10 救出
首が潰れたドラゴンの死骸を眺める。
感慨は浮かばない。僕にとってのアリアの仇は……やはりアベルだということなのだろう。
「このドラゴンはどうされますか、ご主人様?」
「持って帰れたらかなりの金になるんだろうけど……このサイズはなぁ」
「ふふ、そういうことならお任せを」
ルーシアが影を死骸の下にまで広げると、ずぶずぶとドラゴンの死骸が影の中へと沈んでいく。
僕は目を瞠った。
「影を利用した収納魔術? また便利な魔術を使うね」
「褒めてくれてもいいですよ?」
「ああ、流石はルーシアだ」
頭を差し出してきたので、掌を乗せて軽く撫でる。
「よし、じゃあ地上へ戻るか」
この広間は、僕が落ちてきた広間とはまた別の場所のようだ。
横にドラゴンが通れそうな大穴があるから、恐らくはそこから僕が落ちた穴に繋がっていて、これを使ってドラゴンは行き来していたのだろう。
他にも、広間の奥には一つの扉がある。正規のルートは恐らくこちらだ。
ドラゴンを蹴散らした今、ドラゴンに背後から強襲されるリスクはない。
あの大穴を使い、壁を伝って上へと戻る選択肢もありだろう。まあその場合僕はルーシアに抱えてもらうことになるだろうが。
「まあ、当初の予定通り正規ルートを使うか」
「先導は私が」
ドラゴン以外の飛行する魔獣がいないとも限らない。
いくらルーシアが強いといっても、僕を抱えて、かつ壁を登っている最中に背後から強襲されては対処しきれない恐れもある。
まあ、影を操る魔術があれば大抵の敵はどうとでもなりそうだが。急いでいるわけでもない。安全志向で行こう。
僕の言葉にルーシアが頷き、先に進む。
影の魔術によってルーシアが魔獣を蹴散らしながらどんどんと上層へと戻っていく。
索敵すらせずに進んでいるが、弱い魔獣はルーシアが近付くと勝手に逃げていくため、大した危険はなかった。
これくらい強ければ索敵すらいらないんだなあと僕は思った。
そうして暫くした後、ルーシアが突然立ち止まる。
「前方、右に曲がった先に誰かいます」
「……!」
ここはまだ僕が落ちた大穴のあった広間よりも更に深層だ。そのため、恐らくは《覇者の翼》の面々ではないだろう。
同業の冒険者か?
「魔獣に襲われているみたいです。どうされます、ご主人様?」
「とりあえず様子を見てみて、助けを求めてるようなら助けようか」
その場合、まずは僕が出ることになるだろう。普通の冒険者なら、迷宮内で吸血鬼と出会った場合、それを味方と考えることはないからだ。無用なトラブルは御免である。
僕はルーシアを伴い、恐る恐る前に進んだ。
そこには、僕の見知っている少女が、マンティコアと対峙していた。
金色の長髪の、白い法衣を纏った聖職者の美少女。
聖女シンシアだ。
しかし、どうして……こんな場所に?
しかも一人だ。後衛職が一人で何をしているのだろうか。シンシア一人ではAランク魔獣であるマンティコアには勝てないだろうに。
「まあいいか。とりあえず救助で」
「了解」
これがアベルだったら見殺しにしてたが。というよりもマンティコアと共闘することになっていただろうが。
ロジェやユミナの場合もスルーしていたと思う。
だが、シンシアは別だ。
あのパーティーの中で唯一僕を庇ってくれていた彼女が殺されてしまうのは……寝覚めが悪い。
ルーシアの影が動く。風を切る音。
次の瞬間、今にもシンシアに襲い掛かろうとしていたマンティコアの胴体が両断された。
同時にルーシアは影を操り、触手のようにしてシンシアに巻きつけると、彼女の身体をこちらに引き寄せた。マンティコアの体液には猛毒が含まれる。
あの至近距離にいたままでは浴びてしまう以上、正しい判断だ。
「えっ!? なんですかこれはっ!?」
「こんなところで奇遇だね、シンシア」
「……あれ? レインさん?」
当然だが、いきなり影の触手に拘束されたシンシアが大いに暴れていたので、僕が声を掛ける。
シンシアの動きが止まった。視線が合う。影の触手で宙吊りになったままの姿勢で、シンシアが目を丸くした。
「レイン! 生きてたのね!」
そして、彼女の胸元から、アリアが這い出してきた。
これは……夢か?
「面白い!」
「続きが気になる!」
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