ループ・エン・ダンス
夜の帳。満ち満ちる陰と寝息と、密やかな足音。
躍る躍る。躍ってゆく。高架下。あぜの小道。薄汚れた横断歩道。滑らかに足を踏み出して。汗をうなじにうかばせて。
小さく黒目がちの瞳が十六夜の月に反射している。
私はじっと、彼女を見ていた。
私の吐息と彼女の吐息は荒く白い。それぞれは同じ方向に流れ、同じだけの大きさと濃さで宙に漂い、同じ早さで消えた。そう見えた。だから彼女が躍っているようには感じられなかった。それとも私も躍っていただろうか。彼女と共に夜へと繰り出して。
寒かった。
私は彼女を見ていた。
彼女の躍りは単調でしかし奔放的。
熱心であるだろう。
彼女について考える。身体を心象をイメージする。そういう時間も多かったけれど、いずれ消える。
思考に意味はあるか。私の頭はちっぽけで、頭の中の世界はちっぽけで、その世界の中に彼女の姿があった。彼女は紫色のアイスクリームを食べ、柔らかい毛布を引き寄せて眠る。夕立ちに気づいて天を見上げる。
いずれ消える。
だから彼女がしていることもきっとちっぽけなのだろう。少なくとも私の中で。彼女はとても熱心に踊っている。
彼女の姿が小さいならば、私の姿が大きくなる術はない。
私はなんと小さいものだろう。ならば彼女もやはり小さいのだろう。月は十六夜、生き物の目のように、それは穏やかに。彼女の靴の音は、その引力に寄せられ折り畳まれた。波のように。
躍る躍る。彼女は躍る。
波の音は聞こえない。草木の息の音は聞こえない。星は不安定に、瞬いているのだろう。
私はいつかそれを見ているのだろう。彼女もいずれそれを見るだろう。
私はいつか彼女と共にそれを見たい。そして静かに、笑いあいたい。
そっと視線を通わせる、ちっぽけな私たちは。
猫の声が遠くから、微かに響いてくる。彼女ははっとする。視線を、斜めにずらす。流れるステップは変えないで。
躍る。
私は彼女を見ている。
危ない刑事を見ながら、二時間ちょっとでゆっくり書いたもの。
表現としての文章は自己満足で良い。だからこそ人に見せる文章をつくるのは苦痛を伴う。
そう聞いたことがあります。
この文章は、はっきり正直、前者ですね。
でも、楽しんでもらえることを望んでいます。