20 聖女への命令
申し訳ありません、プロットを修正したため、18話以降からの展開を少し修正させていただきます。
「《使い魔契約》……これでよし、と」
「ふう……」
妙に色っぽい息を吐くシンシアを眺めながら、僕は内心で動揺していた。
遠回しに断るつもりだったのだが、どうやら失敗だったようだ。
まさか自分から《使い魔契約》をするだなんて言ってくると思わなかった。
だが……まあ、別にいいか。
元々僕としては使い魔以外はパーティーに入れるつもりはないから断っただけで、シンシアが使い魔になるというのならその問題は解決する。
「早速だけど命令させてもらうよ」
「は、はい……」
若干怯えている様子だ。一体何を命令されると思っているのだか。
使い魔に対して、テイマーはあらゆる命令が可能になる。
無論、テイマー以外にはあまり知られていないものの、契約段階で使い魔に対してどこまで命令できるかを定めることも可能ではある。
だが、今回シンシアと結んだ契約は、ありとあらゆる命令を許容するという最も強固な契約関係だ。
するつもりはないが、極論を言えば、今この場で僕がシンシアに死ねと命令しても彼女に抗う術はない。
「シンシア。君は《覇者の翼》にどうにかして再加入して、アベルたちの動向を探り、できれば僕に対する報復の計画に参加して欲しい」
使い魔と主であるテイマーの間には魔術的なラインが存在しており、それを利用して遠隔から通信することもできる。
誰にも気付かれずに連絡が可能だ。密偵にうってつけである。
「密偵の真似事をする……ということでしょうか」
「シンシアがどうしても嫌なら別に断ってくれても構わないよ。そのときは他の手段を考えるだけだから」
シンシアの善良な性格では、元とはいえパーティーメンバーを騙すような真似は心苦しいのではないか――そう思って提案したが、シンシアは強い眼差しで、首を横に振った。
「いえ、やらせていただきます。私は――レインさんの使い魔ですから」
「そう? ならいいんだけど……」
「ですが……一体どういった理由で戻ればいいんでしょうか?」
アベルとて馬鹿ではない。
いきなりシンシアが戻るといっても、恐らくは疑いを抱くだろう。
「じゃあ、うん、そうだね。シンシアは僕とパーティーを組もうと思ったけど、《使い魔契約》を強要されたので僕に失望して、それで行く場所がないとかそんな感じで」
「それで大丈夫でしょうか……」
「大丈夫でしょ、多分」
アベルもロジェも馬鹿ではないが……根本的に脳筋だしなあ。
ユミナ辺りは疑うかもしれないが、アベルに好意を持っている彼女は基本的にアベルの選択に否を言うことはない。
「そういうわけでよろしく。いやあ、シンシアが味方になってくれてよかったよ」
別にいなくてもなんとかなっただろうが、シンシアが味方になれば取れる選択肢も広がる。
何より、敵になることがないというのが最大の利点だ。僕の見る限り、シンシアとルーシアでは、純粋な実力ではルーシアの方が上だが、相性の問題で負ける可能性が高い。
「っ! はいっ、頑張りますっ!」
シンシアが両手を握り意気込んだ。
□
「あの……申し訳ないのですが、《覇者の翼》にもう一度入れてもらえないでしょうか」
「!? 勿論だ! シンシアなら歓迎だ!」
翌朝。宿の前に集まっていた《覇者の翼》一行に再加入を頼んだシンシアに対し、アベルは喜色満面な様子で彼女を歓迎する。
使い魔であるシンシアを通じて、僕はその様子を観察していた。
「ちょっとアベルったら本気? シンシアもシンシアよ。一度抜けておいてすぐに戻ってくるだなんて、少し虫が良すぎるんじゃないかしら?」
「あ? ユミナ、お前俺の判断に反対するつもりか?」
アベルが凄むと、ユミナは血相を変える。
「そ、そんなつもりはないわよ! 勿論アベルがそう言うのなら賛成するわ! シンシアも、改めてよろしくね?」
「……ふん、ならいい」
ユミナがシンシアのことを睨みながらも、不承不承といった様子で彼女へと手を差し出した。シンシアがおずおずと手を握り返す。
アベルがシンシアに好意を持っていることに気付いているユミナは、内心でシンシアのことを嫌っていた。
そんな風に、シンシアの《覇者の翼》への再加入はあっさりと成立した。
用意した言い訳を使う必要すらなかった。
アベル……馬鹿だったか。
「面白い!」
「続きが気になる!」
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