11 合流
「アリア……生きてたのか!」
「一回死んだけど、シンシアに生き返らせてもらったのよ」
アリアは答えると、シンシアの豊満な膨の谷間からするりと抜け出し、僕の肩の上に座った。
そうか……《聖女の聖杯》か。
「というか、どうしてシンシアの胸の中に潜り込んでたんだ……」
「魔獣避けの魔術がそうしないと私にまで掛からないみたいで。それでも効果が弱まったみたいで、マンティコアには効かなかったけど」
そういえばシンシアは魔獣避けの魔術を使えたな、と僕は言われてようやく思い出す。
基本的に一人用の魔術のため、パーティーで迷宮探索をしているときに使うことはまずない。すっかり忘れていた。
シンシアに視線を向ける。
彼女はなぜか逆さ吊りになっていて、下着が見えないように顔を赤くして法衣を抑えていた。
何をしているんだ、ルーシアは……。
「ルーシア、離してあげて」
「……はい」
言うと、ルーシアは地面にシンシアを下ろし、影の触手を消した。
ルーシアはなぜかシンシアを睨んでいた。
やっぱり死霊種だから、天敵である聖職者のシンシアとは相性が悪いのだろうか。
「シンシア」
「は、はい……」
「ありがとう、アリアを助けてくれて」
「いえ……私がアベルさんを止められなかったのも、原因の一つだったので……お礼を言われるようなことではありません」
シンシアが申し訳なさそうに頭を下げた。
「レイン、シンシアを許してあげて? この子、レインを助けるために一人で戻ってきたのよ?」
「ああ、そうだね」
心配そうに小声で話しかけてくるアリアを安心させるように、僕は頷く。
アリアは以前からシンシアのことを慕っていたため心配だったのだろう。
「頭を上げてよ。シンシアには元々、特に恨みはないから」
ただし、アベルだけは別だが。
ユミナとロジェはどうでもいい。今後二度と関わってこなければそれで。
……だが、アベルだけは決して許すつもりはなかった。
「ありがとうございます……」
「《覇者の翼》にいたときも、シンシアは僕を庇ってくれてたしね」
シンシアが立ち上がる。
アリアがふと、僕の後ろに立っていたルーシアに視線を向けた。
「それでレイン、そっちの女は誰?」
「ああ、彼女はルーシア。さっき契約して使い魔になってもらったんだ」
「ふうん……」
「ルーシア。吸血鬼。ご主人様の……使い魔」
「吸血鬼!?」
シンシアとアリアが驚きの声を上げた。
アリアがふわふわと羽ばたき、ルーシアへと近付く。完全に捕食者と非捕食者みたいな感じだが、大丈夫だろうか。
僕は今までアリアと二人でやってきたため詳しくは知らないが、先達のテイマーの話によると、使い魔と使い魔の間にも相性があるという話だが。
確か、死霊種は基本的にそれ以外の種族と相性が悪いという話だった気がするが。
本当に、大丈夫か……?
「へー、じゃあ私の同僚ってわけね? 私はアリア。見ての通り妖精で、レインの最初の使い魔よ? よろしくね」
「ええ、私は……ご主人様の最強の使い魔。よろしく」
僕の不安とは裏腹に、笑顔を浮かべて二人は挨拶を交わす。
最強って……まあ、Sランクの吸血鬼とDランクの妖精ではどっちが強いかと言われたらそれは前者だが。
「……レインさん、これ、大丈夫なんですか?」
「良かったよ、二人とも仲良くなれそうで」
「え……!?」
シンシアが信じられないものを見るようにこちらを見ている。
「もしも仲良くできないようだったら、どっちかの契約を切らなきゃいけなかったからね」
「!?」
アリアとルーシアが揃ってこちらを見た。
大丈夫大丈夫、君たちが仲良くやってくれるならそれで問題はないから。
□
「ご主人様は……甘すぎる」
迷宮の出口へと向かって歩きながら、ルーシアはぽつりと呟く。
現在先導しているのはレインとアリアだ。ルーシアは後方で殿を務め、アリアが索敵によって察知した魔獣を処理している。
レインは呆気なくシンシアを許した。
それは彼の恨みの矛先が、自身を囮にしたアベルに集中しているというのもあるが、何より、死んだと思っていたアリアをシンシアが救出したことの影響が大きい。
ご主人様であるレインが許したのなら、ルーシアとしてはその判断に文句を言うつもりはない。
ない……が。
「ご主人様が許したとしても……私はあなたを許さない。何と言おうと、あなたは一度ご主人様を捨てて逃げた」
「それは……っ」
同じく後方にいたシンシアに、ルーシアは言った。
話を聞くに、レインが所属していたというパーティー《覇者の翼》の他の面々を見捨てることができなかったという話だが……。
「私だったら他の有象無象は捨て置いて、ご主人様を助けた。きっとあの妖精だってそうしたはず」
「……ッ!」
それは……使い魔であるか、そうでないかの違い。
使い魔にとって、テイマーである主人は他の何よりも優先すべき存在だ。
「…………」
だが、《聖女》の称号を冠する彼女は、優しすぎる。それこそ、《覇者の翼》の面々すらをも見捨てることができなかったように。
尤も、主であるレインが許している以上、ルーシアが彼女に何かをすることはないのだが。
「ふふ……」
それに、ルーシアにとって幸いなことに。
アリアが生きていたことが判明した後も、レインのアベルに対する殺意は欠片も薄れていない。
ルーシアは。
死と闇とを友とする最強の死霊種たる彼女は。
――レインのその心の闇をこそ、愛しく思うのだ。
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