第8話 不作と不得策と解決策
特に大きな出来事もなく、ナナ姉さんがステータスプレートを授かってから半年がたった。
3日に一度の父さんとのコミュニケーション?として父さんの仕事部屋にいる。
いつも仕事部屋と言っているのは執務室と呼ぶには些か無駄なものが多いからである。なんで木剣や人型の藁がこんなに置いてあるんだろうか。
そして最近父さんの顔色が優れない。何か困り事があるようだ。
父さんの座っている後ろの本棚から体術関連の本をとる時に父さんが眺めている複数の書類を見る。
数字が上から下に行くたびに徐々に少なくなっている。
ああ、小麦の畑の収穫量が良くないようだ。
この世界には魔法があるので、植物を育てる魔法使いがいれば完全な不作にはならない。
だが魔法も万能ではない。
植物の成長を促す魔法にはずっと使っていると効果が薄くなると本に書いてあった。
なので小麦は魔法を使わずに今まで使っていたようだが、徐々に収穫量が減ってきていた。
ある時から農家は魔法を使い始めたようだ。始めは良かったがやはり徐々に収穫量は減っていて、冬以外に収穫回数を増やしても結果はよくないようだ。
本を読みながら、父さんの顔をちょくちょく伺いつつ考える。
なぜ、不作になるのかは分かる。確か前世では同じものを育て続けると土にある同じ栄養が常に消費されていって、育ちが悪くなる的な理由だったはず。だから畑を休ませたり、他の作物を育てるのが良かったはずだ。
前世の知識を調べる魔法かスキルを貰っている筈だが、魔法だと魔力を使うし、スキルもモノによっては魔力を使う。
前世の知識を調べる力だと魔力操作よりも相当魔力を使いそうだし、父さんやルル母さんに確実にバレて変に思われてしまうだろう。自分のステータスがまだ分からない筈なのだから。
なので考える。
植物の成長を促す魔法の【グロウ】は、土の栄養を集めて成長を促しているのだろう。そう仮説を立てれば【グロウ】だと原因の解決にはならない。むしろ悪手だ。
それを伝えるのは簡単だが手がない。
では、肥料を用意させる?
いや、ナルメア母さんや兄さん達にお金を使っているはずだから、小麦の畑全てに肥料を用意させるのは厳しいだろう。
くっ、父さんが俺の作ったおもちゃを商売に使ってくれれば資金面は大丈夫だったはずなのに!
では、いっそのこと暫くは別の作物を育ててみよう。と提案するか?
でもそれを実行しても、結果が現れるのはかなり先になってしまう。
自然の再生が早くできるなら前世の世界では砂漠化なんて問題にはならなかったはず。
今結構やばい所まで来ている。多分【グロウ】を使い続ければ砂漠化に近いところまで行ってしまう気がする。
手詰まりだろうか…。
諦めかけて、窓から空を眺める。綺麗な空だ。
花が少ししおれている。ナルメア母さんが「私だと思って大切に育ててね。」と言って王都に行く前に父さんに送っていた花のはずだ。
父さんには似合わないと思っていたが口には出さなかった。
異世界の花ってこんなに咲いているモノなのか…。
そう、ナルメア母さんは少なからず2才あたりから水をあげていたはず。記憶が定かではないが、かなり綺麗だと思ったので記憶に残っている。
「父さん、花に水はあげていないの?」
気が付いたらそう呟いていた。綺麗な花を見れば何かが変わると思ったから。
「あぁ、毎日欠かさず水はあげているんだがだんだん元気が無くなってきていてな。大切に育てているんだが…。母さんは6年前から長寿の花だと言って育てていたけど、流石に寿命なのかもしれないなぁ…。」
より父さんを気落ちさせてしまったみたいだ。失敗した。
でもまた仕事を始めていた。小麦に関する問題は後回しにしたのだろう。
でも6年は長いな。流石異世界と言いたいが、何故かもやもやする。
なんだろう…。母さんは特別な育て方をしていただろうか。
母さんも毎日水をあげていたと思うし…。
しばらく考えていて、記憶を呼び起こしていると頭に電撃が走る感覚がした。
記憶では母さんは水魔法で花に水を与えていた。
「まさか…」
まさか魔力は栄養剤的な役割をしている!?
魔物も魔力の塊であると言われている。動物を魔物が発生する場所に防御を固め放って置いたら魔物化した実験結果もある。
魔力自体が一定の動植物に対しての成長を促進しているのかもしれない。
これを伝えるべきか…。
違う作物を育てる。畑を休める。この辺りは理由はいくらでも作れて実行に移せるだろう。
だが、今思いついた事は少し特殊だ。
俺はまだ4才だ。子供の戯言とも取られかねない。
今までにない事だし、領地の問題を解決しようとする子供は中々いないだろう。変に思われるかもしれない。
問題が多すぎる。でも…。
自分が変に思われても、自分の意見の1つで不幸な人を救えるのであれば言うべきだろう。
よしっ。
心を決めこの事を伝えようと本を閉じた。その時、
「レオ、今小麦の収穫量が減っていてな…。あぁ、小麦はパンの材料でな?それで収穫量の問題を解決する為にはどうすればいいか何か策はないか?」
驚いた。まさか父さんから話を振られるとは思わなかった。
4才の息子にそれを聞くとは思わなかったが、それ程切迫した状況なのは俺にも分かっている。
だから、俺は答える。
「父さん、俺も父さんが見ている資料を見て、その事について考えていたんだ。」
父さんは驚いた表情をしたが、俺の顔を見て真剣な表情になる。
それを見て俺は言葉を続ける。考えていた事をまとめ、それを伝えた。
伝えた後、父さんは驚いた表情をし、暫く考えていた。
母さんの花で試してみてはどうか、と提案してみた。
父さんが詠唱をして【ウォーターボール】を唱え、俺が持ってきた空のジョウロに水をいれる。
その水を花にかけたら花が水と魔力を同時に吸収する感覚が見て伺えた。少し花が潤った感じがする。
仮説の一部は合っているかもしれない。問題は小麦に対して効果があるかどうか。
父さんは実行するかは一旦保留にするといい、数日父は魔力水をあげ続け、花は母さんが育てていた時くらい綺麗に咲いていた。
父さんはその結果を見て、農家と土魔法を使える者を集め、出来る限りでいいから土魔法で畑を耕し、出来るだけ頻繁に土に魔力を送るようにと御触れをだした。
仮説が正しく、小麦に効果があり、問題が解決できますように…