ダズロー徴兵
クモ討伐から、1か月、俺たちはダンジョンに行けていない。
素材を加工していたことも理由の一つだが、もっと大きな問題が発生していたからだ。
ダンジョンから戻った次の日、村長からダズロー達16歳になった新成人たちを魔族との戦争に連れて行くという話を聞いた。
ダズローは昔から2つ年上をかさに着て威張っていて、ことあるごとに赤目の俺に当たってくる豚っ鼻の嫌な奴だ。
この一か月、俺たちはそのダズローら新兵の準備を手伝っていた。
準備といっても保存食を作ったり、薬草を取ったり、お守りを作ったりだ。
ダズローらは新兵の心構えや基本教練などをしていた。
いよいよ出発という日の朝、起きたら父さんと母さんが神妙な顔で座っていた。
「おはようソラ、大事な話があるんだ。座ってくれ。」
父さんに言われ、座る。母さんは何かを我慢しているような顔だ。
「おはよう、どうしたの?」
努めて普通に話し、椅子に座る。
「父さんな、今度の新兵と一緒に戦場に行くことになった。」
え…
「なんで!父さん戦争いかなくていいって言ってたのに!」
「ああ、父さんはもう兵士として集落のみんなとは戦っちゃいけないのは変わっていないんだ。今回は新兵たちを戦場に送る役割だよ。大丈夫。」
なんだ、送るだけか。なら大丈夫なのか。
「…ソール、送ったらすぐに帰ってくるって約束して。」
ソールというのは父さんの名前だ。母さんいつも明るくて楽天的なのに今日は違う。
「ララ、私も退役してもうだいぶ経つ。みんなの役には立たないよ。」
「約束して。」
「…約束する。」
「っていうか、父さん兵士だったの?」
初めて聞いた。
「ああ、ソラが生まれるまではね。とはいってもその時は平和で集落の警備や魔物退治くらいだったけど。」
「そうよ。だから父さん昔の仲間を見たらほおっておけないと思うの。本当にすぐに帰ってきてよ?」
母さんが幾分和らいだ感じになってくれた。
「わかったよ。約束だ。」
父さんも苦笑いして返す。
そういうことなら母さんの心配ももっともだな。
「突然だったけど、話はわかったよ。じゃあ、俺ダズロー達の手伝いあるからご飯食べたら行くよ。」
「なら、一緒に行こう。」
ご飯を食べて、父さんと一緒に新兵たちの出征式の準備をしに集落の中心にある広場に向かう。
「でもなんで当日に行くって話したの?もっと前にわかってたんでしょ?」
「ああ、ララにも相当怒られた。なかなか言い出せなかったんだ。」
父さんは頭を掻き、苦笑いしている。
「そうだアレン、これをあげる。」
そういって父さんは右腕につけた腕輪を外し、俺に差し出した。
「これは父さんがおじいちゃんからもらった魔法の腕輪なんだ。魔法がうまく使えるようになる効果がある。本当はソラが16になったらあげようと思ってたけど、もうソラはずいぶん大人だし、ソラが戦争に行くときなんかに渡したくないから。」
にこやかに話す父さん。
「…いらないよ。そんなの今貰ったらなんか父さん帰ってこなさそうだから。父さんが帰ってきてからありがたく貰うよ。」
嫌そうなのが顔に出ていたのか、また父さんが苦笑いしている。
「それもそうだ。じゃあ帰ってきたらあげる。」
そういって父さんはまた腕輪をして歩き始めた。
こういうフラグは折っておかないとな。あとは他愛もない話をしながら歩いた。
…久しぶりにたくさん父さんと話したな。
もうすぐ広場だが、まだ距離があるのに新兵たちの声が聞こえる。
「心得1!すべては一族と森のために!」
「心得2!常に備え、警戒せよ!」
「心得3!規律を守り命令に従え!」
「心得4!命を惜しむな、名を惜しめ!」
「心得5!命を捨てるな!最後まで足掻け!」
「心得6!命尽きる時は仲間の手で!」
「われらの命は一族と森へ還る!」
出兵前の気合だろうか。それにしてもこの心得何度も聞いてるが、4から6は完全に矛盾してるよな…
「やってるね。」
「うん、でも父さん、この心得、4,5,6って矛盾してない?」
「ああ、そう聞こえるかもしれないね。でも父さんも新兵の時から何度も声に出していたけど、そうは感じないよ。」
「そうなんだ。」
「そう、命を惜しまず戦って、絶望的でもあきらめず、死ぬときは敵の手じゃなく仲間の手で死なないといけない。それがハイエルフの戦士なんだ。」
「死なないといけない?」
「言い伝えでね、仲間に介錯されたら森と一族のもとに還れるんだ。」
「ふーん。」
広場に到着し、こまごまと準備をする。
準備が終わったら、昼食をみんなで食べたら出発だ。
ダズローもそのほかの新兵たちも家族と昼食を食べていたが努めて明るい人、ずっと黙っている人、様々だ。
「じゃあ、そろそろ出発しよう!」
隊長と思しきハイエルフが大声で合図する。
新兵たちは隊長の前に整列を始める。
「皆さん。」
ユイとヒルダ、あと何人かの女性のハイエルフが新兵たちの前に行く。
「これ、お守りです。」
女性陣は手作りのお守りを一人一人手渡していく。
「ダズローさん、ご武運を。」
「…う、え、ああ。ありがとう。」
ユイがダズローに声をかける。いつもユイの前では威張ってかっこつけてたダズローだが、ずっと下向いていて、ユイの声に驚いたように顔をあげ、ユイからお守りをもらっていた。
そりゃ戦争だもんな。
隊長を先頭に新兵が続き、最後尾に父さんという順番で出発していった




