バレンタイン特別記念 憎たらしくて素敵な日
ハッピーバレンタイン
今日は2月14日―――バレンタインデーだ。
男は浮かれてソワソワし、女は緊張し、或いは呆れているそんな日だ。
そして私が最も憎らしい日でもある。
なぜなら‥‥‥
「あ、あの神崎さん!! これチョコです! 受け取ってください!!」
そう私の親友であり、私の幼馴染の神崎詩織が沢山のチョコ(同性異性問わず)から貰うからだ。
「はあ、今年も沢山貰ってるね詩織」
ちなみにこれで詩織に渡した人は20人を越えたはずだ。
沢山いすぎて、数えることをやめたので正確人数は分からないが多分その位はいってるだろう。
「そうかな? 皆一辺に渡してくるから、お返し出来なくて困ってるんだよね‥‥‥」
詩織は顔を覚えることが苦手でよく人の名前を間違える。
そのためよくトラブルになったりするのだが、そこは私が解決している。
おまけに世間知らずであり、箱入りのお嬢様みたいな雰囲気もあり、その為かよくモテるのだ。
「‥‥‥別に返さなくてもいいと思う」
「だめだよ! 貰ったからにはしっかり返さないと!」
「でもあいつら、名前どころかクラスも言わないし‥‥‥」
そんな奴らに詩織の手作りチョコを渡すわけには行かない。
というか本当は詩織にバレンタインチョコを渡すことさえ、許したくはない。ええ、許したくはなけれども、そんな私の個人的な事情で詩織が嫌われたり、あまつさえいじめられたりでもしたら私は耐えられない。
そんなことを考えていると、一人の男子生徒が詩織の前に現れた。
(しまった‥‥‥っ!)
私は長年の勘から、この男は危険だと判断した。
「あ、神崎さ~ん! 今日はバレンタインでしょ~だからはいこれ! いや~僕が誰かに物を渡すなんて珍しいな~」
予感は的中。まるで自分こそが特別であると思って‥‥‥というか勘違いしているような男だった。
何鼻の下伸ばして、話しかけてんだよ。さっさと消え失せろ。
あとその変な伸び何なの? むかつくからやめてくれ。
「あ、そうそう。これさ~バレンタイン関係ないけど、今度どこかで映画見に行かな~い?」
「え、えっとそれは‥‥‥」
チョコを渡し終えたというのに、しつこく話しかけてくる男子に困っているのか、助けを求めるようにこちらをチラチラと見てくる。
まったく、これ以上は目に余る。てめぇなんかより、詩織の存在は特別なんだよ。天使なんだよ!
お前みたいな自己中が関わっていいわけねだろ!
「あのー困ってるみたいなんで、お話はそろそろ‥‥‥」
「え~、何君~? これは僕と彼女の問題でしょ~? 外野は引っ込んでてよ~」
まるで、詩織は自分の物だと言いたげなその表情に少しばかりイラッとしてきた。
はあ、こういう輩がはびこるからバレンタインなんて大ッ嫌い。
「‥‥‥どこぞの大企業の御曹司か何かは知りませんが、詩織は私のなので。それでは‥‥‥」
「え? あっちょっと結奈ちゃん!」
有無を言わさず、詩織の手を引きその場から急いで離れる。
「もー、助けてほしいとは思ったけど、あんな強引にすることないでしょ?」
ある程度離れると、詩織は私にそう言って、叱ってくる。
「いや詩織、それは違うよ。ああいう手合いはね、世界が何でも自分の思い通りになるって考えてるから、きっぱりと断るべきだよ」
「だとしても、何も言わずに離れるのはいけないよ?」
「だって腹が立ったし‥‥‥まあいいでしょ別に? それよりも、はい。私からもバレンタイン」
そう言って私は詩織の話を遮りそっけなく、手作りのチョコを渡す。
「わあ! ありがとうっ、結菜ちゃんのチョコいつも美味しいから楽しみなんだよね!」
「そ、そう‥‥‥ありがと」
そうやって素直に言われると照れる。
けど、美味しいのは当然だ。詩織に渡すものだし、美味しくないものを渡すわけにはいかない。
「ねねっ、ちなみに今年はどんななの?」
「えっとね、今年はチョコクッキーにしてみたんだよね。前にクッキー焼いたら美味しそうに食べてたから」
「えっ? 覚えててくれたの?」
忘れるわけがない。詩織との思い出は何でも覚えてる。
「あんだけ、美味しい美味しいって言って沢山食べられたら忘れられないわよ」
「え、えへへ」
詩織は照れて、後頭部に手をやる。
「こんな美味しいチョコもらったんだから、お返しは頑張らないと!!」
「えっと、うれしいけどおいしいって言葉は食べてから言ってほしいな?」
「え? いやいや結奈ちゃんのチョコは美味しいに決まってるでしょ?」
純粋な目で、不思議そうに返された。
「だって私のために作ってくれてるんでしょう? そんなの美味しくないわけがないでしょ。私の好みも全部把握してもらってるし、なにより結奈ちゃんがいっつも陰で努力してたのだって知ってるもん。わたし好みになるように、何度も作り直したり研究してたり‥‥‥そういえば私なんで結奈ちゃんいがいからチョコもらってるんだろう? 私のためだけに作ってくれる人が身近にいるのにわざわざ他の人にもらう必要ないよね? あれ? なんでだっけ? ああ、そうだ。結奈ちゃんが命令したんだっけ(・・・・・・・・)。「私が他の人から嫌われてほしくないって」別にいいのに他の人に嫌われたって。だって私には結奈ちゃんがいてくれればそれでいい。ああでも、結奈ちゃんからの“命令”は守らなくちゃ。結奈ちゃんには嫌われたくない。えへへ、結奈ちゃん大好きだよ。さらさらできれいいな髪も。胸が小さくて気にしてるとこも。全部大好き。愛してる。ねえ一緒に暮らそう? 全部私がやってあげるから、駄目? ああ、そっか! 結奈ちゃんが気にしちゃうもんね‥‥‥」
突然スイッチが入ったように延々と暴走気味に話しかけてくる詩織を私は止めもせずにずっと聞き続ける。
数分はずっとこの調子で、私は先程の怒りが嘘のように消えていった。
(ああ、やっぱり詩織は特別だ‥‥‥!!)
「‥‥‥それでね、結奈ちゃんとの子供はできないけど養子をとって一緒に育てて、家族を作ってもいいよねえ。だって私と結奈ちゃんが育てるんだから可愛くなるよね‥‥‥あっ、チャイムか。もう行かないと授業間に合わないね。行こうか結奈ちゃん」
「うん、そうだね」
ある程度満足したのか、始業前のチャイムを区切りに詩織の話は終わった。
私も詩織の様子に満足して、少しステップ気味に廊下を歩く。
「あ、神崎先ぱ‥‥‥」
途中で何か声がしたような気がするけど、きっと気のせいだろう。
とういか、詩織のあの反応が見たいがために有象無象にバレンタインチョコわたすの許しただけだし、これ以上はいらない。
ふふふ、ああ楽しみだなあ。帰ったら、詩織のバレンタインチョコが待ってるし、今日一杯我慢したし、お泊りでもさせようかな?
「‥‥‥? どうしたの結奈ちゃん?」
だいぶ落ち着いてきたのか、詩織は普通に話しかけてきた。
「いや、なんでもないよ? ただ、今日お泊りするならどっちがいいかなって」
「え、ほんと!? じゃあ、結奈ちゃん家が良い!! 邪魔が入んないし‥‥‥そ、それに久しぶりに結奈ちゃんにご飯作りたい。かな?」
そうして、すすすっと詩織は私の手を握ってくる。
ああ、もうほんとかわいなあ詩織は! どんどん私好みになってくなあ‥‥‥
その後は、私の家で一緒に夕飯を食べて、一緒にお互いのバレンタインのチョコを食べた後に、一緒にお風呂に入って最後に詩織をオイシクいただきました。
ああ、バレンタイン最高!!
今年もチョコはもらえなかったよ