……巣立ち
ある程度の量になるまでなるべく頻繁に投稿していきたいと、意気込んでおります
翼を広げ、遥か雲の上を滑空する。自分を遮るものなど何もないような解放感!
不意に、空が迫ってくる!空に押し潰されそうな奇妙な感覚になり目が覚めた。
まだ雛のままのようだ。空を飛ぶのはまだ先かと思いつつも、圧迫感の正体に気が付く。自分が二回り位は大きくなっているのだ。薄い灰色だった羽毛も白っぽい羽に代わっている。体が大きくなったせいで、翼が若干小さくなったように感じるが、羽の下の皮膚には鱗が付いている。
どうやら、魔獣で間違いないようだ。昨日巣を突き破ろうと嘴や足先を負傷していたが、キレイに直っている。自己回復力も高いようだ。魔獣は基本的に回復力が高い場合が多いので、それほど特殊という訳ではないだろうが、今後一人で生きていくことを考えるとこれはありがたい。
とりあえず、残してあった殻を半分ほど食べて、鳥型の魔獣について考えを巡らせる。
まず最初に思い浮かんだのは、ファイアバードだ。討伐ランクでいうと確かAランクの魔獣だったはずだが、聖獣“朱雀”の眷属である為、討伐は禁止されている。ホークブリザードやロックバードなどは実は同じ種類の魔獣らしい。
この世界には、酸素と魔素という重要な要素によって成り立っている。すべての生き物は酸素を必要としている。魔素は地中深くにまるで川のように流れていて、間欠泉のように地上に湧き出している。その魔素の濃度により、人間や魔獣は住み別けているわけだ。
基本的に、魔獣は魔素の濃い地域を好む。逆に人間は魔素の薄い地域で暮らしている。しかし、魔素は人間にも大きな恩恵をもたらしている。魔素のお陰で魔法を使うことができ、鉱石は、魔素を高濃度で浴びることにより、レアメタルへと変質する。食物も、魔素を多く含む地域で育ったものは、味、栄養、共に良いとされている。魔獣の肉も食用として利用されていて、魔素を体内に取り込むことにより、自己回復力を高め暮らしていけるのだ。
そしてこの魔素には7大属性があると言われている(実は3属性という説もあるがその話はそのうちに)火、水、地、風、雷、光、闇の7つである。
火の魔素の影響が強い地域で育つとファイアバード、水の魔素の影響が強い地域で育つとホークブリザード、というように成長するという話だ。
だが、高ランクの魔獣を期待して残念な気持ちになるのも嫌だという、訳のわからない思考に迷い、母鳥が帰ってこない時点でそんなに高ランクな訳はないと結論つけた。
現実路線で考えて、身近な鳥型の魔獣で思い付くのはブルークロー。これは嫌われものの魔獣だ。討伐ランクはE+で人を襲う魔獣ではないが、ゴミや腐肉を漁る為に嫌われている。疫病が蔓延して村が滅んだりすると腐肉を求めて集まってくるため、死神の使いなどと忌み嫌われている。
出来ればこれは却下願いたい。腐肉を漁るのは、さすがに抵抗がある。
同じ腐肉を食べる鳥型の魔獣で極楽鳥も有名だが、こちらはCランクの討伐対象魔獣である。極楽鳥は腐肉も食べるが、生きている人間も襲う為、目撃される度に討伐クエストが出される。ブルークローはせいぜい全長40~50㎝に対し、極楽鳥は翼を広げると3mを越えるものもいる。上空から急下降して大きな鍵爪で人間を掴むと、そのまま飛び去り巣に持ち帰ってしまう為、討伐には魔術師が必須である。
わがままを言うようだか、こちらも勘弁願いたい。魔獣に転生してしまったが、前世の記憶がある為、出来れば人間と友好的な関係を築きたい。
1日中そんなことを考えてすごしたが、今日は昨日の猫科っぼい魔獣も姿をみせず安心してすごせた。少し無計画かとも思ったが、本能には逆らえず、残りの殻を全部食べて身体中にエネルギーが行き渡るのを実感して、本日も眠りにつこう。
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まだ薄暗いうちに目が覚めた。体は予想通りまた大きくなっていた。成長のペースから考えて、これは完全に雛用の巣だなと確信し、巣立ちを決心する。どちらにしても、もう殻もないので、外に餌を探しにいくしか選択肢はないのである。
ただ、不安も大いにある。まず大問題として、飛べる感じがしないのだ。とりあえず、転生してはじめて巣の外に顔を出してみて、驚愕の事実を突きつけられた。
目の前に広がっていたのは、草原?いや、荒野だった。鳥の巣は木の上にあるという先入観で、全く想定していなかったが、地上型の巣。むしろ半地下型の巣だった…
何はともあれ、いきなり落下するという不安は解消されたということで、いざ荒野へ!
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と意気込んではみたものの、巣から出るのは一苦労。自分の身長位はある巣の出口に、人間の体であれば手をかけることもできるのだけれど、何せ鳥だから。翼はあるけれど、羽ばたいたところで体か浮くわけではなく、必死にもがいて這い出したころには、陽が登り始めていた。
前途は多難と言わざるを得ないかもしれないが、何はともあれ外の世界に踏み出した達成感にひたり、目的地を決めるために、改めて回りを見渡すと、死神に心臓を鷲掴みにされる感覚をまた味わうことになってしまった。
太陽が登ってきている方角に、一昨日巣を覗いたと思われる魔獣の姿を捉えたのだ。否応なしに進む方向は決められる。反対方向に進むしかないのだ。遮蔽物のない荒野で、気付かれる前に視界から消えるしかない。
幸いまだ寝ているようにみえる。一刻も早くなるべく遠くに行きたい気持ちと、ほんの些細な音もたてられない気持ちの葛藤に揺られながら、猫から目を離すことができず、そのままじりじりと後退りをしていると、予告なしに猫は目を覚ます。そして、こちらを視界にとらえるや否や、予備動作なしに、急加速して此方に向かってきた。
まだ、多少距離はあるといっても絶望しかない。逃げ切れる算段がないのだ。とはいえ、逃げるしかない!前に向き直り遥か前方に森が見える。体躯の割に大きな鍵爪で、全力で大地を蹴って森の方向に一心不乱に駆け出した。
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