飛べない鳥はただの……
ブックマークしていただけました。普通に嬉しいですね。一人でも読んでくれるなら、頑張って書きます!
猫科のこの魔獣の朝は早い。まだ薄暗いうちに寝床から起き出し、荒野に何か獲物はいないか探していた。
秋もそろそろ終わりそうなこの季節は、荒野では獲物が少なくなる。先日は鳥産卵時期でもないのに、鳥の巣を見つけたが予想通り何もなかった。久しぶりに鶏肉のご馳走にありつけるかと期待したのだが…
荒野の終わりには、広大な森が広がっている。魔素溜まりの多くある森の中なら、一年中獲物はあるのだが、荒野の狩とは勝手が違う。この猫科の魔獣はピューマという種類の魔獣なのだが、荒野最速を自負している。走るために、絞りこまれた体躯に、発達した大腿筋。少し大きめのしなやかな尻尾は、最高速度を維持したままの旋回を可能にしていた。
そんなピューマが朝の見回りで、餌を見つけることができず、荒野の岩影で目を閉じ体を休めていた。
何かの気配を感じたという訳ではないのだか、目を開けて森の方に目をやると、何処から沸いてきたのか小鳥がこちらを見て腰を抜かしている。荒野最速は、射程に入った獲物を逃すことはない。見た感じ、まだ飛べそうにないなと頭で考えている間に、発達した大腿筋は一瞬で収縮して全身に緊張が走る。
狩の時間の始まりだ。通常の逃げ足の速い獲物であれば、射程圏より若干遠いが、関係ない。体中に魔素がみなぎるのを感じる。冬になる前にご馳走にありつけそうだと、頭で考えるより体が反応している。5秒にも満たない時間で終わる狩りのはずが、ピューマは2秒後には立ちすくみ、もとの場所に戻りもう一度昼寝をすることになったのだ。
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ピューマが、狩の体制に入り、迫ってくる!小鳥は必死に森の方向に蹴り出した。
回りの景色が一瞬で後ろに流れる、大きな2本の鍵爪は力強く大地を蹴り、前世では体感したことのないスピードで小鳥の体を前へ運ぶ。体を覆う白い羽は進行方向とは逆に寝て、空気抵抗を限りなく減らしている。たまに、小石などが跳んでくるが、羽の下の鱗は超高速で跳んでくる小石をものともしない。遠くに見えた森が目前に迫ったところで、後ろを振り返ってみると、猫科の魔獣はもとの場所で昼寝につくところだった。肉食獣らしく無駄な体力は使わないという、合理的な判断なのだろう。
そして、小鳥は自分の適正を知ったのだ。元冒険者のこの男は砂漠の国の出身である。その地域では、馬車を馬の代わりに、ジリという鳥に引かせていた。水が貴重な地域では、水を多く必要とする馬では旅が出来ないのだ。そのジリは体長は2メートル前後で、走行性能は馬をもしのぎ、時速60キロで5時間以上は走り続けることが出来る。また、病気にかかりにくく、小量の水があれば活動できることから、砂漠の民には欠かせない鳥であった。馬のように賢い動物ではないので、他の地域では普及していないが、男にとっては身近な鳥であった。ちなみにこの鳥は、飛べない。一応翼があり、羽も生えているので鳥と分類されているが、正式な分類は爬虫類に近い種であった。
補食される危機は去った小鳥は、飛べないという現実に打ちのめされそうに思いながら、そろそろ止まろうかと思い、目前に迫った森に目を向けるとなんと、そこにはブラックベアーが木の実を食べている最中だった。
木の実を食べていたブラックベアーが、上体を起こし、軽く丸太ほどはありそうな右手を振り上げ、迎撃体制をとろうとした。
小鳥は、一瞬旋回して回避しようかと思案したが決意できぬ間に目前に迫っている。意を決してひときは力強く大地を蹴り、両の鍵爪を前方に投げたし、ドロップキックの体勢に入る。その際に、仰向けが怖かったので、体を捻った拍子に、体は回転し、小鳥の体は超高速の不可避の弾丸となり、迎撃体勢に入ろうとしたブラックベアーは、迎撃することなく、胸を貫かれ、絶命したのであった。
ちっとも転生しませんし、最強にもなってませんが、その辺は気長に見ていただけると嬉しいです。いきなり最強の方が、楽しいかな?




