第一話 車に轢かれて死んだんですが
文章書くのって難しいんですね。
1話あたりの分量がどれくらいが適切なのか
いろいろ試行錯誤しながら書いていきますね。
「須藤、俺上がるけどどうする?」
「僕はまだやることが残っていますので。お疲れ様でした。」
一人もくもくと資料作成をしていたら、隣のデスクの先輩が声をかけてきた。気づけば定時を過ぎ、時計の針はやがて21時を刺そうかとしているところだ。
「お前も大変だなぁ。それ係長の仕事だろ? 断ることも覚えないとしんどいぞ?」
「ありがとうございます。努力してみます」
「おう。お疲れさん」
僕、須藤則人はこれまで王道の平凡ロードに歩んできた。
公務員の両親の元に一人っ子として生まれ、大事に育てられた。
小さい頃の僕はあまり外で遊ぶタイプじゃなく、大人しい子供だったそうだ。
また、内向的で気が弱く、人から言われたことにノーと言わない性格だったそうだ。それは今でもそうかも。
特に反抗期らしい反抗期もなく、親の言うことを真面目に聞いてきた。そのおかげで小中高大と特に困ることなくスムーズに進学し、卒業後は地元の公務員になった。
「言われたことは守りなさい!」って両親に口すっぱく言われて育ってきたからか、人の言うことやルールを守ることに関しては天下一品。
ポイ捨てなんてしたことないし、赤信号無視なんてもってのほか!
そんな感じで他の人からすれば刺激のない、面白みのない人生かもしれませが僕はそれなりに気に入っている。
平凡こそが至高!好きな言葉は安定と規則です。
そして僕は今、係長から押し付けられた仕事を消化するために残業をしているわけだ。ノーと言えない僕の性格を熟知しているようで、毎日残った仕事を僕に渡してくる。
さっさと残りの仕事を消化すべく画面に噛り付いていると、背後に人の気配を感じた。
「須藤さん、また今日も残業してるんですね!はい、これどうぞ!」
僕のデスクに暖かいコーヒーを置いてくれた彼女は尾張楓さん。この市役所のアイドル的な存在である。ちょっとタレ目でつぶらな瞳で、いつもニコニコしているため、みんなから愛されている。
実は密かに思いを寄せているのだが、こんな僕にはとてもじゃないけど釣り合わない高嶺の花だ。
「ありがとうござます。尾張さんこそ、どうして?」
「ん〜、野暮用、ですかね?ふふっ、あんまり気にしないでください。それより終わりそうですか?」
少し長いセーターの袖で手を覆い、両手で包みこむようにしてカップを持っている尾張さんが、少し首を傾げてそんなことを聞いてきた。かわいいなこんちくしょう。
「そうですね、あと30分ほどでしょうか。僕のことはお気になさらず、先に帰ってください。コーヒーありがとうございました」
「むむっ!あと30分ですね!じゃあ待ちます!」
「えっ!いやいや悪いですよそんな!もう時間も遅いですし、女性は早く帰った方がいいです」
「だからです!もう遅いので家まで送って行ってください。最近物騒ですし。ダメ、ですか?」
尾張さんと僕の家は近所ということもあり、たびたび家まで送ることがある。家が繁華街からそう遠くないということもあり、たまにタチの悪い酔っ払いがいることもある。そしてなにより可愛い。可愛いは正義なのだ。
それにしてもいつも尾張さんも残業をしているようだけど、なんの仕事をしているのだろうか。
「・・・わかりました。急いで終わらせますね。だから少しだけ待っていてもらえますか?」
「ありがとうございます。じゃあ、待ってますから」
その後急いで仕事を片付け、尾張さんと最寄駅から家までの道を歩いている。この時間が非モテの僕に許された唯一の甘酸っぱい時間だ。実は係長からの仕事を断らない理由の一部だったりもする。
「須藤さんって、運命とかって信じてますか?」
何か話す話題を探さないといけないと必死に話題を見つけていたら、尾張さんの方から突然話しかけてきた。
「運命、ですか。僕はあまりそういうスピリチュアル的なものは信じていませんので」
「そうなんですか。私はあると思うなぁ運命って!きっと物事はいろんな運命の巡り合わせでできてるんだと思うんですよ」
「はぁ・・・そんなもんですかねぇ」
「須藤さんと私が出会ったのも、実は運命の仕業だったりして・・・なんてね」
叫びたい。君が好きだと叫んでしまいたい。そんな激しい衝動に駆られてしまう。今のは反則ですし、童貞の僕はすぐ好きになっちゃいますよ。気をつけて尾張さん。
熱くなった顔を冷やすために深呼吸をし、運命と言うものについて真面目に考えてみることにした。
仮に運命と言うものが本当にあるのなら、僕の人生はあらゆる運命の選択肢の中から平凡という名の運命が寄り合って紡がれているのだろうなと考えていた。
「うぉい!イチャイチャしてんじゃねぇぞ、こら!」
冷静に運命というものを考えている時に、向こうから絵に描いたような酔っ払いが絡んできた。
尾張さん一人で帰らせなくてよかったとほっとしつつ、さりげなく酔っ払いと尾張さんの間に立つ。
「おっ、ねぇちゃん可愛いじゃねぇかよぉ〜。俺と飲みに行こうや!なぁ!」
「おじさん、やめましょう。危ないですから。奥さんが家で待ってるんじゃないですか?」
尾張さんの方に近づこうとする酔っ払いを止める。正直めちゃくちゃ怖いし酒臭いし、普段の僕なら絶対にこんなおじさんと絡まないですぐに謝る。土下座も厭わない。でも僕も一応男だったみたいで、好きな人の前ではカッコつけたくなってしまうようだ。
「邪魔だ!!!どけこら!!!」
「うわっ!!やめてください!!」
僕に止められたのが気に食わなかったのか、おじさんともみ合いになってしまった。足と足がもつれて車道に出てしまう。
「あぶない!!!」
尾張さんが叫んだ時には僕の体は宙を舞っていた。どうやら僕とおじさんは車に轢かれてしまったようだった。風景がゆっくりと流れる。
「・・さん!・・・ぅさん!!・・須藤さん!!」
最後に尾張さんの声を聞いて、僕は意識を手放した。
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柔らかな暖かさに目を覚ますと、何もない白い空間にいることに気が付いた。
尾張さんと帰っている途中に酔っ払いに絡まれて、車に轢かれたところまでは覚えている。
どこだろうここは。
「やっと起きたか〜。待ちくたびれたよこの寝坊助さんめっ!」
後ろを振り返るとそこには少女が立っていた。
「改めておはよう!我が器よ!ようやく会えたね!私は秩序の女神!しばらく付き合うことになるからよろしくぅ!」
「えっと・・・。はぁ、どうも」
展開が全く読めなかったため、思考を放棄してとりあえず挨拶に応えることにした。秩序の女神と名乗った少女の背中には羽のようなものがついており、頭には草冠が乗っている。あと、全く信じがたいことだけど、ちょこっと浮いているように見える。
事故の影響で変な夢を見ているのだろうか。
「あはは〜。これは夢じゃないんだなぁ。まずは状況を整理しないと、ノリトの頭がパンクしちゃいそうだね!長くなるからソファー出すね!あっ、コーヒーと紅茶どっちがすき?今日は特別に女神自ら淹れてあげるよ?」
「じゃあコーヒーで。あっ、砂糖とミルクはいらないです」
どこからともなく現れたソファーに促され、コーヒーをすする。めちゃくちゃうまかった。
「さて〜どこから説明したものか〜。実は私も加護与えるの初めてだからいまいち勝手がわからないんだよね!あはは〜。あんまりだらだらしてても神域閉じちゃうしな〜」
床に届いていない足をぷらぷらさせながら自称女神の少女は笑う。
しばらくして話す内容がまとまったのか、少女はこの世界について語り始めた。
「改めまして、私は秩序の女神!私たち女神は、ノリトがいた世界とは違う世界の女神なんだ。そして女神はその世界を管理する仕事をしているんだ。その世界は、ある一定の周期で均衡が崩れそうになる。本当は直接私たちが介入して均衡を整えられればいいんだろうけど、私たちの力が大きすぎて、干渉するとむしろ崩壊が早まってしまうんだよ。そこで私たち女神は、自分の加護を与えるにふさわしい器を持った魂に加護を与えて、その人達に均衡を整えてもらっているわけだ〜。ここまではよろし?」
「なるほど、それで僕があなたの器だったと?」
「ビンゴだよぉ!察しがいいねぇ!さすが日本人!いやー、ずぅううううっと探してたんだけどなかなか見つからなくてね!」
「でも僕が器なんてことあるんでしょうか?何をするのか知りませんが、世界の均衡を保つなんて大事僕にはできると思いません。自分で言うのもなんですが、平凡な人生を歩んできました。喧嘩なんてしたこともないですし、腕立て伏せだって10回がやっとのレベルなんですけど」
「大丈夫だよ!胸を張って!君は立派な器を育てたんだ!女神の加護を渡すには、それぞれ条件があるのさ。私の場合だとルールを全く破ったことのない人間の魂ってわけ。どう?思い当たる節あるでしょ?」
確かに生まれてこれまでルールというものは絶対遵守してきた自信はある。遠足のお菓子だってみんなが予算オーバーする中、きっちり金額を守っていた。・・・バナナは結局おやつなのだろうか。
「ただ私たちが渡せるのは厳密には加護の種、【才覚】なんだ。直接力を分け与えると、世界のバランスが崩れやすくなっちゃうからね。そして才覚を開花させるには、それにふさわしい経験と条件が揃わないとダメなんだ。」
「なるほど。とりあえずそこまではわかりました。その前に一つ確認したいんですけど、僕は死んでしまってここに呼ばれたんでしょうか?」
「そうだったね!じゃあ車に轢かれてから何があったか説明してあげるね!」
秩序の女神は車に轢かれたあとの情報を教えてくれた。
結論からいうと、僕は死んでいない。しかし僕は意識を失っている状況で病院の集中治療室に入っている。秩序の女神が言うには、一時的に体から魂が抜けている状態だそうだ。そして今いる空間は秩序の女神が作り出している神域と呼ばれる場所で、僕は魂の状態で存在しているとのことだった。
自分でもなにいってんだかわからないがとりあえずそういうことらしい。
「僕は一生地球に戻れないんでしょうか?」
「そこは安心して!向こうの世界救ってくれたら帰してあげられるから!もちろんお礼もするよ!頼むよノリト。私本当に困ってるんだ。他の女神が加護持ちを送り込んでいるのに私だけ送り込めてないからバカにされるんだ!この前なんか理の女神に穀潰しニートって言われたんだよ!ひどいと思わない!?そりゃ理の女神は器見つけて、その子も才覚を開花させて活躍してるけどさぁ!私だって別にサボってるわけじゃないのにさぁ!」
女神でも無職だと肩身が狭いんだなぁ。そこまで事情を聞かされてしまうと、ノーと言えない性格なんだよなぁ・・・。
「わかりましたわかりました。行かないって選択肢もそもそもなさそうですし、行ってみます。それで、向こうの世界でなにをすればいいんですか?」
「ありがとうノリト!簡単に説明すると、向こうの世界には人種と魔種が住んでるんだけど、一定の周期で魔種側に魔王が誕生するんだ!そしてその魔王が世界の均衡を崩してる原因になってる。ノリトたち器には魔王を倒してほしいんだ!」
「なんかゲームの世界みたいですね」
「そう!まさにその通り!あっちの世界にはレベルの概念とかあるよ!うわっ!そろそろ神域の時間制限がきちゃう!あんまり長い時間器に干渉しないように制限時間付きなんだよね!そろそろ向こうの世界に送りたいんだけど、聞きたいこととかある?ない?ないよね??」
「いやちょっと!山ほどありますよ!仮にあっちの世界で死んだ場合どうなんでしょうか?」
「あああ!!本当にごめん!!もう神域維持できない!!これ私が作ったマニュアルあるからこれ読んで!!あっ、加護渡すから上脱いで!早く!いくよー!!加護パーンチ!」
無理やりシャツをめくり、背中に張り手をかましてきた。そしてA4ノートくらいの大きさの冊子を渡される。なんという雑なやつ女神だろうか。
「じゃあノリト!頑張って才覚を開花させて世界救っちゃってちょうだい!よろしく!」
「ちょっとまっ!!!」
そして再び視界が暗転し、意識を手放すこととなった。
今日中に3話くらいまではかけるのではないでしょうか。
予定は未定ですが。




