踊るまにまに
脈が荒れた時など、ぜひお読みください。
軟膏の代わりになります。
幽霊から手紙が届いた。
持て余すので、みんなに見てもらおうと思う。
『拝啓、ロシアくん
本日は夕暮れも青く、終わりは澄み渡り……
いえ、堅苦しい挨拶はよしましょう。
わたし、オバケです。
先に申し上げますと、こちらは恋文となっております。
頑張って書きましたので、読んで頂けると嬉しいです。』
ふむふむ。
最初のところ、珍しい口上な気がする。
ちなみに今朝、ポストにこの手紙が入っていた。
表には小さく“恋文”と書いてあった。
宛名は無かったけど、僕んとこのポストに入ってたから、きっと僕のだ。
ちなみに、僕の名前はロシアじゃない。
ロシアというと、おそらく地名だと思う。
『さて、この手紙はどこで書いたでしょう?』
おっと、いきなりクイズだ。
なんだろう……幽霊だもんな……うーん。
じゃあ、僕のベッドの上とか。
好きな人のベッドの上で、普通に書けちゃうんだよー、っていう。
『正解は月の上です。
クレーターのせいで、文字がガタガタでしょう?
いいえ、本当はクレーターのせいじゃないのです。
わたし、不器用で、あまり字がキレイじゃないのです。
緊張のせいもあります。
汚い字でごめんなさい。』
なるほど。
月の上は想像できなかったな。
個性のある字だと思うよ。
『お手紙なんて、緊張しますね。
なにを書いたら楽しいでしょうか?
それじゃ、最近わたしが好きなこと、書きます。
最近の遊びは、分子を飛ばして遊ぶことです。
水素はよく飛びます。
酸素はあまり飛びません。
二酸化炭素は、もっと飛びません。
わたしがもしも、実体のある存在だったら、プールに行きたいです。
分子じゃなくて本当の水を、ロシアくんにかけてみたいな。
ロシアくん、水は好きですか?
わたし、水が好きです。
雨なども好きです。』
緊張しているからか、話が色んなところへ行っている。
でも、なんだか楽しそうに書いている。
自分が思ってることを、素直に書いているんだな。
ところで、僕は水が好きだろうか。
生活する上で、考えたことがなかった。
雨は……嫌いじゃないよ。
『昔、本が好きなお友達がいました。
放課後、雨が降って帰れない時、その子は教室で本を読んでいました。
傘を忘れたみたいでした。
帰らないの?
そう聞くと、その子は言いました。
雨の音を聞きながら本を読むと、気持ちが落ち着くの。
その時は強がりかと思ったけれど、案外、本当だったのかもしれません。
確かに、雨の音って、なんだかステキですよね。
かわいくて、楽しくて、心が降ってくるみたいです。
でも、やっぱり傘があったら、帰ると思うんです。
でも、傘はありません。
残念だけど、わたしは傘をひとつしか持っていませんでした。
だからわたし、思いつきました。
傘を増やす方法を。
それは一体、なんでしょう?』
よし、クイズだ。
小説かと思った。
傘を増やす方法、かぁ。
……折る。
真ん中から、折る。
絶対に違う。
でも、どうかな。
『正解は、鏡に映す、でした。
こうすると、傘は二本になります。』
難しい。
発想がすごい。
『だけど、増やしたところで気付きました。
窓の外では、雨が上がっていたのです。
きっと神様が、この前ちょっと泣いて、泣き足りなかったんですね。
余りの分を、今になって、ちょこっとだけ降らせたんです。
窓のへりのところを、そっと見ました。
名前は分からないけど、可愛い虫さんが歩いていました。
教室に届きそうな、成長した木の枝から、雨垂れが落ちていました。
そこに陽の光が反射していました。
優しい朝が来たみたいで、嬉しかったのを覚えています。
でも、朝じゃないのに、変な話ですよね。
外を見た友達のおでこが、海を渡る夕立ち雲みたいにキレイでした。
話が逸れました。
わたし、恋文を書きたかったのですよ。
だけど、あまりにも楽しいから、エンピツが言うことを聞きません。
こうなったら、私がエンピツになります。
技術妖精の松本さんに頼んできます。
なので、続きはまた今度。』
松本さんって、幽霊をエンピツにできるんだろうか。
日本人みたいな名前だけど、妖精らしい。
妖精って西洋っぽいのに……まあ、僕の勝手なイメージか。
――ああ、面白かった。
さて、寝よう。
みんな、見てくれてありがとう。
主人公、そくぶつてき。
この小説を読んでくれたあなたの家に、アリが10匹、遊びに来ると思います。
仲良くしてあげてくださいね。
今日の一言
僕らは虹に溺れる草