たま吹く風を感じてガリガリ君をかじる。
ここでも冷たい視線を軽く浴びるが無視。
日差しが最高潮になる前に、休憩タイムを終えて、午後の予定をクリアすべく立ち上がった。
今日はクラウドサーバ会社から入金がある日。
念願のニューPCを買いに秋葉原へ出向く予定だ。
どうせアキバへ行くのなら、ランチは現地まで我慢して、辛いだけのカレーか、脂っこいだけのラーメンか、大盛りなだけの定食を食おうと、選択肢を決めてある。
ジーンズの左後ろポケットに手を当てて財布を確認、こいつにはキャッシュカードと各種ポイントカードが詰まっている。
俺は大股に歩きだした。
自分では充実した午前を過ごした男ならではの自信に満ちた足取りという感じ。
最寄駅へとざくざく歩を進めた。