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カリスマ吸血鬼の森羅万象  作者: ネツアッハ=ソフ
4/12

闇医者と再会した

 「・・・・・・此処は」


 見慣れない天井だった。所々黒く薄汚れた天井。此処は何処だ?壁には古風なアンティークの時計が。


 時刻は・・・昼の12:23頃か。・・・ふむ?


 ベッドから起き上がろうとして、気付く。身体が重い。いや、これは・・・。俺は横を向いた。


 其処には———


 「すぅ~・・・すぅ~・・・・・・」


 俺の隣には、俺をがっしりと抱き締めて眠るリーンの姿があった。俺は戸惑った。


 押し付けられる胸の柔らかさとか、女性特有の(にお)いとか、そんなものは今はどうでも良い。


 心底どうでもいい。問題なのは・・・。


 「・・・・・・動けん」


 身体を動かそうとしても、リーンに強く抱き締められて身動きが取れないのだ。どうした物か。


 「んっ・・・シン・・・・・・」


 リーンが耳元でささやく様に呟く。寝言(ねごと)か・・・。


 その安心し切った表情を見て、俺は諦めた様に息を吐く。そっと自由な方の手でリーンの頭を撫でた。


 すると、安心した様にリーンの顔がほころんだ。


 やれやれ・・・。まったく、こんなに嬉しそうな顔をして。


 「ありがとうな、リーン・・・」


 俺の頭の中には、暴走する俺を助けようとエナジードレインするリーンの姿が。


 下手をすれば、リーンも暴走するエネルギーに呑まれる危険性もあったのに。リーンはそれでも、俺を助ける為に迷わずエナジードレインをした。


 あれだけ膨大なエネルギーだ。吸収しきれずにパンクする危険もあった筈だ。それなのに・・・。


 俺はリーンを抱き寄せる。すると、もぞもぞとリーンが身動(みじろ)ぎした。


 「んっ・・・。シン・・・・・・?」


 リーンの(まぶた)が薄っすらと開いた。俺とリーンの視線が合う。


 どうやら目を覚ましたらしい。俺の顔を見て、きょとんっとした顔をしている。


 「目を覚ましたか?リーン」


 前にリーンに言われた言葉を、そのまま返した。すると、リーンの瞳に涙が溜まってゆく。


 「シンっ!!!」


 がばっと俺に強く抱き付くリーン。強く強く俺を抱き締めながら、泣きじゃくる。


 俺はそれを、優しく抱き締め返した。


 「すまない、リーン。心配をかけたな」


 「よかった・・・ひっく。シンが目を覚ました・・・・・・」


 「ああ、俺は大丈夫。大丈夫だから」


 「うん・・・うんっ・・・・・・」


 抱き締め合う俺達二人。リーンは泣きじゃくり、俺は微笑んでいた。


 と、その時———ガチャッと部屋のドアが開いた。気配は全く感じなかったのだが・・・。


 「うん?ようやく目を覚ましたか、シン」


 気だるげな声が部屋に響く。入ってきたのは白衣に無精髭の男だった。


 白髪の混じったオールバックの黒髪に眠たげな瞳。くたびれた白衣をだらしなく着ている。


 俺はこの男に見覚えがあった。


 「お前は・・・闇医者の白山(しろやま)クロトか?」


 「闇医者は余計だ。久しぶりだな・・・坊主(ぼうず)


 闇医者、白山クロトは気だるげに挨拶(あいさつ)した。その怠惰(たいだ)な姿に俺は苦笑する。


 リーンは警戒心を剥き出しにして、クロトを見る。


 「シン・・・この人は誰?・・・只者じゃないよ」


 「ああ、こいつは———」


 「初めまして、嬢ちゃん。俺の名は白山クロト、これでも医者をしている。一応、昔はあらゆる拳法を極めた事もあって、人体の構造は熟知しているからな」


 俺のセリフを横から取って、クロトが挨拶した。その表情は、気だるげに笑っている。


 俺は溜息混じりに補足(ほそく)する。


 「こいつは、俺が少年の頃の拳法の師だ。これでも拳法の腕は怪物と呼ばれていた程に強い」


 「・・・・・・なるほどね」


 俺の説明に、リーンは納得した様に呟く。


 ———そう。この男、気だるげだが隙は全く無いのだ。今の俺でも隙を突くのは不可能だろう。


 突くべき隙が全く無いから・・・。常に脱力しているのも、無駄な力を抜いているからだ。


 そんなクロトが、俺とリーンの姿を見て不敵に笑った。


 「いやはや、まさかあの坊主がこんな可愛い彼女を作るなんてな」


 「っ!!?」


 リーンの顔が、急激に真っ赤に染まった。やれやれ。俺は呆れた様に溜息を吐く。


 「そんなにいじめてくれるな。リーンは俺にとって、守るべき大切な存在なのだから・・・」


 「ほう・・・?」


 俺の言葉に、クロトは更に面白そうな瞳をリーンに向ける。リーンは真っ赤な顔で、あうあうと呻く。


 本当に、やれやれだな。俺は更に溜息を吐くと、ベッドから起き上がった。


 「・・・シン?」


 リーンが俺を不思議そうに見詰める。俺はハンガーに掛けてあった黒のコートを羽織ると、首だけ振り返りリーンに言った。


 「今の俺は弱い。それに、弱点だらけだ。それを克服(こくふく)する為に修行しに行くぞ」


 「ちょっ、ちょっと待ってよ!!一体何処に行くつもり!?」


 慌てて俺を止めるリーン。そんな彼女に、俺は不敵な笑みを浮かべて答える。


 「決まっているだろう?ユウトの馬鹿(ばか)の所だよ」


 そう答えて、今度こそ俺はドアを開いた。そんな俺を、背後からクロトが声を掛ける。


 「おい、シン!!修行に行くなら俺も連れていけ」


 「・・・・・・何だって?」


 思わず、俺は振り返る。恐らく、今の俺は怪訝な顔をしているだろう。


 そんな俺に、クロトはクツクツと陰鬱(いんうつ)に笑いながら答えた。


 「なに、久々にお前を鍛え直そうと思ってな・・・」


 「・・・・・・まあ、別に俺は構わないが」


 そう言って、俺は溜息を吐いた。

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