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月夜譚 【No.101~No.200】

始まりの刹那 【月夜譚No.198】

作者: 夏月七葉

 クラスの人気者は、教師の物真似が上手だった。個人個人の特徴をよく捉えていて、少しばかり――いや盛大に誇張を含んだ仕草や口調が笑いを誘う。

 陽気で明るくて、皆を纏めるのが得意な、優しい彼。入学した時からその人の好さは存分に発揮されて、クラス一の人気者になるのは早かった。

 いつも皆に囲まれており、彼自身も周囲も笑顔が絶えない。その眩しさに、私が近づける余地はほぼないに等しかった。

 そんな彼が、どうしてここにいるのだろう。校舎裏の用具倉庫の陰。膝を抱え、一人で俯いている横顔は、いつもの輝きが微塵もない。

 見てはいけないものを見てしまった。私は咄嗟に踵を返したが、静かな空間に靴で土を擦った音が響いてしまう。

「――誰?」

 声をかけられ、動けなくなる。長い髪で顔を隠したが、すぐにバレて名前を言い当てられた。

 彼が私を覚えていてくれていたことが、こんなに嬉しいとは思わなかった。クラスメイトなのだから当然といえばそうなのだが、自然と頬が紅潮する。

「どうしたの? 具合悪い?」

 顔を覗き込まれて、心臓が跳ねる。

 彼自身も先ほどまで落ち込んでいる様子だったのに、なんと優しいことか。

 私は全力で首を振って、その場から走り去った。

 彼と言葉を交わせるのなんて、きっとこれが最後だろう。それを惜しく思いながら、私は帰路に就いた。

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