01 Sランクパーティーのテイマー
「おい、さっさと歩けッ、ただでさえお前は役立たずなんだから!」
迷宮の壁面に苛立ち混じりの罵声が響く。
前方を歩くアベルがこちらを見て苛立ったように舌打ちした。
「分かってる……」
僕はパーティー全員の荷物を抱え、歩き出す。
Sランク冒険者パーティー《覇者の翼》。
剣と魔術の両方を高いレベルで使いこなす、勇者アベル。
王国一の剣の使い手である、剣聖ロジェ。
あらゆる魔術を網羅した、魔女ユミナ。
どんな傷も癒す力を持ち、死者の蘇生すら可能な、聖女シンシア。
そして僕――テイマーのレイン。
僕の職業であるテイマーとは、魔獣などを使役し、補助することで戦闘を行う職業の一種だ。
生まれつき身体が弱く、魔術の才能も大してない僕が冒険者として活動するには、この職業に就くしかなかった。
相棒は妖精のアリア。
僕の肩の辺りで羽を動かしてふわふわと浮いている彼女は、テイマーである僕の唯一無二の使い魔だ。
冒険者となってからずっと共に戦ってきたその相棒は今、魔術によって迷宮内の索敵を行っている。
僕の主な役目は、荷物運びやアリアによる敵の索敵、警戒だった。
以前は支援魔術なども行っていたのだが、聖女シンシアが僕よりも強力な支援魔術を会得して以降、効率の劣る僕の支援魔術は使われていない。
アリアが眉を動かした。
迫る敵の存在を探知したのだ。
思念を用いてアリアから伝えられた内容をパーティーメンバーに告げる。
「来た、前方から魔獣が三匹」
「ちッ」
アベルが剣を構えた。
残るパーティーメンバーであるロジェとシンシア、ユミナもそれぞれの得物を構える。
そして、勝負は一瞬だった。
聖女であるシンシアが支援魔術を前衛に施す。淡い光がアベルとロジェを包む。
魔女のユミナが出現した敵を拘束。
支援魔術によって強化された身体能力でアベルとロジェが突撃し、瞬く間に魔獣を駆逐した。
「これで終わりか?」
「うん」
「ちっ、こんな雑魚程度で一々報告してんじゃねぇよ」
「――やめなさい。ここは迷宮内なんですから、敵の存在を報告するレインさんの行動は間違っていません」
シンシアが僕に詰め寄るアベルとの間に割って入った。
アベルが舌打ちする。僕は愛想笑いを浮かべた。
アリアが僕の肩越しにアベルを睨みつけていたので、人差し指で頭を撫でて落ち着かせる。
こんな場所で諍いなどを起こすわけにはいかない。
ここは迷宮と呼ばれる空間だ。
内部には無数の魔獣が潜んでいるが、危険な分、見返りも大きい。
冒険者はこういった迷宮を踏破し、内部に眠る宝物などを持ち帰ることによって富と名声を得る。
僕たちが今挑んでいる迷宮は《奈落の坩堝》と呼ばれる、未だ踏破者のいないSランク――最高難度の迷宮だった。
「おら、さっさと行くぞ。ただでさえお前は役立たずなんだから、俺らの足を引っ張るんじゃねぇぞ」
「うん……」
頷く僕に、アベルとロジェが揃って嘲笑を浮かべる。
Sランクパーティー《覇者の翼》は、この国で一番のパーティーと名高いパーティーだ。
僕とアベルたち、同じ村で育った同年代の幼馴染同士で集まり、五年前に立ち上げたパーティー。
だが、僕の実力では、既に彼らについていけなくなっていた。
始めの頃は僕が、というよりも使い魔であるアリアが役に立っていた。
僕の使い魔であるアリアは、冒険者に成り立てだった当時の僕たちよりもずっと強く、何度も危機を助けられた。
だが、皆が強くなるにつれて、あっさりと追い抜かされた。
元々弱かった僕と、種族的にそこまで強くない妖精のアリアは、相対的に役立たずになっていったのだ。
そうなってからは、パーティーメンバーであるアベルたち、特にアベルとロジェら男性陣からの僕に対する扱いは、日を追うごとに悪化した。
先程のように、シンシアだけは僕のことを庇ってくれてはいるが……あまり効果はない。
実際に他のパーティーメンバーと比べて僕の実力が劣っているのは事実だからだ。
それでも僕が《覇者の翼》に残り続けていたのは、僕にとって冒険者が憧れだったからだ。
冒険者となって、《覇者の翼》……幼馴染たちのおこぼれではあるが、最上位であるSランクの冒険者になれた。
しかしそれでも満足できなかった。僕はまだ冒険者として迷宮を探索したり、色々な場所に行ってみたりしたかった。
だけど……限界だ。
僕だけならともかく、アリアにとってもこの環境は負担でしかないだろう。
だから、今回の探索を最後に――僕はこのパーティーを抜けて、冒険者を引退しようと思っていた。
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